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固形がんCAR-T「PRIME技術」をプラットフォームに ノイルイミューン・バイオテック・玉田耕治社長|ベンチャー巡訪記

更新日

亀田真由

製薬業界のプレイヤーとして存在感を高めるベンチャー。注目ベンチャーの経営者を訪ね、創業のきっかけや事業にかける想い、今後の展望などを語ってもらいます。

 

玉田耕治(たまだ・こうじ)九州大医学部卒。米国で10 年以上にわたってがん免疫研究に取り組み、ジョンズホプキンス大医学部、メリーランド州立大医学部でPrincipal Investigator(主任研究者)として研究室を主宰。2011年に帰国し、山口大医学部免疫学教授に就任。15年にノイルイミューン・バイオテックを創業。20年から同社代表取締役社長。

 

サイトカインとケモカインを搭載した唯一の技術

――「PRIME(Proliferation-inducing and migration-enhancing)技術」を使って固形がんに対するCAR-T細胞療法を開発しています。

現在承認されているCAR-T細胞療法は、CD19やCD269(B細胞成熟抗原=BCMA)といった分子を標的としていて、B細胞系の白血病やリンパ腫が対象となっています。静脈から投与したCAR-T細胞が血液を循環するなかで、血中や骨髄に存在するがん細胞のがん抗原(標的)を認識し、がんを殺すというメカニズムです。

 

一方、固形がんは、肺や胃、乳腺などの組織細胞ががんになります。血管の外にあるため、今のやり方では固形がんに十分なCAR-T細胞を集めることができず、治療効果は見込めません。

 

PRIME技術では、「IL-7(インターロイキン-7)」というサイトカインと、「CCL19」というケモカインを産生するように改良を施し、CAR-T細胞だけでなく、プラスアルファの攻撃手段として体内の免疫細胞(T細胞)を集めることを可能にしています。

 

走化性因子のCCL19は、免疫細胞が身体の中のどこに集まるかを制御している分子で、T細胞や樹状細胞はこれに呼ばれて体内の特定の場所に集まってきます。一方、IL-7は免疫細胞の生存や増殖、分化を制御する分子。集まってきたT細胞やCAR-T細胞を活性化し、より強力にがんを攻撃できるようにしています。

 

たとえて言うなら、固形がんは敵が籠城している状態なんです。これと戦うには、攻める側も兵力がいるし、いろんな武器が必要になります。PRIME技術は、CAR-T細胞に加えてT細胞も動員して総攻撃を行う、そんな技術です。私が知る限り、サイトカインとケモカインを両方搭載したCAR-T細胞は、われわれ以外にはありません。

 

――再発の予防効果も期待できるそうですね。

免疫細胞には「メモリー細胞」が存在していて、一度ある特定の標的に対して活性化すると、長い間その活性が持続する場合があります。持続する期間にはばらつきがあり、たとえば新型コロナウイルスワクチンなら8カ月、麻疹ならほぼ一生。その間は、万が一体内にウイルスが入ってきても、免疫細胞がすぐに対処してくれることになります。

 

マウスを使った実験では、われわれのPRIME CAR-T細胞でがんを拒絶した後、4カ月ほど免疫反応が持続しました。マウスの寿命が2年ほどであることを考えると、ある程度の期間、免疫が持続することが期待できます。

 

――昨年9月、自社パイプラインの「NIB101」について、日本で臨床第1相(P1)試験の治験届を提出しました。自社での臨床入りは初めてとなります。

NIB101は、GM2という分子をターゲットにしています。この分子は、小細胞肺がんや悪性胸膜中皮腫、膵臓がんで発現しているターゲット。試験は、標準治療に不応・不適・不耐のGM2陽性固形がん患者約42人を対象に行い、安全性を評価する計画です。2023 年下期の登録完了を目標としています。

 

――ターゲットやがん種はどのように選びましたか。

ひとつは、免疫療法として効果が期待しやすいもの。それから、ターゲットとなる分子がしっかりがん細胞だけに発現していて、正常細胞ときれいに見分けられるもの。そうした意味で、GM2は良いターゲットです。対象疾患の1つである悪性胸膜中皮腫には、ほかの治療法もなかなか確立していませんので、こうした点から総合的に選びました。

 

3つのパイプラインが臨床入り「大きな達成」

――これまでがん免疫の研究に取り組んできた玉田さんが起業に至った経緯を教えてください。

私は大学卒業後、しばらく臨床をやってから研究の道に入りました。博士号をとってすぐ米国に渡り、向こうで13年くらいCAR-T細胞を含む免疫療法の研究を行っていました。PRIME技術を開発したのは2011年に日本に帰って来てからです。

