免疫チェックポイント阻害薬で、術前・術後の補助療法を対象とした開発が活発化しています。日本では今年、中外製薬の「テセントリク」が非小細胞肺がんで、小野薬品工業の「オプジーボ」が食道がんと尿路上皮がんで、それぞれ術後補助療法の適応追加を申請。MSDの「キイトルーダ」なども含め、各社がさまざまながん種でグローバル開発を進めており、切除不能な進行がんを中心に市場を形成してきた免疫チェックポイント阻害薬は、より早期へと使用を広げていくことになります。
「テセントリク」非小細胞肺がんで申請
中外製薬は7月7日、免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-L1抗体「テセントリク」(一般名・アテゾリズマブ)について、非小細胞肺がんに対する術後補助療法への適応拡大を申請しました。
早期肺がんでは、約半数の患者が手術後に再発を経験するとされます。アストラゼネカが過去10年以内に手術を受けた肺がん患者を対象に日本で行った調査によれば、医師の説明を受けた患者の7割超が術後補助化学療法を実施。そのうち8割がシスプラチン併用の化学療法、残りの患者が経口代謝拮抗薬による治療を選択しています。手術を受けた患者の多くは再発しない期間がどれだけ長く続くかを重視しているといい、無病生存期間を延長する治療法が期待されています。
今回、テセントリクの申請のもととなった国際臨床第3相(P3)試験「IMpower010」は、IB期~IIIA期の非小細胞肺がんで、手術後にシスプラチンを含む補助化学療法を最大4サイクル受けた患者を対象に実施。PD-L1陽性のII~IIIA期の患者では、支持療法と比べて再発または死亡のリスクを34%低下させ、がん免疫療法として初めて非小細胞肺がんの術後補助療法で有効性を示しました。
テセントリクは、非小細胞肺がんの術前補助療法でもP3試験を行っており、2023年の申請を目指しています。小野薬品工業の抗PD-1抗体「オプジーボ」(ニボルマブ)も、切除可能なステージIBからIIIAの患者を対象に術前補助療法でP3試験を実施中。今年4月には、オプジーボと化学療法の併用療法が、化学療法のみと比べて病理学的完全奏効を有意に改善したとのデータを発表しました。
術前補助療法では、未検知のがん細胞を早期に治療できるのに加え、がん腫瘍があるうちにがん免疫療法を行うことでより強い免疫応答が得られる可能性があるといい、がん免疫療法を使用することで治療効果が向上できると期待されています。
「キイトルーダ」「オプジーボ」周術期で勢力拡大を目指す
免疫チェックポイント阻害薬はこれまで、再発がんや転移性がん、切除不能ながんを対象に適応を広げてきました。一方、周術期では、悪性黒色腫の術後補助療法でオプジーボなど3剤が承認を取得しているだけ。免疫チェックポイント阻害薬にとって補助療法には市場開拓の大きな機会があり、悪性黒色腫以外のがん種でもグローバルで開発が活発化しています。
今年5月には、オプジーボが食道がん・胃食道接合部がんに対する術後補助療法への適応拡大の承認を米国で取得。日本でも申請中で、欧州でも近く承認が見込まれています。さらに筋層浸潤性尿路上皮がんの術後補助療法でも各国で申請を行っており、米国では今年9月に承認の可否が判断される予定です。
米メルク(日本ではMSD)も抗PD-1抗体「キイトルーダ」(ペムブロリズマブ)の周術期への適応拡大に力を入れており、補助療法を含む早期がんで20近くの臨床試験を実施。トリプルネガティブ乳がんの術前・術後補助療法では、病理学的完全奏効データと無イベント生存率の中間データに基づき、昨夏に米国で申請を行いました。もともとは今年3月の審査終了が予定されていましたが、米FDA(食品医薬品局)諮問委員会の見解に基づき、さらなるデータが出てくるまで審査が延長されています。
キイトルーダは、腎細胞がんの術前補助療法でもプラセボ対照の国際共同試験で無病生存期間を32%延長し、死亡リスクを46%低下させたとの結果を今年6月に発表しており、各国で申請に向けた準備を進めているといいます。非小細胞肺がんのアジュバント療法でも、年内には試験結果が判明する見通しです。
テセントリクを開発するスイス・ロシュは、非小細胞肺がんの術後補助療法で申請を進めているほか、トリプルネガティブ乳がんでも主要評価項目である病理学的完全奏功の改善を達成。頭頸部扁平上皮がんや腎細胞がんなど、ほかのがん種でも来年には試験結果が得られるとみています。
このほか、イミフィンジや、仏サノフィの「Libtayo」(cemiplimab)も補助療法を開発中。有力企業がしのぎを削る免疫チェックポイント阻害薬市場では、今後、術前・術後補助療法が新たな競争の舞台となりそうです。