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アルツハイマー病薬承認で批判に直面するFDA

更新日

ロイター通信

[ロイター]米国で約20年ぶりとなるアルツハイマー病の新薬を承認したFDA(食品医薬品局)。効果を示す強力なエビデンスがないまま、新たな治療薬を市場に送り出すという判断に対し、専門家らは「大きなリスクを冒している」と指摘している。

 

バイオジェンの「ADUHELM」(一般名・アデュカヌマブ)は、アルツハイマー病の進行を遅らせるのではなく、アルツハイマー病の原因と考えられる脳のプラークを減少させるというエビデンスに基づいて承認された。

 

FDAは1992年以降、250件以上の「迅速承認」を出してきた。それらは主に、希少疾患や有効な治療法がない少数の患者を対象にしたものだ。こうした場合、FDAは製薬企業に追加の臨床試験を求め、効果を証明できなければ市場からの撤退を余儀なくされる。

 

しかし、ADUHELMは、潜在的な患者数と医療システムにかかるコストの面で、過去に迅速承認された製品とは次元が異なる。

 

加えて、今回のFDAの承認は、臨床的有用性が十分示されていないとした諮問委員会の見解を無視したものだった。FDAが6月7日に承認を発表して以降、諮問委のメンバー3人が抗議のために辞任した。

 

科学的なプロセスを揺るがす

フィラデルフィアにあるペン・メモリー・センターの共同ディレクター、ジェイソン・カーラウィッシュ博士は「今回の決定は、科学的なプロセスと手法の基礎を揺るがすものだ」と話す。カーラウィッシュ氏は、ADUHELMの治験実施施設の1つを運営した。

 

カーラウィッシュ氏によると、FDAは「独断で」決定を下し、アミロイドβを除去するADUHELMが患者の転機を改善するかどうか検討することを諮問委に求めなかったという。カーラウィッシュ氏は「科学的にも、臨床的にも、政治的にも気がかりな出来事だ」と話している。

 

バイオジェンの発表によると、米国では初期のアルツハイマー病患者約150万人が同薬の対象となる。価格は年間5万6000ドルで、連邦政府の高齢者向け保険メディケイドが費用の大半を負担することになるという。

 

FDAの承認により、バイオジェンは必要な検証試験が終了するまで、数年間にわたってADUHELMを販売することができる。同薬の年間売上高は100~500億ドルに達すると予測されている。

 

FDA諮問委のメンバーであるジョンズ・ホプキンス大公衆衛生学教授のケイレブ・アレキサンダー博士は「いくらアンメットニーズがあったとしても、十分なエビデンスがなければそれを充足することにはならない」と指摘する。

 

アルツハイマー病協会によると、米国のアルツハイマー病患者は2050年に約1300万人に達し、現在の2倍に増加すると予想されている。

 

FDAの見解

バイオジェンのリサーチチーフであるアルフレッド・サンドロック氏は、FDAが結論を出すまで、2年間にわたって臨床試験データを丹念に分析したと話す。サンドロック氏はインタビューで「米国民を代表してFDAが正しい判断を下したと信じている」と語った。

 

FDAは、ADUHELMにはアルツハイマー病患者の脳からアミロイドβを除去する明確なエビデンスがあるとし、自らの判断を擁護している。アミロイドβは長らく、アルツハイマー病治療薬の標的となってきた。しかし、過去に開発されてきた薬剤には、アミロイドβを除去することで認知機能の低下を抑えることを証明したものはなかった。

 

FDA新薬部門のディレクターであるピーター・スタイン博士は、ロイターに対し、ADUHELMはアミロイドβの減少と認知機能の低下抑制の間にこれまでで最も明確な相関関係を示していると話し、アミロイドβの減少から臨床効果を予測するのは適切であるとの認識を示した。

 

一方、この枠組みが開発中のほかのアルツハイマー病治療薬に適用されるかは不透明だ。アミロイドβを標的とする薬剤を開発している製薬企業としては、イーライリリーやロッシュが挙げられる。FDA医薬品評価研究センター長のパトリツィア・カバゾーニ博士は「今回の判断が、ほかのアルツハイマー病治療薬や神経変性疾患治療薬の承認に道を開くことになるかどうかは、まだ言えない」と話す。

 

FDAの決定を批判する専門家は、アミロイドβの除去が臨床上のベネフィットを予測する適切な代替エンドポイントであるとの確信は持っていない。カーラウィッシュ氏は「私たちは、FDAによって解釈され、用いられているこうした規制を再考する必要がある」と指摘する。

 

 

検証試験には9年

薬剤コスト監視機関のICER(Institute for Clinical and Economic Review)の報告書によると、米国で迅速承認を受けた医薬品の半数近くが約3年で本承認に至っている。ただし、例外もある。例えば、イーライリリーの肉腫治療薬「Lartruvo」は撤退し、ロシュの「Avastin」も乳がん治療薬としての承認を取り消された。

 

ICERによると、迅速承認を受けた100以上の医薬品が中央値で2年未満で市場に出ている。報告書は、迅速承認後の検証試験の多くは完了に時間がかかっており、結果も曖昧になることが多いと指摘している。

 

法律事務所ローウェンスタイン・サンドラーのジム・シェハン弁護士は「当局は迅速承認に慣れてしまっている」と話している。

 

バイオジェンは、ADUHELMの検証試験を9年かけて完了させるとしている。FDAはこの見通しを「保守的」とし、「可能な限り早く完了させるための取り組みを支援する」と表明している。

 

ADUHELMは高額だが、患者支援団体はFDAの決定を歓迎し、複数の薬剤の組み合わせによる治療法の開発も含め、この分野の研究を復活させるだろうと期待している。患者支援団体体UsAgainstAlzheimer’sは「今回の承認は、ほかの製薬企業による疾患修飾薬開発への追加投資を呼び起こすだろう」との声明を発表した。

 

(Deena Beasley/Julie Steenhuysen、翻訳・AnswersNews)

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