市場拡大が著しく、開発競争も熾烈ながん領域。国内外の製薬大手の後期開発パイプラインを、2022年3月時点で各社が公表している情報をもとにまとめました。(全5記事。全記事まとめはこちら)
情報は2022年3月の調査時点で各社がホームページで公表していた情報に基づく。いつ時点の情報かは会社によって異なるため、承認・申請など直近のイベントが反映されていない場合もある。 |
スイス・ロシュ
【新規有効成分】抗TIGIT抗体tiragolumab 22年申請予定
がん免疫療法では、抗CD20/CD3二重特異性抗体のmosunetuzumab(開発コード・RG7828)を濾胞性リンパ腫治療薬として申請中。2022年には、同glofitamab(RG6026)や免疫チェックポイント阻害薬の抗TIGIT抗体tiragolumab(RG6058)を申請予定です。免疫チェックポイント分子をターゲットとした二重特異性抗体では、PD-1とLAG3を標的とするRG6139や、PD-1とTIM3を標的とするRG7769などを開発しています。
がん細胞の増殖に関わるPI3K/Akt経路に作用する薬剤として、AKT阻害薬ipatasertib(RG7440)とPI3Kα阻害薬inavolisib(RG6114)を開発中。ipatasertibは、22年中に去勢抵抗性前立腺がんの適応で申請を行う予定です。選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)のgiredestrant(RG6171)も、エストロゲン受容体陽性/HER2陰性転移性乳がんのセカンドラインとサードラインを対象に22年の申請を予定しています。
【適応拡大など】テセントリク、腎細胞がんアジュバントで22年申請へ
主力の抗PD-L1抗体アテゾリズマブ(製品名・テセントリク)は、幅広いがん種で早期への適応拡大に向けた臨床第3相(P3)試験を実施中。22年は、腎細胞がんに対するアジュバント療法や、転移性尿路上皮がんに対するファーストラインでの申請を控えています。国内では非小細胞肺がんのアジュバント療法を申請中です。
米ファイザー
【新規有効成分】買収で獲得の血液がん治療薬がP2
血液がん領域では、多発性骨髄腫治療薬の抗BCMA/CD3二重特異性抗体elranatamab(開発コード・PF-06863135)のP3試験が進行中。21年11月のカナダ・トリリウム買収で獲得したCD47-SIRPα融合タンパク製剤「PF-07901801」は血液がんを対象にP2試験を行っています。同薬はマクロファージの貪食作用を抑制するがん細胞の「don’t eat meシグナル」を阻害する作用を持つ薬剤です。
新規有効成分ではこのほか、抗PD-1抗体sasanlimab(PF-06801591)もP3試験を実施中。昨夏には米アルビナスとの提携を拡大し、エストロゲン受容体を標的とするタンパク質分解誘導化合物「ARV-471」の共同開発を開始しました。CDK4/6阻害薬パルボシクリブ(製品名・イブランス)で得た乳がん領域での経験を生かし、早期開発を目指します。日本では、欧米で承認済みのSMO阻害薬glasdegibやPARP阻害薬talazoparibもP3試験が進行中です。
スイス・ノバルティス
【新規有効成分】ベイジーンから導入のPD-1抗体を申請
新規有効成分では、中国のベイジーンから導入した抗PD-1抗体tislelimab(開発コード・VDT482)を食道がんで申請中です。ノバルティスは21年に米国、欧州、日本での同薬の開発・販売権を獲得しており、上咽頭がんと非小細胞肺がんでも22年中の申請を予定しています。免疫チェックポイント阻害薬では、血液がんを対象に抗TIM3抗体sabatolimabも開発中です。
去勢抵抗性前立腺がんに対しては、放射性医薬品177Lu-PSMA-617(AAA617)を申請中。標準治療への上乗せ効果を検証したP3試験では、標準治療と比べて死亡リスクを38%減少させることが確認されており、ノバルティスは新たな治療パラダイムになると期待しています。
日本では、昨年米国で承認された慢性骨髄性白血病治療薬asciminib(製品名・Scemblix)が22年3月に承認を取得。既存のチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)とは異なる作用を持ち、既存治療に抵抗性・不耐容の患者に対する治療選択肢として期待されています。PI3Kα阻害薬alpelisib(Piqray)などもP3試験の段階にあります。