GMP省令(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)が約16年ぶりに改正され、8月1日に施行されます。改正のポイントについて、GMDPコンサルティングを手掛ける「シーエムプラス」の平島俊一副社長、高橋治シニアコンサルタント、佐藤小津江コンサルタントに聞きました。
国際標準との整合性を図る
8月1日、改正GMP省令(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)が施行されます。平島氏によると、約16年ぶりとなる今回の改正の主眼は「国際標準であるPIC/S GMPガイドラインとの整合性をとることが第一」といいます。
シーエムプラス 平島俊一・取締役副社長
PIC/S(医薬品査察協定・医薬品査察協同スキーム)は、GMP基準の国際調和と各国当局による査察の質向上を目的として1995年に設立された規制当局間の国際協力の枠組み。日本は2014年7月に加盟し、以来、通知などの形でPIC/Sガイドラインの浸透を図ってきました。内容そのものは企業側も把握済みで、今回、より法的拘束力の強い省令に盛り込まれることになります。
改正の狙いとしてもう1つ挙げられるのが、「医薬品品質システム」(PQS)の導入です。
「改正GMP省令には、2010年に国内導入されたICH Q10に基づくPQSの構築も明記されています。『上級経営陣』や『マネジメントレビュー』など、これまでの関連通知や省令改正案で慣れ親しんだ言葉は、現行法との兼ね合いで入りませんでしたが、趣旨としてはすべて盛り込まれています」(平島氏)
ICH Q10は、ISO(国際標準化機構)の品質マネジメントシステムを医薬品の開発・製造に取り入れたもの。高橋氏によると、中堅以上の企業はすでに導入済みとみられますが、これまで任意だった取り組みに法的な効力が生じ、厳格化されることとなります。
「ICH Q10が目指すのは、『管理できた状態』の『確立』と『維持』です。そのために、経営者や責任役員を含むGMP組織体制の整備と、運用システムの構築が必要となります」(佐藤氏)
経営陣の責任を明確化
法令順守に向けた体制整備は、改正GMP省令と同じく8月1日に施行される改正薬機法とも関連しています。改正薬機法では、組織体制と責任者の業務・権限を明確化することや、役員を含む従業員を監督できる体制の構築が求められています。
具体的には、「薬事に関する業務に責任を持つ役員」(いわゆる責任役員)を置き、必要な能力・経験を持つ総括製造販売責任者(製造販売業)と製造管理者(製造業)を選任します。総責と製造管理者は従来から法律で定められていますが、今回の改正では「経営陣への意見上申」をその役割として義務化。経営陣には、上申された意見を尊重し、措置を講じることを義務付けます。
こうした改正には、近年、行政処分が相次ぐGMP違反で、経営陣が事態を把握していない、または事態を把握しているのにもかかわらず改善を行わず、隠蔽が行われていたケースが背景にあります。平島氏は「今回の薬機法改正で、経営者の責任が強く問われるようになる」と話します。
同時に、改正GMP省令では「『承認書の順守』が強く言われている」と平島氏は指摘します。2015年に発覚したバイオ医薬品企業の事例から、今年過去最長の業務停止命令を受けた後発医薬品企業の事例まで、承認書から逸脱した不正製造が相次ぐ中、承認通りに製造しなければならないという当たり前のことが明記されることになりました。
「もともとGMPは欧米の考え方で、『悪いことをやろうと思ってもできない仕組み』を目指しています。一方、日本ではこれまで、やるべきことが分かればその通りにやるはずだという前提があり、それが日本のモノづくりの優れた文化でもありました。しかし、今こうして大きな問題に発展するケースが相次いでおり、日本の品質は大丈夫とは言えなくなってきている。この5~10年で、欧米と同じ考え方が広まってきたように思います」(高橋氏)
シーエムプラス 高橋治・シニアコンサルタント
「原薬をはじめとする原料のサプライヤーの監査や、購入した原料の評価、さらに製剤工程や包装工程で外部の受託業者を使っているならそれらの管理が求められ、製薬企業としての責任が明確になりました。製造販売会社と製造会社が分かれているなら、両社の連携も求められます」(平島氏)
製薬業界では最近、後発品企業を中心に原薬の製造国や製剤の製造会社を公表する動きが広がっています。平島氏は「こうした変化は、金額だけで業者を選定するのではなく、目先の利益にとらわれないように経営者自身がしっかり考えていく必要があるということを示している」とし、製薬企業として業者選定の責任をあらためて意識すべきだと言います。
主体的な取り組みと合理的な説明
改正省令と関連通知について佐藤氏は、「『リスクに基づいて』という言葉がよく目に入るようになった」と印象を話します。
「PDCAサイクルに基づく品質リスクマネジメントはもちろんですし、たとえば交叉汚染に関しては、これまでは医薬品と医薬品以外のものを同じラインで製造してはいけないことになっていましたが、『交叉汚染がない』とデータで証明できれば同一のラインを使ってもよい場合があるようになりました」(佐藤氏)
シーエムプラス 佐藤小津江・医薬コンサルティング事業部コンサルタント
「実は、GMPは法的には自由度が高いんです。それぞれの企業がきちんと説明責任を果たすことさえできれば、マネジメントのやり方はそこまで問われません。リスクがあって問題となりうるところを列挙し、優先順位をつけた上で対策をとり、残ったリスクをコントロールすればいいのです。だからこそ、企業からは『リスク評価はどうすればいいのか』という相談をよくいただきます」(平島氏)
「リスク評価をどうすればいいかと問われると、どうしても手法の解説になってしまうのは否めませんが、スコア化するツールはおすすめしていません。恣意的に数値を変えることもできるし、作業量と比べて得られるものが少ないからです。数値化するツールは、経営陣への説明などに使えばいい。そうでない場面では、『特性要因図』や『なぜなぜ分析』など、分析を深化できる方法をとるべきだと考えています。きちんと考えれば、合理的に手を抜くことができるはず。どこで手を抜いて、どこを手厚くすれば良いのか、それを考えることこそがリスクマネジメントです」(高橋氏)
改善は継続するもの
こうした本質を捉えた上での主体的で柔軟な運用は、バリデーションでも重要視されています。
「従来は同じ製造方法を3度繰り返し、全く同じように製造できることを保証しなければなりませんでした。一方、海外では『実施しては改善する』を繰り返し、最終的に最良の工程を目指すこともある。今回の改正GMP省令では、そういった方法も選択肢としてとれるようになりました」(佐藤氏)
「『継続的な改善』もキーワードです。施設や設備の改良、新技術の導入など、20~30年前は一度決めたらほかのことをしてはいけないなんて言われたりしていましたが、今はまったく違います。ただし、継続的な改善のための変更は、法令に基づく変更管理の手続きを守ることが大前提です。変更に限らず、GMPに関わる全ての活動について、企業が『説明責任』を果たすことが強く求められているのです」(平島氏)