すごく個人的な経験で恐縮ですが、私は書いて発信することでいろんな人たちとつながってきました。ツイッターもnoteもそうですし、このコラムもその1つです。自分がどんな人間なのか一言で言うのはすごく難しいことですが、発信を続けることで私という人間の輪郭が少しずつ見えてきて、周りの人にも理解されていくということを、私は身をもって経験してきました。
なぜこんなことを書いているかというと、先月、日本製薬工業協会(製薬協)がtwitterアカウント(@Seiyakukyou)を開設したというニュースに触れたからです。個人的にはとてもうれしく思い、すぐにフォローしました。
製薬企業の情報発信はさまざまな法律やルールによって規制されており、一般向けに好き勝手な情報提供はできないことになっています。社会とのコミュニケーションが取りづらい産業であることは重々承知していますが、それでも、コロナ禍でサイエンスと社会の溝が広がったと感じている私としては、それを埋める情報発信を何とか業界側からできないものかと思っていました。だからこそ、製薬協のツイッターアカウント開設を喜び、期待を持ったわけです。
製薬協に期待しているのは、社会との溝を埋めるような情報発信です。製薬産業はとかく誤解を受けがちで(「儲けすぎ」「利益優先」など)、デマの標的にもなりやすい(新型コロナワクチンをめぐってもさまざまなデマが飛び交っています)。それにいちいち反論してほしいということではなくて、製薬企業は何のために薬をつくっているのか、そのためにどんなことをしているのか、丁寧に発信してほしいなと常々思っています。
発信しないとわかってもらえない
私の理解はすごくシンプルで、製薬企業は患者さんを助けるために事業を行っている。建前でもなんでもなく、これが本心です。もし儲けようと思うのなら、製薬は非常にリスクが高く、違う事業を選んだほうが賢明だと思います。薬が世に出る確率は3万分の1とも言われ、研究開発には膨大な費用と時間が必要です。患者さんに薬を届けるために製薬企業は稼がないといけませんし、製薬企業で働く人たちは患者さんに少しでも早く薬を届けるために日々奮闘しています。
米国研究製薬工業協会(PhRMA)のツイッターアカウント(@PhRMA)は8.1万人のフォロワーを抱え、新薬開発への取り組みや政策に対する見解を発信しています。2.5万人にフォローされている欧州製薬団体連合会(EFPIA)のツイッターアカウント(@EFPIA)も同様です。病気のこと、ライフサイエンスのこと、創薬研究のこと、臨床試験のこと、医薬品ビジネスのこと、薬価をはじめとする政策のこと…。製薬協にも、こうしたことを1つずつ、わかりやすく、地道にコツコツと伝えていってほしいなと思うんです。
冒頭に書いた通り、発信することで周りは理解しやすくなりますし、逆に言うと発信しなければ決してわかってもらえません。コロナ禍で医薬品やワクチンの開発に関心が高まっています。今が絶好のチャンスなのではないでしょうか。
製薬協のツイッターには、製薬産業と社会が対話するための窓口であってほしいと思います。フォロワー数は、この原稿を書いている3月15日夕方の時点で1412人。頑張れ、製薬協。
※コラムの内容は個人の見解であり、所属企業を代表するものではありません。
黒坂宗久(くろさか・むねひさ)Ph.D.。Evaluate Japan/Consulting & Analytics/Senior Manager, APAC。免疫学の分野で博士号を取得後、米国国立がん研究所(NCI)や独立行政法人産業技術総合研究所、国内製薬企業で約10年間、研究に従事。現在はデータコンサルタントとして、主に製薬企業に対して戦略策定や事業性評価に必要なビジネス分析(マーケット情報、売上予測、NPV、成功確率や開発コストなど)を提供。Evaluate JapanのTwitterの「中の人」でもあり、個人でもSNSなどを通じて積極的に発信を行っている。 Twitter:@munehisa_k note:https://note.com/kurosakalibrary |