昨年来、1年以上にわたって社会経済活動に大きな影響を及ぼし続けている新型コロナウイルス感染症。ワクチン接種によって正常化への期待も高まりますが、IQVIAは国内医薬品市場への影響が少なくとも2022年度まで続くと見ています。
新薬の新規処方が低調
IQVIAによると、2020年度(20年4月~21年3月)の国内医療用医薬品市場は、前年度比2.7%減の約10兆6250億円。成長率は、新型コロナウイルス感染症流行前の予測を1.7ポイント下回っており、同社は新型コロナが市場に1860億円のマイナス影響を与えたとしています。
新型コロナの市場への影響は、主に患者の受診行動の変化によるものです。昨年4月以降、感染拡大に伴って受診控えの動きが広がり、医薬品の使用も数量ベースで前年を下回る月が続いています。
特に大きなインパクトを受けたのが、「新規」(ブランド薬の新規処方)、「切り替え」(服用中のブランド薬から競合品への切り替え処方)、「追加」(服用中の医薬品に別の医薬品を追加処方)です。
同社が処方箋データをもとに処方動向を週次で分析したところ、新規・切り替え・追加の処方箋は昨年2月最終週以降、今年3月の第4週までずっと前年を下回っており、マイナスが大きい週では前年から50%も減少。感染拡大で来院のタイミングが見通せない中、積極的な治療変更よりも既存治療の継続と現状維持に焦点が当てられた結果で、こうした傾向はほぼすべての診療科で確認されているといいます。
長期処方が増加 処方日数も長期化
新規・切り替え・追加の中でも特に影響を受けたのが新薬で、同社ジャパン・ソートリーダーシップ・ディレクターのアラン・トーマス氏は「新薬の新規処方が過去12~18カ月は非常に低調だった」と指摘。新薬には14日間の処方制限があり、きめ細かなモニタリングが必要となるため、外出自粛が続く中では医師としても新薬を処方しづらい状況にあったといいます。
一方、継続処方は、週ごとに波はあるものの全体としてはほぼ横ばいで、新規・切り替え・追加のような大幅な落ち込みは見られませんでした。長期処方(4週間以上)の割合は37%(コロナ流行前)から45%(20年4月~21年3月)に上昇し、平均処方日数も34日から42日に延びました。
21年度はマイナス2.4%~マイナス0.6%予測
今年春までの状況を反映したIQVIAの最新の予測によると、2021年度の国内市場は新型コロナワクチンを除いて10兆3650億円~10兆5650億円となり、前年度比で2.4~0.6%の減少となる見込み。新規・切り替え・追加に対する新型コロナの影響は続き、21年度は金額にして827億円のマイナス影響があると予測しています。
新型コロナワクチンを除く向こう5年間の年平均成長率は、マイナス1.2%~マイナス0.2%を予測しており、25年度に市場は10兆1350億円~10兆3350億円まで縮小する見通し。特許品市場は20年度との比較で2兆5200億円~2兆6200億円増加するものの、特許切れ品(長期収載品+後発医薬品)市場は3兆400億円~2兆9400億円減少し、全体として5年間で4900~2900億円縮小する見込みです。世界市場はこの間、年平均4.4%の成長が予測されていますが、日本市場では毎年の薬価改定がネックとなり、世界市場と異なるトレンドを描きます。
新型コロナワクチンを除外した最新の市場成長率の予測は、22年度までは新型コロナ流行前の予測を下回っていて、アラン氏は「新型コロナの日本市場への影響は22年度まで予測される」と指摘。落ち込んだ新規・切り替え・追加の処方がコロナ前の水準に戻るのは23年度になるといいます。
新型コロナワクチンの市場は5年間で5100億円
新型コロナワクチンの国内市場は、21~25年度の5年間で5100億円と予測。予測は、▽16歳以上の人口の78%が21年度中に接種し、22年度中に2回接種がほぼ全員完了▽22年度半ばから12~15歳に対象を拡大▽23年度以降、2年に1回の追加接種が発生▽21年度の接種1回あたりのワクチンの価格は平均1300円で、時間がたつにつれて若干低下――を前提としていますが、接種のスピードや効果の持続期間など不確かな部分も多く、予測は大きく変動する余地があります。
新型コロナワクチンの単年度の市場は、▽21年度2250億円▽22年度500億円▽23年度1150億円▽24年度300億円▽25年度900億円――と予測。これを含めると、22年度の国内医療用医薬品市場は10兆5950億円~10兆7950億円となる見込みです。ただ、新型コロナワクチンによる増分を加えても、25年度までの国内市場全体の年平均成長率はマイナス1.1%~マイナス0.1%にとどまり、世界市場のプラス4.9%を大きく下回ると見られています。