[ロイター]米国のオピオイド中毒問題をめぐる訴訟で、3大医薬品卸売会社と製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)が総額260億ドル(約2兆9000億円)を支払うことで各州や自治体と和解する見通しとなった。次の焦点は、薬局や製薬企業へと移る。
総額260億ドル
和解案によると、医薬品卸のマッケソン、カーディナル・ヘルス、アメリソース・バーゲンが計210億ドルを拠出し、J&Jが50億ドルを支払う。今回の和解案は、4社を訴えているほかの州や自治体が一定数、合意に加わることが条件。和解案を拒否する州や自治体が多ければ、和解金額は変動する可能性がある。
米国のオピオイド危機をめぐっては、企業側がオピオイドのリスクを軽視し、甘い管理によって中毒性の高いこの薬物の乱用を許したとして、州や自治体が3000件以上の訴訟を起こしている。
オピオイド中毒問題では、ウォルグリーンズ・ブーツ・アライアンス、ウォルマート、ライト・エイド、CVSヘルスといった企業も、乱用が蔓延しているとの警告を無視したと非難されているが、今回の和解案にこれらの薬局・ドラッグストアは含まれていない。
さらには、アッヴィ、テバ・ファーマシューティカル・インダストリーズ、エンドー・インターナショナルも、今回の合意の対象外となっている。これらの製薬会社は、鎮痛薬は安全であるとの誤解を招くマーケティングを行ったとして批判を浴びている。
米CDC(疾患管理センター)によると、米国では1999~2019年に50万人近くがオピオイドの過剰摂取で死亡している。2020年の暫定データによると、薬物の過剰摂取による全体の死者数は前年比29%増の9万3331人に上っており、CDCは死者数としては記録的な年だったとしている。
薬局と製薬会社は、オピオイドの処方が増加したのは医師の指示によるもので、自らは連邦法に従っていると主張。既知のリスクはラベルに記載されているとし、批判に反論している。
製薬会社は現在、ニューヨークとカリフォルニアで訴えを起こされており、今年後半には薬局とともにサンフランシスコで訴訟に直面することになるとみられている。薬局はさらに、10月にオハイオで訴訟を控えている。
「共通の目標」
ケンタッキー大法学部のリチャード・アウスネス教授は、今回の和解によって被告となる企業が減り、残る企業はほかの企業を批判しにくくなると話す。アウスネス氏は「今回の和解でその仕組みが定式化されれば、被告となっている企業にとって和解へのプレッシャーとなる」と言う。訴訟では、和解に合意した企業は被告から外れることになる。
全米のオピオイド訴訟で地方自治体を代表するピーター・モウギー弁護士は、和解案に関する記者会見で、薬局が全国規模の合意に参加していないことに「いらだちを覚える」と述べた。モウギー氏は「薬局側には責任の所在を確認する十分な時間があった。われわれはオピオイドの蔓延を終わらせるという共通の目標を持っているはずだ」と語った。
薬局側は、コメントの求めに応じていない。
2019年、テバは230億ドル相当の依存症治療薬を寄付する和解案を提案した。一方、業界アナリストは、テバが負担する実際の費用は15億ドル程度にとどまると指摘し、原告側の弁護士はテバによる過大な評価に反発した。
テバは7月19日に発表した声明で、依存症治療薬の寄付を含む和解の成立に「自信」を持っており、それまでの間は「根拠のない主張」から防衛するとした。同社は「新型コロナウイルスによって自治体の予算は大きな影響を受けている。医薬品の寄付が依存症の蔓延を解決するアプローチを提供することは明らかだ」としている。
アッヴィとエンドーにも和解交渉に関するコメントを求めたが、両社は応じなかった。
オピオイド危機をめぐっては、オキシコンチンを製造販売するパーデューファーマと、オピオイドの後発医薬品を製造販売するマリンクロットも和解交渉を行っている。現在、破産裁判所を通じて、それぞれ100億ドル以上、16億ドル以上の和解支援を確保している。
(Brendan Pierson、翻訳:AnswersNews)