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新型コロナ 経口抗ウイルス薬開発競争は最終コーナーに…メルクなど年内実用化へ

更新日

前田雄樹

新型コロナウイルス感染症に対する経口抗ウイルス薬の開発競争が、最終コーナーを迎えています。先頭を走る米メルクは今月1日、開発中のモルヌピラビルが軽症から中等症の患者の入院・死亡のリスクを半減させたとする治験結果を発表し、近く各国で承認申請に入る見通し。米ファイザーも年内の実用化を視野に入れているほか、スイス・ロシュや塩野義製薬も最終治験を行っています。軽症者らが自宅で服用できる経口抗ウイルス薬はワクチンとともにコロナ対策の切り札と期待されており、実用化されればコロナとの戦いはまた1つ大きな転換点を迎えます。

 

 

モルヌピラビル 入院・死亡を半減

米メルクは10月1日、新型コロナウイルス感染症向けに開発を進めている経口抗ウイルス薬モルヌピラビル(一般名)が、軽症から中等症の患者を対象に行った国際共同臨床第3相(P3)試験の中間解析で、プラセボに比べて入院や死亡のリスクを約50%低減させたと発表しました。中間解析の結果に基づき、メルクは近く、米FDA(食品医薬品局)に緊急使用許可(EUA)を求めるとともに、日本を含む世界各国で承認申請を行う方針。年内にも実用化される見込みで、使用が許可されれば新型コロナに対する初の経口抗ウイルス薬となります。

 

【主な新型コロナ向け経口抗ウイルス薬の開発状況】モルヌピラビル(米メルク/米リッジバック)/年内にも国内申請|PF-07321332(米ファイザー)/P2/3|S-217622(塩野義製薬)/P2/3、年内に国内申請準備|AT-527(スイス・ロシュ/米アテア)/22年に国内申請|※各社の発表などをもとに作成

 

モルヌピラビルの国際共同P3試験「MOVe-OUT」は、重症化リスクを持つ入院していない軽症から中等症の患者を対象に実施。発表された中間解析は、初期に登録した775人分のデータを評価したもので、投与開始後29日目までに入院または死亡した患者は、モルヌピラビルを1日2回5日間投与した群で7.3%(385人中28人)、プラセボ群で14.1%(377人中53人)でした。29日目までに死亡した患者は、プラセボ群8人に対してモルヌピラビル群はゼロ。良好な結果を受け、独立データモニタリング委員会は試験の早期終了を推奨し、これに従ってメルクは被験者の登録を予定より早く切り上げました。

 

モルヌピラビルは、RNAを合成する酵素ポリメラーゼを阻害し、ウイルスの増殖を抑制する薬剤。米エモリー大が100%出資する非営利企業Drug Innovations at Emoryが創製し、導入した米リッジバック・バイオセラピューティクスがメルクと共同で開発を進めてきました。

 

メルクによると、モルヌピラビルはガンマ株、デルタ株、ミュー株のいずれの変異株でも一貫した有効性を示したといいます。有害事象の発生率はモルヌピラビル群35%、プラセボ群40%で、治験薬と因果関係があると判断された有害事象の発生率もそれぞれ12%、11%とほぼ同等でした。

 

メルクは年内に1000万人分の生産を見込んでおり、米国政府とは約170万人分を供給する契約を締結。日本政府も、年内の特例承認と供給開始に向けて調達に動いているとされます。メルクは、低・中所得向けの供給を確保するため、インドの複数の後発医薬品メーカーと非独占的なライセンス契約を結びました。

 

塩野義は年内に申請準備

現在、国内では5種類の新型コロナ治療薬が承認されていますが、このうち軽症・中等症向けは中外製薬の抗体カクテル療法「ロナプリーブ」(一般名・カシリビマブ/イムデミマブ)と、グラクソ・スミスクラインの中和抗体製剤「ゼビュディ」(ソトロビマブ)のみ。いずれも点滴で投与する必要があり、自宅で療養する軽症者らに簡便に投与できる経口薬は存在しません。「新型コロナと診断されても、薬を何日か飲めば重症化せず治っていく。経口薬の開発が成功すれば、そんな病気になっていく可能性が出てくるのではないか」。東邦大医学部微生物・感染症学講座の舘田一博教授は、こう期待します。

 

【国内で開発中の主な新型コロナ向け経口抗ウイルス薬】品名(開発企業)/作用機序/服用回数/開発段階|モルヌピラビル(MSD)/ポリメラーゼ阻害薬/1日2回5日間/P3|PF-07321332(ファイザー)/プロテアーゼ阻害薬/1日2回5日間(リトナビル併用)/P2/3|S-217622(塩野義製薬)/プロテアーゼ阻害薬/1日1回5日間/P2/3|AT-527(中外製薬)/ポリメラーゼ阻害薬/1日2回5日間/P3|ファビピラビル(富士フイルム富山化学)/ポリメラーゼ阻害薬/1日2回10日間/P3|イベルメクチン(興和)/駆虫薬/―/P3|各社の発表などをもとに作成

 

開発競争でメルクとともに先頭を走っているのが米ファイザーです。開発中の「PF-07321332」は、近くP2/3試験の中間解析結果が明らかになる見通しで、年内のEUA取得も視野に入っています。PF-07321332はウイルスの複製に必要なタンパク分解酵素の働きを阻害するプロテアーゼ阻害薬で、1日2回5日間、低用量のリトナビルと併用して投与。重症化リスクの高い非入院患者を対象とした試験と、リスク因子を持たない非入院患者を対象とした試験が行われています。

 

スイス・ロシュは、米アテア・ファーマシューティカルズとともにポリメラーゼ阻害薬「AT-527」を開発。海外で4月からP3試験を行っていて、日本ではロシュから開発・販売権を取得した中外製薬がグローバル試験に参加する形でP3試験を実施中です。ロシュと中外は2022年の申請を目指しています。

 

塩野義製薬も、プロテアーゼ阻害薬「S-217622」の開発を急いでいます。9月末から、無症候または軽症の患者2100人を対象とした国内P2/3試験を行っており、年内に申請に向けた準備に入りたい考え。FDAやEMA(欧州医薬品庁)など海外の規制当局とも協議を進め、グローバルP3試験を行うことも計画しています。商用生産にも近く着手し、今年度中に120万人分、来年度には500万人分を自社で製造できるとの見通しを示しています。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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