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自然言語解析AIで「AI医療機器をリードし続ける」FRONTEO・守本正宏社長/豊柴博義ライフサイエンスAI CTO|ベンチャー巡訪記

更新日

製薬業界のプレイヤーとして存在感を高めるベンチャー。注目ベンチャーの経営者を訪ね、創業のきっかけや事業にかける想い、今後の展望などを語ってもらいます。

 

守本正宏(もりもと・まさひろ)1989年に防衛大学校を卒業し、海上自衛隊で勤務。退官後、半導体製造装置メーカーのアプライドマテリアルズジャパンを経て、2003年にUBIC(現FRONTEO)を設立。07年に東証マザーズ上場。

 

豊柴博義(とよしば・ひろよし)早稲田大大学院 理工学研究科数学専攻。理学博士。米国立環境健康科学研究所や国立環境研究所を経て2006年に武田薬品工業に入社。グローバルデータサイエンス研究所・日本サイトバイオインフォマティクスヘッド、サイエンスフェローを歴任。FRONTEOでは、ライフサイエンスAI事業のCTOを務める。

 

世界初 言語系AI医療機器の臨床試験を開始

――今年3月、「会話型 認知症診断支援AIシステム」の臨床試験を開始すると発表しました。言語系AI医療機器が臨床試験に入るのは世界初といいます(編注:インタビューは4月20日に実施。同月26日に試験開始を発表した)。

守本:認知症の診断は通常、神経心理学的検査(MMSEなど)の結果を判断材料に専門医が行います。われわれのシステムは、医師と患者の5~10分の日常会話から、認知機能障害をスクリーニングするもので、従来の検査を代替するものとして開発を進めています。

 

豊柴:「検査に時間がかかって大変だ」「専門医がおらず診断ができない」といった医療機関で使用してもらい、医師が最終的な判断を下すための情報として使ってもらうことを考えています。

 

守本:会話データだけを使用するので、遠隔診療での活用も期待しています。

 

豊柴:臨床試験では、患者さんに神経心理学的検査と問診を受けてもらいます。われわれは、問診の会話をテキストデータとしてシステムに読み込ませて、認知機能低下が疑われるかどうかを提示する。その結果を神経心理学的検査と比較し、きちんと予測精度が出るかどうかを見ることになっています。

 

――販売面では昨年、共和薬品工業と提携しました。保健適用での展開を考えていますか。

守本:承認されれば医療機関に販売していこうと考えていて、国内では共和薬品工業に販売を担ってもらいます。神経心理学的検査も保険適用になっていますので、AIシステムも基本的には保険適用の範囲内で活用してもらおうと考えています。

 

現時点では、国内向けに開発を進めていますが、アジアやアメリカ、ヨーロッパにも展開していきたい。将来的には保険外での活用も考えていて、アプリなどの形で一般の人が自分の状態を確認するような使い方にも広げていきたいです。

 

現場を知っているから、現場が必要とする情報を出せる

――論文探索AI「Amanogawa」に創薬支援AI「Cascade Eye」と、創薬研究を支援する2つのAIを製品化しています。一口にAI創薬といっても、たくさんのアプローチがありますが、その中で自社の優位性をどう考えていますか。

豊柴:われわれの場合、エンジニアだけでなく専門的なバイオロジーの知識を持った研究者も社内にいるので、ターゲット探索やバイオマーカーなどを使って薬が効く患者さんを選別するところなどに強みがあると思っています。

 

化合物の最適化に人工知能を使っているところは多いと思いますが、最初に流行るのはそこだろうと思っていました。なぜなら、化合物の最適化にはそれほどバイオロジーの知識は必要とされないから。一方で、われわれが扱っている領域はドメイン知識(業界や事業に関する知識)が必要で、それに基づいて研究現場が必要とする情報を出せることががわれわれの1番の優位性だと思っています。

 

