アステラス製薬が10月1日付で研究組織の大幅な改編を行いました。研究本部を解消し、新設したチーフ・サイエンティフィック・オフィサー(CScO)の下で複数のバイオベンチャー様の組織が自律的に意思決定を行いながら研究活動を進める体制を構築しましたが、その狙いは。
「アジャイル型が生産性向上と成功のカギ」
「研究組織全体の製品創出機能をアジャイル型組織に統一することが、生産性向上と成功のカギになると考えた」。アステラス製薬の志鷹義嗣チーフ・サイエンティフィック・オフィサー(CScO)は、12月7日に同社が開いたR&D説明会で研究組織改編の狙いをこう話しました。
同社は10月1日付で研究本部を解消し、4月に新設したCScOの下に研究組織を集約する組織改編を行いました。従来の研究本部は「薬理」「薬物動態」「安全性」といった機能ごとに階層型の組織に分かれており、これとは別に、買収したバイオベンチャーやそれに由来する組織はCEO(最高経営責任者)が統括する組織として存在していました。今回の組織改編では、研究本部を解体し、製品創出を担う機能を社内バイオベンチャーとして切り出して、買収したベンチャーとともにCScO直下の「プロダクト・クリエーション・ユニッツ」として配置。製品創出機能はすべてアジャイル型組織に統一し、それぞれの社内ベンチャーが自律的に活動する体制を敷きました。
アステラスは「バイオロジー」「モダリティ/テクノロジー」「疾患」の組み合わせで重点的に研究開発投資を行う分野を決める「フォーカスエリアアプローチ」と称する研究開発戦略をとっており、今年5月に発表した2025年度までの経営計画では、30年度にフォーカスエリアアプローチによって創出したプロジェクトから5000億円以上の売り上げを目指すとしています。
この戦略に沿って、買収や提携を通じて外部の技術や知見を積極的に取り込んできましたが、そこで生じたのが「買収によって取り込んだ各組織での自律的なプログラム創出活動を維持しつつ、包括的にマネジメントを行う必要性」だとアステラスの岡村直樹副社長は話します。
階層型・機能別の研究組織が抱えていた課題
志鷹CScOは、階層型・機能別組織だった従来の研究本部が抱えていた課題について、▽階層に依存した意思決定▽逐次処理の業務手順(ウォーターフォールモデル=事前設定されたクライテリアを満たしたら次の工程に移行するやり方)――の2つを挙げました。
意思決定では、各部門担当者への権限移譲が不十分で判断に時間がかかるケースがあったほか、マネージャーに専門性がないために適切な判断が難しくなることも懸念されると志鷹氏は指摘。低分子化合物など確立されたモダリティでは機能していたウォーターフォールモデルも、新規モダリティではすべてのリスクを事前に見通してクライテリアを設定することが難しく、下流の工程で未知の課題に直面して振り出しに戻るケースもあるといいます。
そこで新体制では、プロダクト・クリエーション・ユニッツの各社内ベンチャーに意思決定の権限を持たせ、扱うバイオロジーやモダリティに応じて必要な専門性を持つ研究者が集まって自律的に活動できる体制を構築。志鷹氏自身、2016年からCScO就任までの5年間、買収した米オカタ・セラピューティクスに由来する子会社「アステラス・インスティチュート・フォー・リジェネレイティブ・メディシン(AIRM)」の社長を務めており、「AIRMは、さまざまな専門家が試行錯誤を繰り返しながら、現場で迅速に意思決定を行うアジャイル型組織だった。これが、新しいモダリティである細胞医療を進める上で非常に有効だった」と振り返ります。
新体制でプロダクト・クリエーション・ユニットとして設置されたベンチャー様組織は7つ。このうち、AIRM、ユニバーサルセルズ、ザイフォス、アステラス・ジーン・セラピーズの4つは買収したベンチャーやそれを前身とした組織で、がん免疫とミトコンドリアバイオロジー、早期の探索研究を行う「創薬アクセレレーター」は新たに社内ベンチャーとして切り出された組織です。創薬アクセレレーターには、探索的な研究を行う複数の「インキュベーション・スタートアップ」があり、それが研究プラットフォームを確立すると「ベンチャーユニット」に、さらにリードプログラムを創出すると独立した社内ベンチャーへと成長していきます。
こうした成長の流れは、一般的なベンチャーのエコシステムを模したもので、成長に合わせて人員やプログラム数、権限が拡大していきます。志鷹氏は「こうした成長の仕組みは、社内バイオベンチャーのメンバーが起業家精神と強いオーナーシップを持って製品創出に取り組むことを促す」と話します。
米FDA(食品医薬品局)が承認する新薬の多くを生み出すなど、イノベーション創出の主要な担い手となったバイオベンチャー。そのモデルを取り入れることで、課題とされる自社新薬の創出につなげることができるか。取り組みの成否が注目されます。