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【低身長】小児の成長ホルモン補充療法に新たな治療選択肢…週1回投与の「エヌジェンラ」発売

更新日

亀田真由

幼いころから中学・高校に上がるまで続く低身長に対する成長ホルモン補充療法。長期間、連日の皮下注射が必要となることから小児患者やその保護者の負担が大きく、治療アドヒアランスの維持が課題となっています。こうした中、今月、ファイザーが週1回投与の成長ホルモン製剤「エヌジェンラ」を発売。新たな治療選択肢として期待されています。

 

 

低身長 治療対象は全体の4割

4月27日、ファイザーの成長ホルモン製剤「エヌジェンラ皮下注」(一般名・ソムアトロゴン)が発売されました。低身長に対する成長ホルモン補充療法としては、初めてとなる週1回投与の製剤。従来の成長ホルモン製剤は連日投与が必要で、同薬の登場で患者や医療従事者の負担軽減が期待されています。

 

低身長の診断はSD(標準偏差)スコアによって行われ、マイナス2SD以下の場合、低身長とされます。マイナス2SD以下に該当する人は全体の2.3%いるとされますが、その多くは体質や遺伝によるもので、治療対象となるのは4割程度です。

 

治療対象となる低身長の原因としては、成長ホルモン分泌不全性低身長症(GHD)などの内分泌疾患のほか、プラダー・ウィリー症候群や軟骨無形成症といった先天性疾患、SGA性低身長症(SGA=Small-for-Gestational Age、在胎期間の標準体格よりも小さく生まれることによる低身長)などが知られています。低身長の原因となる疾患の多くは、成長ホルモン製剤によるホルモン補充療法の対象となります。

 

【低身長の原因と治療】▼病気とは考えにくいもの/家族性/体質性/思春期遅発型/▼治療対象となるもの(オレンジはホルモン補充療法の対象)/成長ホルモン分泌/不全性低身長症/甲状腺機能低下症/クッシング症候群/ターナー症候群/プラダー・ウィリー症候群/ヌーナン症候群/軟骨無形成症/軟骨低形成症/思春期早発型/SGA性低身長症*/腎不全/低栄養/など|※*SGA性低身長症=在胎期間の標準体格より小さく生まれたことによる低身長/ファイザープレスセミナーの講演資料などをもとに作成

 

治療対象となる低身長で最も多い原因は、成長ホルモン分泌不全性低身長症(GHD)。成長ホルモンには、肝臓を経由して成長因子のIGF-1(ソマトメジンC)を作り出し、骨の成長を促す作用がありますが、GHDの患者は成長ホルモンの分泌が弱くなっており、病的な低身長となります。

 

GHDには脳腫瘍など別の疾患が隠れていることもまれにありますが、ほとんどは特別な原因のない、特発性の慢性疾患です。多くの場合、成長ホルモン補充療法を適切に行えば、身長の伸びは改善します。

 

アドヒアランスの維持が課題

成長ホルモン補充療法に使用されるのが、皮下投与の成長ホルモン製剤です。一般に、乳幼児期から治療を開始し、小児期の成長が完了するまで(中学生・高校生になるまで)治療を継続します。成長ホルモンを含むペプチドホルモンは半減期が短く、この間、患者は連日、成長ホルモン製剤を投与しなければなりません。代謝障害が残る重度の患者は、成人後も投与を続ける必要があります。

 

【国内で販売されている成長ホルモン製剤】小児GHD=成長ホルモン分泌不全性低身長症/成人GHD=成長ホルモン分泌不全症<一般名/製品名/社名/適応/発売年>連日投与製剤/ソマトロピン/「ジェノトロピン」ファイザー/1988年/「ノルディトロピン」 ノボノルディスク/1988年/「ヒューマトロープ」日本イーライリリー/1989年/「グロウジェクト」JCRファーマ/1993年/「ソマトロピンBS『サンド』」サンド/2009年/週1回投与製剤/ソマプシタン/「ソグルーヤ」ノボノルディスク/成人GHD/2021年/ソムアトロゴン/「エヌジェンラ」ファイザー/小児GHD/2022年/小児GHD/成人GHD/ターナー症候群に伴う低身長など※製品によって異なる|※各製品の添付文書・インタビューフォームなどをもとに作成

