[ロイター]ウクライナに侵攻するロシアに対して西側諸国が経済制裁を科す中、欧米の薬品・医療機器メーカーは、経済制裁によってロシアへの医薬品・医療機器の供給が難しくなる可能性があると警戒している。
米国、英国、EU(欧州連合)、カナダによるロシアへの経済制裁は、医薬品・医療機器には適用されず、業界にはこれらの製品を供給し続ける国際人道法上の責任があると、業界団体や政策専門家、企業関係者は述べている。
国際的な援助団体は、ロシア軍が侵攻するウクライナに重要な医薬品を供給し続けるよう働きかけている。ウクライナでは、87万人以上が国外に脱出し、数百万人が空爆から身を守るシェルターを求めている。そうした状況の中、ウクライナの薬局ではすでに医薬品の不足が報告されている。
自動車から映画まで、多くの欧米企業がロシアでの製品販売やサービス提供を停止すると発表している。一方、医薬品、医療機器、食料に関する取り引きは、制裁下でも許可されている。
しかし、ロシアの銀行を国際金融システムから締め出したり、海運大手が同国への航路を止めたりすることで、医薬品の供給にも支障をきたす可能性がある。
SWIFT排除など影響
欧州の医療機器業界団体「メドテック・ヨーロッパ」は、ロシアの7つの銀行が国際決済システム「SWIFT」から切り離されたことや、ウクライナへの攻撃が依然として続いていることから、製品供給に支障が生じる可能性があると指摘している。SWIFTにアクセスできなければ、ロシアとの取り引きは困難になる。
メドテック・ヨーロッパの広報担当者は「銀行送金の凍結は、EUからロシアへの医療機器の輸出に影響を及ぼす可能性がある。われわれはその程度を調査しており、事態の推移を注視している」と述べた。
欧州製薬団体連合会(EFPIA)は声明を出し、ウクライナと近隣のEU加盟国、そしてロシアにも、必要とする人に医薬品やワクチンを安全に届けるよう求めた。米国の製薬業界団体であるPhRMA(米国研究製薬工業協会)も、医薬品とその製造に必要な原材料については、引き続きすべての制裁から除外されることを支持するとの見解を示している。
ジョージタウン大の公衆衛生法の専門家、ローレンス・ゴスティン氏は、国際人道法の下、すべての人々は医薬品やワクチンといった医療物資や医療サービスを利用する権利を有していると話す。ゴスティン氏は「これまでも、紛争時に必須医薬品を入手する権利が侵害されたことは少なくない」とし、「制裁を科す側も、医薬品などの医療用品を除外することになっている。それでも、制裁は医療サービスやサプライチェーンを混乱させる」と指摘している。
ユーロスタットのデータによると、EUは2000年に65億ユーロ(72億3000万ドル)分の医薬品を供給したが、これはEUの対ロ輸出全体の8.4%にあたる。メドテック・ヨーロッパによると、2021年9月までの1年間でEUからロシアに約16億ユーロ分の医療機器が送られている。
米国政府のデータによると、2021年に米国からロシアに輸出された製品のうち、医薬品・医療機器は8%を占めている。ロシアには、3億5500万ドル相当の医薬品と、1億5700万ドル相当の医療機器が輸出された。
デンマーク・ノボ「できることはすべてやる」
海運大手のAPモラー・マークス(デンマーク)は今月2日、港や関税での大幅な遅延により、医薬品を含むロシア向け貨物が損傷したり使えなくなったりする可能性があると警告した。
製薬大手では、ノバルティス(スイス)、ノボノルディスク(デンマーク)、ルンドベック(同)、グラクソ・スミスクライン(英)、イーライリリー(米)などが、患者が必要な医薬品を入手し続けられるよう取り組んでいると発表した。
糖尿病治療薬の世界最大のメーカーであるノボノルディスクは「ウクライナとロシアへの供給を継続するため、できることはすべてやる」としているが、制裁によってそれが難しくなることが予想される。ウクライナへの供給は今のところ十分だが、トラック運転手の不足によって国内での流通に問題が生じている。同社は電子メールで発表した声明で「医薬品の供給は制裁によって間接的に影響を受ける可能性がある。ロシアの市民が薬を受け取れるよう、あらゆる策を講じる」と強調した。
うつ病など精神疾患の治療薬を専門とするルンドベックは、ロシアで薬を必要とする患者への供給を継続するとしている。同社のヤコブ・トルストラップ最高商務責任者は「現在の制裁の範囲内で、ロシアの患者への医薬品供給を可能な限り行う」と文書でコメントした。
(Francesco Guarascio/Michael Erman/Stine Jacobsen、翻訳:AnswersNews)