厚生労働省は8月31日、2020年度の概算医療費が42.2兆円と前年度に比べて3.2%、額にして1.4兆円減ったと発表しました。減少額、減少率はともに過去最大で、コロナ禍による受診控えのインパクトが浮き彫りとなりました。
患者数は8.5%減
「概算医療費」は、医療機関からの診療報酬請求(レセプト)に基づいて医療保険と公費負担医療の費用を集計したもの。労災保険や全額自費診療の費用は含まず、医療費全体を示す「国民医療費」の約98%に相当します。
概算医療費が40兆円を超えたのは6年連続で、前年を下回ったのは0.4%減となった2016年度以来、4年ぶり。20年度に過去最大の減少となったのは、新型コロナウイルスの感染拡大で患者が受診を控えたこと、マスク着用や手洗いの徹底などによってほかの感染症が流行しなかったことが要因と考えられています。主傷病が新型コロナウイルス感染症のレセプトを集計したところ、その医療費は20年度年間で1200億円程度でした。
小児科・耳鼻咽喉科など大幅減
概算医療費を診療種別に見ると、「入院」が17.0兆円(前年度比3.4%減)、外来などの「入院外」が14.2兆円(4.4%減)、「歯科」が3.0兆円(0.8%減)、「調剤」が7.5兆円(2.7%減)。医療機関を受診した延べ患者数を示す受診延べ日数は全体で8.5%減少し、中でも入院外は10.1%減とコロナの影響を大きく受けました。受診延べ日数は、入院で5.8%、歯科で6.9%、調剤でも9.3%減少しています。
入院外の医療費を主な診療科別に見ると、産婦人科を除くすべての診療科で前年度を下回りました。減少が特に大きかったのは、小児科(22.2%減)と耳鼻咽喉科(19.7%減)で、受診延べ日数も、小児科では31.5%、耳鼻咽喉科では24.4%減少。かぜなどで受診する子どもが減ったことが要因と考えられ、未就学児の医療費は前年度から19.1%減りました。
疾病分類別で最も減少幅が大きかったのは、25.3%減となった呼吸器系疾患。特に入院外では、医療費全体の伸び率に対する影響度の半分以上を呼吸器系疾患の減少が占めました。
薬剤料は1.8%減
概算医療費と同時に公表された20年度の調剤医療費の動向によると、調剤医療費のうち薬剤料は5兆6058億円で前年度から1.8%減。患者数の減少で処方箋枚数は9.2%減ったものの、単価の高い「腫瘍用薬」や「その他の代謝性医薬品」などの増加によって処方箋1枚あたりの薬剤料は8.1%増えました。20年度は2年に1回の薬価改定にあたる年でしたが、改定率が比較的小さかったこともあり、6.7%減となった16年度、4.5%減となった18年度と比べると、薬剤料の減少は小幅にとどまりました。
抗生物質27.3%減、化学療法剤18.9%減
薬剤料にもコロナの影響は顕著に出ており、薬効分類別では「抗生物質製剤」が27.3%減、「化学療法剤」が18.9%減、「呼吸器官用薬」が17.8%減と大幅に減少。マスク着用や手洗いといった感染対策が浸透したことで、感染症とそれに関連する呼吸器系疾患の薬剤が減少しました。
厚労省によると、2020/21年シーズンにインフルエンザで医療機関を受診した患者は推計約1.4万人で、19/20年シーズンの約728.5万人から激減しました。第一三共の抗インフルエンザウイルス薬「イナビル」は20年度の売上高が前年度から81.2%減少。塩野義製薬は、「ゾフルーザ」などのインフルエンザ関連製品の売上高が89.1%減り、これらを含む感染症領域の製品売上高も39.1%の大幅減となりました。
過去最大となった医療費の減少は、コロナ禍で幾度となく強調されてきた「不要不急」が医療にも存在することを明らかにしたとも言えます。今後、医療資源の配分をめぐる議論にも影響を与えそうです。