海外の大手製薬企業が核酸医薬の一種であるsiRNA医薬に食指を動かしています。デンマーク・ノボノルディスクは先月、siRNA医薬を手掛ける米ディセルナ・ファーマシューティカルズを買収すると発表。スイス・ノバルティスもこの分野に取り組んでおり、米アルナイラム・ファーマシューティカルズなどがM&Aの候補だとする観測も浮上しています。
2018年以降4製品が実用化
siRNAは核酸医薬の一種。核酸医薬はその名の通り、RNAなどの核酸を主成分として使った医薬品で、従来の医薬品が疾患に関わるタンパク質を標的としているのに対し、核酸医薬はタンパク質の合成そのものをターゲットとしており、これまでの医薬品では難しかった疾患の治療につながる次世代技術として期待されています。
核酸医薬には「アンチセンスオリゴヌクレオチド」「siRNA」「アプタマー」「デコイ」などがありますが、siRNAはこの中でも特に最近ホットな分野です。siRNAは短い二本鎖のRNAで、標的とするRNAを特異的に認識して切断・分解する働きを持ち、疾患に関わるタンパク質の合成を阻害することで治療効果を発揮します。siRNAは2018年以降、国内外で4製品が実用化されており、開発投資も活発です。
デンマークのノボノルディスクは先月、siRNAの研究開発を行う米ディセレナ・ファーマシューティカルズを33億ドル(約3795億円)で買収すると発表しました。両社は2019年にsiRNAによるRNA干渉(RNAi)治療薬の開発で提携し、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、2型糖尿病、肥満症、希少疾患の治療薬創出を視野に、30を超える肝細胞標的物質の探索を行っています。ノボは来年、提携から生まれた最初の治療薬候補の臨床試験を始める予定です。
英グラクソ・スミスクライン(GSK)も先月、siRNAを手掛ける米アローヘッド・ファーマシューティカルズから、NASHを対象に同社が開発しているRNAi治療薬の開発・販売権を獲得しました。同薬は現在、臨床第1/2相(P1/2)試験を実施中。GSKは一時金として1億2000万ドルを支払い、その後の開発・販売の進捗に応じて最大9億1000万ドルのマイルストンを受け取ります。
アローヘッドとは、武田薬品工業も昨年10月、α-1アンチトリプシン欠乏症による肝疾患に対するRNAi治療薬について最大10億ドル規模の開発・販売提携を結んでいます。
ノバルティス 注目されるロシュ株売却益の使途
この領域で注目されるのが、スイス・ノバルティスの動向です。同社は11月、20年に渡って保有してきたスイス・ロシュの株式5330万株を207億ドルで売却。ここで得た資金を元手にM&Aに動くのではないかとの見方が出ていて、その候補としてsiRNAを手掛ける米アルナイラム・ファーマシューティカルズが浮上しているとの観測が流れています。
ノバルティスは昨年、同じくsiRNAを開発する米メディシンズ・カンパニーを約1兆円で買収。買収で獲得した高コレステロール血症に対するsiRNA医薬「Leqvio」(一般名・inclisiran)は欧州ですでに承認され、米国でも申請中です。一方のアルナイラムは、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(遺伝性ATTRアミロイドーシス)治療薬「オンパットロ」(パチシラン)や急性肝性ポルフィリン症治療薬「ギブラーリ」(ギボシラン)など複数のsiRNA医薬を製品化。Leqvioももともとはアルナイラムが開発したもので、ノバルティスはアルナイラムとのライセンス契約に基づいて同薬の開発・販売を行っています。
アルナイラムのパイプラインには、高血圧症や非アルコール性脂肪肝炎に対するsiRNA医薬もあり、ノバルティスの重点領域とも重なります。同社幹部は、この分野への取り組みを引き続き進めていく考えを示しており、次の一手が注目されます。