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連載・コラム

特色生かし産業育成…地域バイオコミュニティの取り組み|連載:バイオコミュニティの萌芽(4)

更新日

亀田真由

福岡バイオコミュニティの認定キックオフイベントの様子(久留米リサーチ・パーク提供)

 

バイオ戦略では、国際的なイノベーションハブを目指す「グローバルバイオコミュニティ」とともに、地域の特色を生かした取り組みを展開する「地域バイオコミュニティ」の形成を掲げています。昨年6月には、グローバルより一足早く▽北海道▽鶴岡(山形県)▽長岡(新潟県)▽福岡――の4カ所が地域バイオコミュニティに認定されました。

 

■連載:バイオコミュニティの萌芽

(1)東西で始まったコミュニティ形成の動き

(2)集積から連携へ…バイオコミュニティの目指すところ

(3)「神戸」と「湘南」それぞれが目指すエコシステム

 

4地域が認定

第1弾として地域バイオコミュニティに認定された4地域は、▽世界に通用する強み(特色)がある▽研究開発機関や自治体など、コミュニティの主体やキーパーソンがいる――などの要件を満たしたとして認定を受け、地元企業との連携を通じてバイオ産業の振興・創出を目指します。今回は、これら4地域に加えて「育成バイオコミュニティ」として東海が登録されました。地域バイオコミュニティは毎年公募されることになっており、東海は来年の認定を目指しています。

 

【地域バイオコミュニティの一覧(2021年6月選定)】▼地域バイオコミュニティ(認定)<コミュニティ名><主要プレイヤー><特徴・取り組みの概要>北海道プライムバイオコミュニティ/北海道大、北海道、北海道科技総合振興センターなど/一次産業のスマート化による生産性向上や、林業管理技術の高度化など|鶴岡バイオコミュニティ/鶴岡サイエンスパーク(慶応大)、山形県鶴岡市など/慶応大先端生命科学研究所を中心とする研究機関、教育機関、バイオベンチャーの集積。高機能バイオ素材やバイオ医薬など|長岡バイオコミュニティ/新潟県長岡市、長岡技科大、長岡高専、JA越後長岡など/コメや未利用のバイオ資源を活用したバイオ産業の創出。生ゴミや下水処理でのバイオガス発電など|福岡バイオコミュニティ/福岡県、久留米市、九州大、久留米大など/久留米市を中心としたバイオ産業拠点。創薬や食品、スマートセルに強み|▼育成バイオコミュニティ/コミュニティ名/主要プレイヤー/特徴・取り組みの概要|東海バイオコミュニティ/名古屋大、岐阜大、三重大、愛知県、岐阜県、三重県など/無給餌養殖、森林ビジネス、バイオマスプラスチックなど|※内閣府バイオ戦略関連資料をもとに作製

 

バイオ戦略は、▽高機能バイオ素材▽バイオプラスチック▽持続的一次産業システム▽有機廃棄物・有機排水処理▽生活習慣改善ヘルスケア、機能性表示食品、デジタルヘルス▽バイオ医薬・再生医療・細胞治療・遺伝子治療関連産業▽バイオ生産システム▽バイオ関連分析・測定・実験システム▽木材活用大型建築、スマート林業――の9つの市場領域をターゲットとしていますが、地域コミュニティの中でバイオ医薬などに取り組むのは「鶴岡」と「福岡」です。いずれも、20年近く前からバイオ産業の育成に取り組んできた地域です。

 

「鶴岡をおもしろい場所に」脱優等生を育てるコミュニティ

山形県と鶴岡市が慶應大を誘致することで始まった鶴岡バイオコミュニティは、21.5ヘクタールと、今回認定されたコミュニティの中で最もコンパクトな場所です。同大が初めて関東以外に設立した鶴岡キャンパスは、生体や微生物などの生物データを網羅的に解析して理解する「システムバイオロジー」を軸に発展してきました。

 

これまで、鶴岡では7社のバイオベンチャーが設立。クモの糸からインスパイアを受けて脱石油・脱アニマルの新素材を開発するユニコーン企業Spiber(スパイバー)や、AI(人工知能)創薬を手掛けるMOLCURE、水田の上に建つホテルを運営するヤマガタデザインなど、その分野は多岐にわたります。

