4月5日、第一三共が2025年度までの5年間の中期経営計画を発表しました。昨年、日米で発売した「エンハーツ」などのADC(抗体薬物複合体)を軸に、5年で1.66倍の売り上げ拡大を目指します。
25年度に売上収益1兆6000億円
第一三共は4月5日、2021~25年度の5カ年の中期経営計画を発表しました。
新中計は「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」という25年ビジョンを実現し、今回新たに設定した30年ビジョン「サステナブルな社会の発展に貢献する先進的グローバルヘルスケアカンパニー」に向けた成長ステージに移行する、との位置付け。最終年度の数値目標は、「売上収益1兆6000億円」「研究開発費控除前営業利益率40%」を掲げました。20年度はそれぞれ9600億円と32%を予想しており、5年で売上収益を1.66倍、研究開発費控除前営業利益を2.11倍拡大させる計画です。
過去5年で株価は4倍に
20年度までの前の中計では、米国の疼痛薬事業を縮小したことや、ADCの開発投資がかさんだことを背景に、売上収益1兆1000億円、営業利益1650億円の数値目標の達成を22年度に2年先送りしました。一方、抗HER2 ADC「エンハーツ」(一般名・トラスツズマブ デルクステカン)の発売によって、注力するがん事業は大きく進展。株価は5年で約4倍に上昇し、時価総額も一時、国内トップ10に入る規模まで膨らみました(4月8日の終値時点では17位)。
エンハーツを発売し、ほかのADCの開発も順調に進んだことで、「25年ビジョン実現の確度はかなり高い」と眞鍋淳社長CEO(最高経営責任者)は言います。エンハーツを含む2つのADCの開発・販売では、英アストラゼネカとグローバルな戦略的提携を締結。受領対価は合わせて最大129億ドル(約1兆4190億円)という大型提携で、がん事業確立に大きく弾みをつけました。
3ADCの最大化に注力
新中計の戦略は、▽3つのADCの最大化▽既存事業・製品の利益成長▽さらなる成長の柱の見極めと構築▽ステークホルダーとの価値共創――の4本柱。中でも、25年度の数値目標を達成する上で最も重要になるのが、1本目の柱であるADCです。
3つのADCとは、日米で昨年発売したエンハーツと、抗TROP2 ADC「DS-1062」(ダトポタマブ デルクステカン、通称・Dato-DXd)、抗HER3 ADC「U3-1402」(パトリツマブ デルクステカン、同・HER3-DXd)。新中計では25年度にがん領域だけで6000億円以上の売り上げを目指しており、そのほとんどをこれら3剤で稼ぎ出す算段です。
エンハーツはすでに、日米で乳がんと胃がんと対象に販売されており、今年1月には欧州でも乳がんの適応で承認を取得。中計期間中には、HER2低発現乳がん、HER2陽性/変異非小細胞肺がん、HER2陽性大腸がんなどへの適応拡大を見込んでいます。DS-1260は、アクショナブル遺伝子の変異がない非小細胞肺がんに対する2次・3次治療での発売を予定。U3-1402は、EGFR遺伝子変異のある非小細胞肺がんでの承認取得を目指します。
競争は激化
新中計の5年間で予定している研究開発費約1.5兆円は、そのほとんどをこれら3つのADCに集中的に投入。同じく5000億円を見込む設備投資も、最大で3000億円をADCの生産体制強化に充てます。
一方で、ADCの分野では近年、開発競争が活発化しており、グローバル大手の参入も相次いでいます。抗TROP2 ADCでは、米イミュノメディクスが開発した「Trodelvy」が米国で先行して発売。米ギリアド・サイエンシズは昨年10月、そのイミュノメディクスを210億ドル(約2.3兆円)で買収しました。眞鍋社長も「われわれがうまくいっているところにもかなり競合が入ってきているので、それらの仕上がり具合も(リスクとして)ある」と話しており。開発スピードと競合に対する優位性の確立が課題になります。
エドキサバンはピーク時2200億円へ
ADCへの積極投資を支えるのは、既存の事業や製品の利益成長です。
2020年度の売上収益予想が1629億円(前年度比5.7%増)とブロックバスターに成長した抗凝固薬エドキサバン(国内製品名・リクシアナ)は、中計期間中に想定されるピーク時に年間2200億円以上まで伸ばし、27年の特許切れまで安定的に利益を生み出す製品として期待。疼痛治療薬「タリージェ」や、欧州で昨年承認を取得した高コレステロール血症治療薬「Nilemdo/Nustendi」などを中心に、がん以外の領域でも新薬の売り上げを拡大させていく方針です。
ADCを含む新薬の拡大で、売り上げの構成は大きく変わる見込みです。25年度には、売上収益に占める新薬の比率が米国と欧州でほぼ100%、日本で約80%、アジア/中南米でも約45%まで上昇。米国では売上収益の約95%をがん領域で稼ぐようになり、その比率は欧州で約45%、日本とアジア/中南米では約20%になるとしています。現在は売り上げ全体の半分以上を日本が占めていますが、25年度には海外が日本を上回る想定です。
次の柱は
新たな中計の期間中には、3つのADCに次ぐ柱の構築も進めます。
候補となるのは、DXd-ADC(3つのADCと同じくペイロードにデルクステカンを用いたADC)や第2世代ADC(3つのADCとは別のリンカーやペイロードを用いたADC)、新コンセプトADC(免疫細胞への作用などを併せ持つ持つADC)、改変抗体、核酸医薬など。遺伝子治療や細胞治療の技術開発も進め、将来への種を仕込みます。
第一三共がADCの技術開発に着手したのは2010年のこと。そこから10年の時をへて、長年の投資はいよいよ収穫期を迎えます。ADCが収益を支えている間に次なる柱を確立できるかどうかが、あえて「がん」の文字を外した2030年ビジョンの達成と、その後の持続的な成長を左右します。
(前田雄樹)
AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
・第一三共