 

成長ホルモン製剤は長期にわたる投与が必要となることもあり、アドヒアランスの維持が課題です。成長ホルモン補充療法を始めると、最初の2年はぐんと背が伸びるものの、その後は緩やかになるため、この時期に治療から脱落してしまう患者も少なくありません。注射の手間や痛みといった負担も小さくなく、半数以上の患者は投与をやめたいと考えたことがあるといいます。一方で、身長の伸びと治療アドヒアランスには相関があるといわれており、十分な治療効果を得るには毎日の投与が欠かせません。

 

こうした低身長治療の課題を解決すると期待されているのが、骨端性閉鎖を伴わない小児GHDを対象に承認されたエヌジェンラです。同薬はヒト絨毛性ゴナドトロピンに由来するC末端ペプチド(CTP)とヒト成長ホルモンを融合した融合タンパク質で、CTPを結合することで半減期を延長し、長時間作用を可能にしています。米OPKOヘルスが開発し、ファイザーは2014年に全世界での開発・商業化権を取得しました。22年2月には欧州でも承認されています。

 

患者やその保護者の負担を軽減するため、同薬は投与前の溶解や充填がいらない使い捨ての製剤として開発されました。海外で行われた治療アドヒアランスを評価する臨床第3相(P3)試験では、(1)最初の12週間に連日投与製剤のソマトロピン、次の12週間にエヌジェンラを投与(2)最初の12週間にエヌジェンラ、次の12週間にソマトロピンを投与――の2グループで治療に伴う負担感を表す「全般的生活障害総スコア」を検証したところ、エヌジェンラのスコアが有意に低いとの結果が示されました。同試験では、エヌジェンラのほうが注射を忘れる患者の割合が低いことも確認されています。

 

ノボの「ソグルーヤ」小児GHDでP3

週1回投与の成長ホルモン製剤としては、ノボノルディスクファーマが昨年12月、成人の成長ホルモン分泌不全症(成人GHD)を対象に「ソグルーヤ皮下注」(ソマプシタン)を発売しました。現在、小児GHDとSGA性低身長症を対象に国際共同治験を進めています。同薬はアルブミン結合部位を持つヒト成長ホルモン誘導体で、内因性アルブミンと可逆的に非共有結合することで半減期を延長しています。

 

【成長ホルモン製剤の国内開発パイプライン】小児GHD=成長ホルモン分泌不全性低身長症/成人GHD=成長ホルモン分泌不全症/オレンジは週1回投与製剤/<一般名/開発コード製品名/開発段階/適応>ノボ/ソマプシタン「ソグルーヤ」/P3/小児GHD/P2/SGA性低身長症/ファイザー/ソマトロピン/「ジェノトロピン」/P3/プラダー・ウィリー症候群における体組成改善/JCRファーマ/ソマトロピン「グロウジェクト」/P3/SHOX異常症における低身長症/JR-142―/P2/小児GHD/デンマーク・アセンディス/ロナペグソマトロピン/―/P3/小児GHD*/P3/成人GHD*|※*臨床試験はPRAヘルスサイエンスが実施各社のパイプライン、PMDAが公開している治験情報をもとに作成

 

週1回投与製剤ではこのほか、JCRファーマが「JR-142」を小児GHDの適応で開発。JCR独自技術の「J-MIG Sysyem」を適用し、改変型アルブミンを融合することで血中半減期を延長させた持続型製剤で、23年にはP3試験を開始する予定です。

 

国内ではさらに、デンマーク・アセンディスが開発したソマトロピンのプロドラッグ製剤のP3試験が進行中。小児GHD治療薬として、「Skytrofa」の製品名で昨年8月に米国で、今年1月に欧州で承認されています。

 

「成長ホルモンが発見されてから昨年で100年目。今年、週1回の注射が登場し、成長ホルモン治療は新しい時代を迎えようとしています。新たな製剤により、子どもたちの治療負担の軽減や治療効果の向上を期待します」。ファイザーが今月開催したプレスセミナーで、たなか成長クリニック(東京都世田谷区)の曽根田瞬副院長はこう語りました。治療としても、市場としても、各社の開発する長期作用型製剤が新たなフェーズを切り開いていきそうです。

 

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