 

2001年の設立時から鶴岡の同大先端生命科学研究所(先端研)で所長を務める冨田勝・慶應大教授は「地方に研究所を作るなら、アクの強いオンリーワンのコンセプトを打ち出すしかないと考えた」と振り返ります。

 

――鶴岡バイオコミュニティの特徴を教えてください。

冨田:地方で研究をするなら、大都会の優等生たちがやってないことをする。オンリーワンになって勝負するしかないと思い、アクの強いコンセプトを打ち出す必要があると考えました。そこで、ITとバイオを融合させた「システムバイオロジー」を研究所の看板に掲げたのです。今でこそビッグデータに基づく生命科学は確立した分野ですが、当時は賛否両論ある斬新な領域でした。だけど、「新しい分野にチャレンジしたい」と考える人なら、場所が鶴岡だろうがどこだろうがきっと来てくれると思いました。

 

たとえば、2015年に設立されたメタジェンの福田真嗣社長は、腸内細菌を研究していて「便を薬にする」ことに取り組んでいますが、彼が先端研に来た10年前は、腸内細菌研究はまったく注目されていませんでした。腸内細菌は種類も量も多く、複雑すぎてサイエンスにならないと思われていたんです。でも彼は、「複雑な腸内細菌をシステムバイオロジーで真正面から分析することで、全体の振る舞いが見えてくるのではないか」と考え、東京から鶴岡に移ってきた。そしてメタボロームとメタゲノムを組み合わせた「メタボロゲノミクス」を世界で初めて手掛けました。

 

――鶴岡サイエンスパークの経済波及効果は30億円に上るそうですね(2019年時点)。

冨田:鶴岡市は典型的な規模の地方都市で、人口は約12万人、労働人口は7万人。そのうち、鶴岡サイエンスパークで働いているのは1%にあたる約700人です。

 

日本の自治体の約半分が将来消滅する可能性があると言われている中、鶴岡のような典型的な地方都市がどうなるかが、日本の将来を占う試金石です。僕は、鶴岡を地方創生のロールモデルにすることが、我が国の未来にとって重要なことだと確信しています。

 

――サイエンスパークでは地元の高校生を特別助手や特別研究生として受け入れています。

冨田:鶴岡では、これまでに地元の高校生をのべ200人以上、受け入れています。

 

地方に優秀な人材を集めるには、県外から人を引っ張ってくるか、地元のやる気のある学生を磨き上げるかしかありません。これからの時代、教科書の勉強ばかりの、大学合格を目的とした偏差値教育ではダメなんです。それを長く続けてきたことが、今の日本の低迷の原因だと私は思います。目先の点数を稼ぐ「優等生」ではなく、好きなことに好奇心で突っ走る「脱・優等生」を一人でも多く輩出することが、未来の、社会の活性化につながると信じています。

 

だから、先端研で受け入れる高校生には、ここでの研究成果をアピールしてAO入試か推薦入試で大学を目指すことを条件としています。つまり、いわゆる受験勉強は禁止なんです。

 

最近では、高校時代に先端研で研究助手をしていた女性が、慶應に入学して一度は関東に出たものの、大学院で鶴岡に戻ってきたケースもあります。彼女は現在、メタボローム解析を手掛けるヒューマン・メタボローム・テクノロジーズで研究員として勤務しています。高校生が一人前の研究者になるには最低でも12年はかかる。鶴岡サイエンスパークも20年経ってようやく注目されるようになりましたし、社会を変えるような結果が出るには30年、50年が必要なのです。それを寛容するビジョンと忍耐力を持っているかが今の日本人に問われています。

 

鶴岡サイエンスパークには、最初は先端研の小さな建物しかありませんでした。その後、ベンチャー向けのラボスペースやスパイバーの工場など、新しい建物がほぼ5年ごとに新築されて大きく広がってきました。このように発展したのは、各ベンチャーの創業者たちの個の突破力によるものです。たとえばスパイバーの関山和秀代表は、人工タンパク質繊維の量産化を実現するにあたり、大手繊維会社をリタイアした元技術者を自ら一人ひとり説得してリクルートしたそうです。

 

