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新興バイオ医薬品企業の台頭、新たなドラッグ・ラグ生む…日本に開発を呼び込むためには

更新日

前田雄樹

海外新興バイオ医薬品企業の台頭が、新たなドラッグ・ラグを生んでいます。世界の新薬開発パイプラインに占める新興バイオ医薬品企業のシェアは7割近くに達しますが、多くは日本に拠点を持っておらず、開発を呼び込むための取り組みが求められています。

 

 

欧米承認の新薬、72%が国内未承認

「ドラッグ・ラグ」が再燃しています。日本製薬工業協会(製薬協)のシンクタンク、医薬産業政策研究所によると、2020年までの5年間に欧米で承認された新規有効成分含有医薬品は246品目ありましたが、このうち72%にあたる176品目が日本では承認されていませんでした。欧米で承認された新薬に占める国内未承認薬の割合は16年(までの5年間)以降、上昇し続けており、20年は16年と比べて16ポイント上昇しています。

 

【国内未承認薬数の推移】欧米で承認された新規有効成分含有医薬品の数(直近5年間):188/206/208/217/235/226/246|うち、国内未承認の数(同):123/127/117/134/154/157/176|国内未承認薬の割合:65%/62%/56%/62%/66%/69%/72%|※医薬産業政策研究所「ドラッグ・ラグ:国内未承認薬とその特徴」(政策研ニュースNo.63、2021年7月)をもとに作成

 

ドラッグ・ラグは2000年代前半にも1度、社会的に大きな問題となり、このときは▽医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議の設置(2010年)▽新薬創出・適応外薬解消等促進加算の試行導入(同)▽PMDA(医薬品医療機器総合機構)の承認審査体制の拡充――などの施策によって一定の解消が図られました。PMDAは11年以降、新規有効成分の審査で世界トップレベルの速さを維持しており、薬価上のインセンティブによって開発投資も拡大。いわゆる「審査ラグ」はほぼ解消し、「開発ラグ」も大幅に縮小しました。

 

新薬の65%、新興バイオが開発

一方、近年のドラッグ・ラグの背景として新たに指摘されているのが、海外新興バイオ医薬品企業(Emerging Biopharma=EBP)の台頭です。

 

米IQVIAの調査研究機関IQVIA INSTITUTEが今年2月に公表したレポート「Global Trends in R&D Overview through 2021」によると、21年の世界の新薬開発パイプライン(臨床第1相〈P1〉試験~承認申請)のうち、EBPによるものの割合は65%に達し、30%ほどだった01年から大きくシェアを拡大。反対に、大手製薬企業(Large Pharma)のシェアは01年の49%から21年には24%まで低下しました。IQVIA INSTITUTEのレポートでは、EBPを「年間売上高5億ドル未満かつ年間研究開発費2億ドル未満」、大手製薬企業を「年間売上高100億ドル超」と定義しています。

 

しかも最近では、大手製薬企業と組むことなくEBPが承認取得まで自力で開発し、販売も自ら行うケースが増加。海外EBPの多くは日本に拠点を持っておらず、世界の創薬をリードするEBP由来の新薬が日本に入ってきづらい状況になっています。IQVIA  INSTITUTEのレポートによると、21年に米国で申請された新薬の53%はEBP由来で、同じ年に発売されたEBP由来の新薬の76%はEBPが自ら上市まで行っていました。いずれも、その比率は近年上昇しています。

 

【新興バイオ医薬品企業による新規有効成分の申請・発売】新規有効成分のFDA申請数:新興バイオ医薬品企業以外が創製の数と新興バイオ医薬品企業が創製も数の比較グラフ|新興バイオ医薬品企業が創製した新規有効成分の発売状況:新興バイオ医薬品企業が創製し、ほかの企業が発売の数と新興バイオ医薬品企業が創製し、自社で発売の数の比較グラフ|IQVIA INSTITUTE「Global Trends in R&D Overview through 2021」(2022年2月)をもとに作成

 

役割増すCRO

EBPが新薬の研究開発で重要な役割を果たすようになる中、日本だけは様相を異にしています。

 

IQVIA INSTITUTEのレポートによると、各国の新薬開発パイプライン(P1試験~承認申請)に占めるEBPの割合は、米国62%、欧州47%、中国83%、韓国76%に対し、日本は22%にとどまります。IQVIAジャパン臨床開発事業本部の花村伸幸・臨床開発統括部長は「EBPに日本で開発してもらえるような環境を整えていく、あるいは日本でEBPを増やしていく、そうした政策が必要ではないかということがトレンドから見えてくる」と指摘します。

 

日本の創薬力という観点からすると、国内EBPの育成はもちろん必要なことですが、日本の患者が革新的新薬に今後もアクセスし続けられるようにするには、海外EBPによる新薬開発をいかにして日本に呼び込むかが大きな課題となります。

 

単独開発増える

「日本のファーマと海外EBPがアライアンスをして日本で開発することも考えられるが、世界のトレンドを見ると、CROを国内治験管理人としてEBPが単独で開発するケースが増えていく」と花村氏は指摘。EBPが単独志向を強める中、開発を呼び込むにはCROの役割が増しており、IQVIAは昨年、EBPに特化した開発支援サービス「IQVIA Biotech」を日本とアジア太平洋地域でも開始しました(欧米では先行して19年にスタート)。

 

花村氏は「特に日本に本社がない海外EBPに対しては、われわれCROが国内治験管理人として臨床試験を実施することに加え、薬事コンサルテーションから承認申請までフルサービスで支援していくことが重要」とし、加えて▽英語でのコミュニケーション力を強化▽日本独自の運用を可能な限り排除▽治験コストを削減(1施設あたりの症例集積性の向上、デジタル化、セントラルIR導入などによる標準化)――といった取り組みで海外EBPが日本で開発を行いやすい治験環境を整備する必要があると強調します。

 

もちろん、海外EBPによる新薬開発を日本に呼び込むには、日本市場が魅力的であることが大前提です。毎年改定の導入や新薬創出加算の縮小、再算定の強化など、薬価抑制策が続く日本市場に対しては最近、外資系大手製薬企業からも相次いで投資継続への不安感が示されています。米国研究製薬工業協会(PhRMA)によると、加盟企業の投資額はグローバルで15年から20年にかけて年平均5.9%拡大したのに対し、日本は年平均1.9%のマイナス。日本市場を敬遠する動きが鮮明になり、ドラッグ・ラグではなく「ドラッグ・ロス」の懸念も指摘される中、イノベーションを評価する姿勢をアピールしていくことも急務です。

 

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