守本:創薬の分野で、われわれがまず解析対象にしたのは医学論文。論文の探索は、創薬研究で疾患メカニズムを細かく見ていくのに欠かせない作業で、ここをAIで支援しています。従来なら創薬研究者が手作業で行っていたものですが、それを自動化できたのは作業を理解しているからこそです。

 

――製薬企業では、すでに武田薬品工業や中外製薬がFRONTEOのAIを導入しています。アカデミアを含め、導入先からの反応はいかがですか。

豊柴:製薬会社には、Cascade Eyeを通じ、疾患に関係する分子や遺伝子の間の関係をパスウェイマップ状に可視化したものを提供していますが、そうした形でアウトプットするシステムはそもそも多くありません。

 

われわれの自然言語解析AIは、文章から関係性を見つけ出すことを得意としていますが、これについて製薬企業からは「(出てきた結果は)人間のイメージするところから距離があり、研究者にとっては新たな視点になる」「そこから新しいメカニズムの薬や、今まで考えていなかった分子間の関連などが見えてくる」と言ってもらっています。われわれのAIは、特にディスカバリーの面で強みがあると思っています。

 

――ライフサイエンス事業でのこれまでの手応えは。

守本:顧客からの提案を新しいアプリケーションや機能の開発に繋げることもできていますし、手応えはすごく感じています。

 

ソフトウェアの開発者と現場(医師や看護師、研究者などの専門家)にはコミュニティギャップがあり、これを埋めていくには繊細なチューニングが必要になります。われわれのAIは、小さいコンピュータパワーでも精度良く結果を出すことができる「マイクロAI」。大掛かりなシステムを用意する必要がないので、既存のワークフローと組み合わせやすいのが利点です。これは、他社のシステムにはなかなかない特徴だと思っていますし、今後さらに活用の範囲が広がっていくのではないかと思っています。

 

豊柴:最初のころは、精度の向上など技術面に意識が行っていたんですね。でも、顧客と話す中で、システムを使って作業をどう効率化できるかがキーになるということがわかってきました。そうした意味で、ドメイン知識を持った研究者を抱えているからこそ、いいものができつつあると感じています。

 

ライフサイエンスにも「フェアネス」を

――ヘルスケアに参入したきっかけを教えてください。

守本:FRONTEOはもともと、リーガルテックの分野で起業しました。裁判や調査の行方を決める「証拠」を収集・提示する技術を日本にも導入し、法の下のフェアネスを実現するべく会社を立ち上げました。

 

その後、弁護士や犯罪捜査官の情報源には、文章や会話など言語情報が多いということがわかり、その分析をいかに効率化していくか突き詰める中で、自然言語処理に特化したAIエンジン「KIBIT」が誕生しました。

 

リーガルテック以外の分野にアプローチし始めたのは2013年ごろです。リーガルテックのように専門家の判断が必要な分野がほかにもあるのではないかと思い、われわれの技術を紹介して回っていく中で、ライフサイエンス分野でも医師や看護師の判断に文章や会話を使っていて、それを効率化したいというニーズがあることを知りました。

 

ライフサイエンスもリーガルテックも、専門性や経験で判断の精度が変わってしまいます。けれど、どちらも本来は平等に受けられるべきものですよね。「情報社会におけるフェアネスを実現する」というわれわれの理念にもかなっていると思い、参入を決めました。

 

――豊柴さんがFRONTEOに参画したのは、どんなきっかけからですか。

豊柴:私はもともと製薬会社で、ターゲット探索や、ゲノムバイオマーカーを活用して分子標的薬の有効性・安全性を検証する臨床試験に参画していました。そうした中で当時、最も時間をとられていたのが、論文を読んで測定結果とともにまとめ上げる作業でした。

 

FRONETOを見つけたのは、この作業を効率化するために「NLP(自然言語処理)をしっかり学びたい」という気持ちが芽生え、「面白いNLPをやっている企業がないか」と考えていた時です。当時はまだ「人工知能を使って何かやっていこう」という会社が多かったのですが、FRONTEOはすでにリーガルテックでAIを使っていました。

