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「レセプトデータの第一人者としてRWDの活用を浸透させる」JMDC・杉田玲夢COO|ベンチャー巡訪記

更新日

亀田真由

製薬業界のプレイヤーとして存在感を高めるベンチャー。注目ベンチャーの経営者を訪ね、創業のきっかけや事業にかける想い、今後の展望などを語ってもらいます。

 

杉田玲夢(すぎた・れいむ)NTT東日本関東病院、東京大学医学部付属病院での研修を経て、コンサルティング業界に転身。米デューク大ビジネススクールでMBA取得後、ボストンコンサルティンググループに入社。2015年、株式会社クリンタルを創業。18年JMDCの傘下に入り、同社COOに就任。

 

1200万人のデータを扱う

――事業の概要について教えて下さい。

JMDCは、レセプトデータ(保険者データ)の取り扱いを祖業とする会社です。創業から19年かけて集めた1200万人分のデータを扱っています。2番手の企業で500万人ほどですから、圧倒的なデータ量はわれわれの強みの1つです。保健事業の支援や健保加入者に向けたサービスを展開するかたわら、匿名化データを製薬会社や生命保険会社に販売するビジネスを行っています。

 

さらにこの2~3年は、リアルワールドデータ(RWD)の収集も行っています。医療機関のレセプトや検査結果、それからPRO(患者報告アウトカム)データなどです。われわれは健保加入者向けの健康支援アプリ「PepUp」を展開していて、それで200万の個人と繋がっています。アプリ上でアンケートを行えば、レセプトにないデータを補完することも可能です。

 

――レセプトデータやRWDの具体的な活用例は。

われわれのデータは日本の人口の約10%をカバーしており、主に患者数や薬剤シェアの推定などに使われています。これは最もシンプルな利用方法で、マーケティング戦略の立案や市場性の評価、売上高予測の算出などに活用されています。

 

ここ3~4年では、メディカルアフェアーズ(MA)が行うデータベース研究や、トリートメントフロー、ペイシェント・ジャーニー作成にも使われるようになってきました。われわれのデータは、加入先の健保組合が変わらない限り、個人を追跡することができるので、どんな症状が出ていて、どこの病院に行って、いつ確定診断を受けて、どんな薬を処方されたかがわかる。希少疾患では、発症初期から確定診断まで数年かかることも多く、患者さんを専門医療機関につなげたり、医師の診断支援したりといった、治療のサポートにデータの活用を検討する企業も増えています。

 

ただ、ここはわれわれの弱みでもあるのですが、レセプトやRWDを扱っているものの、そこから治療のアウトカムを見ることはできないんですね。薬を処方した結果、症状が改善したかどうかは、われわれの持つデータからはわからない。ですから、MA部門が行う研究でも、効能に関するようなものには使えません。基本的には、疾患領域に関連する研究に使用してもらっています。

 

現在は、研究開発に関わる領域でもサービスの提供ができないかと思い、治験の支援にも取り組んでいます。われわれのデータを使えば、どこにどれくらい患者さんがいるかを予測できる。データをもとに被験者募集の効率化をサポートしていきたいと考えています。

 

RWDの活用「企業ごとにまだまだ差がある」

――どんな製薬企業がJMDCのRWDを使っているでしょうか。

会社名はお伝えできませんが、2、3社に圧倒的に使っていただいていて、それを耳にした企業が追随する形になっています。

 

最初は外資系企業からのアプローチがありました。海外では日本よりRWDの活用が広がっていますので、本社に「日本ではどう?」と聞かれた日本法人からわれわれに問い合わせがあり。今は外資・内資を問わず、関心の高い企業、DX推進を謳う会社やRWDの専門部署を立ち上げている会社によく使ってもらっています。

 

――企業によって活用への意識に差はありますか。

まだまだ差がありますね。1年くらい前、製薬会社の方100人ほどに「RWDをどのくらい活用できていると感じますか」というアンケートをとったところ、「ポテンシャルの20%以下」という回答が6割くらいで、「40%以下」を合わせると8割程度ありました。われわれとしても、それくらいだという印象を持っています。

 

われわれは患者数や薬剤シェアをはじめ、年齢別や地域別などさまざまな切り口で活用できる分析ツールを提供していますが、同じツールを導入している会社の間でも、年間5000回くらい分析を行う会社もあれば、月に数回という会社もあり、活用の程度には大きな差があります。加えて、本来なら研究開発からマーケティング、MA、市販後調査まで使えるはずなのに、MAだけに活用の場が閉じてしまっているケースも少なくありません。

