米国に本社を置くコンサルティング企業DRGのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。中国では100を超えるバイオシミラーが開発されており、市場は2029年までに25倍に成長すると予測されています。
(この記事は、DRGのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
世界最多のパイプライン
長らく生物学的製剤のコピー製品が出回っていた中国で、2019年2月、シャンハイ・ヘンリウス・バイオテックが開発したリツキシマブのバイオシミラーが承認された。中国にとってこれが初めてのバイオシミラーの参入で、以来、ベバシズマブ、トラスツズマブ、アダリムマブのバイオシミラーが発売された。ほかにも多くのバイオシミラーが開発の後期段階にあり、中国は現在、世界で最も多いバイオシミラーのパイプラインを抱えている。
中国はがんと生活習慣病の患者が多く、DRGの疫学調査によると、非小細胞肺がん、乳がん、2型糖尿病、高血圧症など、多くの疾患で患者数が世界で最も多い部類に入る。にもかかわらず、価格の高い標準治療の市場(生物学的製剤とそのバイオシミラーを含む)は、米国や欧州に比べて小さい。DRGの調査によると、2019年の中国の主要な抗がん剤と免疫療法用生物学的製剤(最近特許が切れたか、特許切れを迎えようとしている)の売上高は30億ドルで、バイオシミラーはそのうちの2%未満にとどまっている。
中国で生物学的製剤の普及が低調なのは、承認が遅れていること、患者にとって手に入れやすい価格でないこと、償還率が低いこと、などが理由だ。中国では人口の95%以上が政府の公的医療保険に加入しているが、高額な薬剤のほとんどは最近まで償還されておらず、患者の手の届かないところにあった。
さらに、中国の製薬企業は歴史的に、革新的な研究開発に力を入れておらず、それによって生じた空白は海外企業の製品で埋められてきた。
医療改革が普及後押し
しかし、こうしたシナリオは、中国政府が大規模な医療改革を行った2017年以降、急速に改善している。一連の改革の中で最も影響力が大きかったのが、国家償還薬リスト(NRDL)の定期的な更新だ。これにより、がんやリウマチに対する世界的なブロックバスターを含む1400以上の西洋薬が償還可能となった。
さらに、国内の革新的研究に対してインセンティブが設けられ、多くの中国メーカーがこの分野に参入し、国内で開発した費用対効果の高い生物学的製剤やバイオシミラーを通じて多国籍企業と競争している。実際、中国のバイオシミラーのパイプラインはほぼ地元メーカーが占めており、多国籍企業はほとんど参入できていない。
現在、中国では多くの生物学的製剤が償還可能となっており、今後数年でさらに多くの生物学的製剤が承認・償還されると予想されている。中国の生物学的製剤はようやく活気づいてきたといえ、NRDLに含まれる治療薬は、大幅な値下げが行われたにもかかわらず、売上高は堅調に伸びている。
市場は29年までに25倍に
DRGの調査によると、中国の主要な生物学的製剤の市場は2017年から3倍に成長し、今後10年間でさらに5倍に成長する可能性がある。これらの生物学的製剤の多くが特許期間を満了した、あるいは近く満了することを考えると、バイオシミラーはこの市場拡大から恩恵を受けることになる。実際、中国のバイオシミラーのパイプラインには100を超える候補があり、その多くは間もなく市場に出回る見通しだ。
選択肢が広がれば、多くの患者がバイオシミラーに移行し、市場は飛躍的に成長する可能性がある。バイオシミラーが発売され、ブランド薬の価格が大きく下がったとしても、バイオシミラーはブランドから多くの患者と売り上げを奪う。DRGの予測によると、中国のバイオシミラー市場は2029年までに25倍に成長し、米国に次ぐ世界2位の規模になる見通しだ。推進力となるのは中国国内のメーカーで、多国籍企業はほとんど恩恵を受けられない。
バイオシミラー市場の成長は、これまで国内で限られた成功しか収められなかった中国の製薬企業にとって、大きな変革をもたらすだろう。
(原文公開日:2021年2月15日)
(この記事は、DRGのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです)
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