僕の役割は、挑戦する彼らの突破力と行動力を邪魔せず応援すること。そして仮に失敗したとしても「ナイストライ」と拍手を送ること。そうすることで、あとに続いておもしろい挑戦をする人が出てくるでしょう。

 

サイエンスの原動力は好奇心と感動であり、サイエンスは「究極のあそび」です。これからも鶴岡をおもしろい人が集まるおもしろい場所にし続けて、ひいては日本をもっとおもしろい国にしたいです。

 

「産官学カネ」のバリューチェーンを構築する福岡

鶴岡と同様に、バイオ医薬品に取り組む福岡バイオコミュニティ。福岡県全域を対象としていますが、中心となるのは県内最大の農産物生産地であり、醸造文化を持つ久留米地域です。オールドバイオ技術をもとに、創薬と機能性表示食品の2つの分野でクラスターを形成してきました。

 

集積するバイオ関連企業数は236社と、地域バイオコミュニティでは最大の規模。その65%がベンチャー企業で、創薬分野では核酸医薬のボナックやがん免疫療法のブライトパス・バイオ、カイコ由来のワクチンを開発するKAICOなどが名を連ねています。

 

支援業務を担うのは第三セクターの「久留米リサーチ・パーク」。同社バイオ事業部の五十嵐順悦・バイオ産業振興プロデューサーと岡﨑剛課長に話を聞きました。

 

――当初32社だった集積企業が236社にまで拡大した背景は。

岡﨑:2001年に産官学の福岡バイオ産業拠点推進会議が発足し、バイオ関連企業の集積を目指す「福岡バイオバレープロジェクト」がスタートしたことが拡大のきっかけでした。市や県など、自治体が「バイオを主力産業にする」という意識を持ち、ソフトとハードの両面で支援を拡大してきたことが、ベンチャーの集積につながりました。

 

――具体的にどのような支援を行っているのでしょうか。

岡﨑:企業には、研究開発から、ベンチャー育成、事業化、販路開拓までのトータルサポートを提供しています。雇用の大きい食品産業では特に機能性表示食品に力を入れており、中小企業を対象に制度に関するセミナー開催や届出に必要な研究レビューの支援などを手厚く行っています。その結果、14~21年の7年間で137件の届出が行われ、これは県内の全届出数(352件)の4割にあたります。

 

バイオベンチャーの支援では、オーファンドラッグの開発プラットフォームを構築し、久留米大小児科を中心に希少疾患治療薬の研究・臨床開発環境を整備しています。創薬分野の専門人材による前臨床・臨床試験相談やPMDA(医薬品医療機器総合機構)対応も行い、開発のスピードアップとコスト削減に貢献しております。

 

――クラスターの目指す姿は。

岡﨑:福岡が目指すのは、ヒト・モノ・カネの好循環を生むエコシステムです。福岡は首都圏に比べて賃金が安く、技術系企業が少ないため人材が流出していることが課題になっています。安い賃料や支援策によって行政が貸し出す研究施設は多くの企業に使ってもらっていますが、そうした企業も人材確保や資金調達の関係でIPO(新規上場)のタイミングで東京や大阪に拠点を移してしまいます。

 

――昨年10月に行われた地域バイオコミュニティの認定式では、久留米市の大久保勉市長(当時)が「マーケティング力にも課題がある」と話していました。

五十嵐:大久保前市長は金融業界出身で参議院議員も務め、その人脈を活かしてコミュニティ形成に大きくコミットしてもらいました。バイオ産業を含む企業版のふるさと納税の交渉にも自ら出ていって、こうした行政の強いコミットも福岡が地域バイオコミュニティに認定された理由の1つになったと思います。

 

岡﨑:人材やマーケティングの課題を解決するため、われわれは「産官学カネ」のバリューチェーンを構築しようと考え、投資ファンドなど金融関連機関にも積極的に声をかけています。コミュニティ内の企業には、それぞれの成長ステージに合わせて、IPOに成功した企業や金融業界の人材を紹介するといった支援も行っています。

 

加えて、バリューチェーンには、事業化を支えるCDMOやSMOなどのバイオリソースも必要です。将来的にはロボティクスの盛んな北九州や、ITソフトウェア企業が集まる福岡地域とも連携し、人材が流入する地域となることを目指します。

 

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