 

米国にいた当時から、CAR-T細胞療法には「固形がんにはなかなか効果が見込めない」という課題があり、これ対する仮説が、がんに体内のT細胞を集めることでした。それをどうやって可能にするか考える中で、もともとT細胞が集まっているリンパ節などのT細胞領域のメカニズムを調べていくと、「どうもリンパ節のT細胞領域にはCCL19とIL-7が高発現していて、それらがT細胞を集めるのに重要だ」ということがわかってきた。これをがん治療に応用できるのではないかと実験を行い、良い結果が得られたので事業化に向けて2015年に会社を立ち上げました。

 

――もともと研究を志向していたのでしょうか。

研究に進んだのは、臨床に従事する中で、当時の治療選択肢では治せない患者さんがたくさんいて、そうした人たちに新しい治療法を作っていかなければ、と感じたからです。当時は数年研究をしたら臨床に戻ろうと考えていたのですが、いざ始めてみると次々と新しい発見があって、その魅力にとりつかれてしまいました。以来、臨床には戻らず、大学での研究と成果の事業化に力を入れています。

 

――武田薬品工業に導出した「NIB103」が昨年P1試験を開始し、設立7年目で3つのパイプラインが臨床入りしています。ここまでの手応えは。

武田薬品工業とは17年から共同研究を進め、GPC3を標的とする「NIB102」とメソテリンを標的とする「NIB103」がライセンスアウトに至りました。武田薬品がNIB102の臨床試験を開始したタイミングで、われわれも会社としてさらにPRIME CAR-T細胞を積極的に進めていきたいと考え、サイエンティフィックファウンダーである私が会社の代表に就きました。

 

武田薬品が進めている2つを含め、パイプラインが3つ並んで進んでいるのは大きな達成で、当初の想定通りに進んでいると感じています。

 

固形がんに対するCAR-T細胞療法はまだまだ最先端の技術ですし、われわれのPRIME CAR-Tは自家細胞を使うので、製造や調達などにも苦労があります。どうやって患者さんの血液を運ぶのか、どう組み替えるのかなど、一つひとつルールを作りながら進めています。

 

抗PD-1抗体などとの併用にも期待

――PRIME技術について、どのような展開を描いていますか。

PRIME技術のコアは、IL-7とCCL19を産生し、がん細胞に免疫細胞を集めて攻撃させること。CAR-T細胞療法だけでなく、TCR-T細胞療法や腫瘍溶解性ウイルスにも応用できると考えています。

 

TCR-T細胞療法では、すでに動物実験でPRIME TCR-T細胞療法が通常のTCR-T細胞療法より強力な抗腫瘍効果を発揮することがわかっています。TCR-T細胞療法をメインに事業を展開している海外企業と提携し、開発を進めています。

 

それから、がん免疫療法の抗PD-1抗体との併用でPRIME CAR-T細胞療法やPRIME TCR-T細胞療法の治療効果を増強できることを示唆するデータもあります。将来的には、こうしたところに応用が広がっていくと考えています。

 

――他家CAR-T細胞療法の開発では、20年にC4Uとも提携しました。

C4Uは、次世代型ゲノム編集技術のクリスパ―/Cas3技術を持っている会社で、彼らと共同でゲノム編集を施した他家CAR-T細胞の作製を検討しています。

 

他家細胞は必要になったときにすぐに提供できるというメリットがありますが、一方で拒絶反応などの課題がある。ゲノム編集によって、他家細胞のネックとなるところをできるだけ少なくすることを考えています。このとき、完全に拒絶反応をなくすことができなくても良いのではないか、というのがわれわれの考えです。PRIME技術は、患者自身の免疫細胞をがんのあるところに連れてくる技術なので、仮に他家CAR-T細胞が拒絶反応で取り除かれたとしても、患者自身の免疫細胞が働いてくれればがんを攻撃できると考えています。

 

――今後の展望を教えてください。

具体的にいつとは言えませんが、まずはPRIME技術を搭載したCAR-T細胞を患者さんに届けるのが一番のゴール。その後、TCR-T細胞療法などに応用していきたいです。

 

がんのターゲットはいくつもあって、そのすべてをわれわれが扱うのは難しいので、PRIME技術をプラットフォームとして、国内外の企業とも提携しながら進めたいと思っています。今も第一三共や中外製薬と技術評価契約を結び、われわれの技術がどう使えるか検討してもらっていますが、もっと積極的に事業提携を結んでいき、われわれの技術をどんどん使ってもらえるようなシステムを作りたい。プラットフォームを通じて少しでも多くの医薬品を生み出すことができればと考えています。

 

(聞き手・亀田真由)

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