 

であれば、われわれがレセプトデータの第一人者として、データの調理法やレシピを啓蒙していかなければならない。そう考え、1年前くらいにコンサルティングサービスを立ち上げました。コンサルとして日々のオペレーションに入り、普段の業務の中でデータの価値を出していきましょう、と。今は、データは買っているけど、分析するリソースやケイパビリティが社内に無く、外注したほうが楽だと考えている企業も多い。われわれがサポートすることで、RWDの活用を浸透させていきたいと思っています。

 

コンサルティングサービスでは、レセプトやRWDデータだけでなく、われわれ自身が調査したデータを活用することもあります。

 

レセプトはあくまで保険請求のための仕組みなので、製薬企業のニーズにフィットしない部分もあります。たとえば近年、分子標的薬の使用が増えていますが、レセプトでは「遺伝子検査を行った」ということはわかっても、結果が野生型なのか変異型なのか、記載がないのでわかりません。これでは特定の遺伝子変異をもった患者さんがどれくらいいるのかわからず、適切な分析につなげることができません。こういった、レセプトデータそのままで活用しにくい領域に対しては、ドクターへのヒアリングや論文のリサーチを追加することで、より精度の高い結果を返すようにしています。

 

「目指すものが同じ」だと感じた

――祖業の立ち上げの経緯を教えてください。

JMDCは、6月に退任した元会長の木村真也が2002年に立ち上げた会社です。もともとは、製薬企業でマーケティングに携わる中で木村が「もっと精緻なデータはないだろうか」と考えたのが始まり。そのころは、医師へのアンケートやMRが聞いて回った情報くらいしかありませんでした。

 

レセプトデータに目をつけた木村は、当時勤めていた会社を辞め、レセプトデータを一カ所に集めていこうと、健保組合にデータを貸してほしいと頼んで回ったそうです。当時、レセプトは紙のデータが基本でしたので、それを電子化する作業から始めて…。そこから、健保への支援を行いながら匿名化データを企業に販売する事業に広げていったそうです。

 

とはいえ、製薬企業の役に立つデータとなるには、どうしても数十万人、数百万人のデータが必要です。最初の7年ほどは赤字続きでした。ここ10年弱くらいでそれなりのボリュームになってきて、製薬会社が買ってくれるようになりました。

 

――杉田さんはどういった経緯でJMDCに参画したのですか。

僕はもともと眼科医で、外資系のコンサルを経て、2015年に起業しました。患者と医師のマッチングサービス「クリンタル」を立ち上げ、健保や生保を相手に、付帯サービスの1つとしてどうか、と提案していたんです。ただ、提案から導入までが1年くらいと長く、僕としては営業で連携できる先を探していました。そんな中、知り合いづてにJMDCの存在を聞いて、業務提携ができないか議論を始めたんです。そのうちに「一緒にやらないか」という話になり、18年に子会社としてメンバーとともにジョインしました。クリンタルは、JMDCの1部署として今も順調にサービスを展開しています。

 

その時の決め手は、クリンタルもJMDCも同じ方向性を向いていたから。僕は、「医者と患者さんの適切なマッチングが実現すれば、手術回数や入院日数を削減でき、医療費の削減につながる」と信じていて、一方、JMDCは「データとICTの力で人々を健康にし、医療費の削減につなげる」ことを目指していた。アプローチは違いますが、目指すものが同じならと思い、一緒に進めていくことにしました。

 

――今後の展望は。

これからという意味では、2つあります。

 

1つ目は、データの幅を広げることです。データは多ければ多いほど、掛け算でできることは広がって行きます。注目しているのはゲノムのデータ。たとえば、同じ薬でもあるゲノムの人には効きやすいとか、別のゲノムの人には副作用が出やすいとか、そういったことが見えてくるのではないかと思っていますし、創薬の分野にも応用できるようになると思っています。

 

もう1つは、製薬会社が社内に持っているデータとの掛け合わせです。各社とも、新たにデータの蓄積を始めたり、昔からあるデータの整備を始めたりしていると思いますが、それと連携することでもっと面白いことができるのではないかと考えています。たとえば、営業活動のデータと、レセプトによる当該地域の処方の変遷を見ることで、営業活動の最適化の検討にも活用できる。そんな「掛け算」で、サポートの幅を広げていきたいと思っています。

 

(聞き手・亀田真由、写真はJMDC提供)

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