 

なんとなく(FRONTEOには)「AからB、BからCと遷移するが、CからDには矛盾がある」といったことがわかる技術があるんじゃないかと感じたんです。それは分子の反応の流れを示すカスケードにも似ています。途中で矛盾がわかれば、新しい発見につなげることもできるのではないかと考えました。

 

――その後、豊柴さんはライフサイエンス領域で活用するAIシステム「Concept Encoder」を開発しました。

豊柴:FRONTEOにはすでにKIBITがありました。KIBITは「いかに早く証拠をみつけるか」という訴訟の現場のニーズから出てきたもので、現場の知見や暗黙知を学習して解析するのに向いています。一方、ライフサイエンス領域では、特定の医師の意見を参考にするのではなく、データを客観的に見て判断することが求められます。KIBITと違う視点を持ったエンジンが必要だという話になり、Concept Encoderの開発につながりました。

 

守本:われわれはそのころ、「現場のニーズを理解できていないかもしれない」という危機感を抱いていました。だから、ライフサイエンス業界に詳しい人に参画してもらいたかった。KIBITを無理にライフサイエンスの領域に展開するのに限界を感じていて、新たなAIエンジンを作っていこうという時に彼が参画してくれたんです。

 

今は、リーガルテックの分野や特許分析の分野で、KIBITとConcept Encoderそれぞれの特徴を組み合わせた新たなプロダクトも進めています。

 

AI創薬企業になることも

――ライフサイエンスAIの今後の展望は。

豊柴:診断支援AIでは、患者さんから集めたデータを、認知機能のさらに細かな予測や、認知機能の低下の早期発見、方言など言葉のゆらぎへの対応など、機能の改良につなげていきたいと思っています。さらには、自動音声認識を使ったものも開発していきたいです。

 

守本:認知症をきっかけに、さまざまな中枢神経疾患に広げたいですね。電子カルテの看護記録を解析して転倒・転落リスクを予測する「Coroban」も、転倒以外にも応用していきたい。創薬支援AIは、企業に活用してもらうのはもちろん、われわれ自身が創薬ターゲットを出すAI創薬企業になることも考えています。

 

収益としては、ライフサイエンス領域では、今後5年くらいで売上高100億円を、グローバル展開に入った後は少なくとも1000億円を実現していきたいと思っています。

 

――各プロダクトで収集したデータは、ほかにどんな活用を考えていますか。

守本:われわれの収集データは自然文で、医師や患者の主観情報にあたりますが、自然言語は規則性がないので、海外を含め他社ではほとんど活用されていない。せっかく大量の情報があるのに使われていないんです。

 

Concept Encoderは主観情報の経過や変化も追いかけていけるので、ペイシェントジャーニーを理解し、クオリティ・オブ・ライフを維持するのにも使っていけるのではないかと考えています。自然言語を、新たなデジタルバイオマーカーとして活用できるようにしていきたいです。

 

製薬業界にはさまざまな規制、ルールがありますよね。たとえば、販売情報提供活動に関するガイドライン。日報やメールなどMRが書いた文章(主観情報)を確認し、ガイドラインに抵触していないかをチェックしないといけません。こうしたところも、われわれの自然言語処理を活かして効率化できると考えています(編注:5月6日にはMR業務支援AIシステム「Guideline Viewer」の提供を開始)。業務効率化の課題解決にも貢献していきたいです。

 

――将来、どういった立ち位置を目指しますか。

豊柴:AI医療機器では、リーディングカンパニーとしてトップを走っていると思っています。これからもそうありたいし、社内では常に言っているのですが、ファースト・イン・クラスを出して業界を引っ張っていく会社でありたいと思っています。

 

(聞き手・亀田真由、写真はFRONTEO提供)

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