月経のある女性のおよそ3割が抱えているとされる月経困難症。低用量ピルによる治療が有効ですが、日本ではなかなか普及が進んでいません。「女性の健康」への関心が高まる中、製薬企業も啓発活動に力を入れています。
労働損失は年間4900億円
月経困難症は月経期間中に月経に伴って起こる症状で、代表的なものとして、下部腹痛、腰痛、眠気、頭痛、イライラなどがあります。これとは別に、月経の3~10日前に起こるものは月経前症候群(PMS)といい、月経に関連するこれらの症状をあわせて月経随伴症状と呼びます。
日経BP総研メディカル・ヘルスラボの黒住紗織上席研究員によると、働く女性の7割が月経症状による生産性の低下を感じており、昇進の辞退や離職を考える人も少なくないといいます。月経随伴症状による労働損失は年間4911億円に上るとも言われ、国も力を入れる「女性の活躍推進」には、こうした女性特有の健康問題に対する取り組みが欠かせません。
月経随伴症状をはじめとする女性特有の健康問題は、女性ホルモンの変化によって起こり、ライフステージごとに起こりやすい症状も異なります。月経のある女性で見ると、約6割にあたる1600万人がPMSを、約800万人が月経困難症を抱えていると推計。現代の女性は初経が早く、妊娠・出産の回数も少ないため、生涯の月経回数が多く、月経トラブルも増加しているといいます。
月経困難症の痛みは、月経時に子宮内膜でプロスタグランジンが過剰に分泌され、子宮が収縮することなどで起こります。原因疾患のない「機能性月経困難症」と、子宮内膜症や子宮筋腫などが原因で起こる「器質性月経困難症」があり、特に子宮内膜症では9割の患者が月経困難症を発症しているとされます。放っておくと、不妊症や卵巣がんにつながる可能性もありますが、市販の鎮痛薬や体を温めるなどの対症療法でしのぐ女性も多く、受診している人は半数にも至りません。
低用量ピル 普及率は3%
月経困難症の治療には、NSAIDsなどの鎮痛薬や漢方薬、低用量ピルなどが使われますが、未受診の患者の多い日本では、諸外国と比べて低用量ピルの普及が進んでいません。国内の普及率は3%ほどで、30%前後のフランスやカナダをはじめ、欧米各国やアジア諸国にも遅れをとっています。
低用量ピルは、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲスチン)の配合剤。排卵や子宮内膜増殖を抑える作用を持ち、プロスタグランジンなどの過剰産生を抑制することで子宮収縮を抑え、痛みを軽くします。子宮内膜症の治療では第一選択となりますが、聖路加国際病院の百枝幹雄副院長によると「機能性月経困難症でも、背景に別の病気が潜んでいることがあるので、もう少し積極的にホルモン治療(低用量ピルなど)をした方が良いのではないかと言われている」といいます。
国内では3種類のLEP製剤が販売
低用量ピルには、月経困難症や子宮内膜症の治療薬として使用される「LEP」と、経口避妊薬として使用される「OC」があります。日本では1999年にOCが使われはじめ、2008年に日本新薬と富士製薬工業が初のLEP「ルナベル」(一般名・ノルエチステロン/エチニルエストラジオール)を発売。これまでに、バイエル薬品の「ヤーズ」(ドロスピレノン/エチニルエストラジオール)とノーベルファーマの「ジェミーナ」(レボノルゲストレル/エチニルエストラジオール)とあわせて3つの薬剤が発売されています。
これら3剤に加え、国内では富士製薬工業が月経困難症治療薬「FSN-013」を開発中です。同薬はベルギーのMithra社が創製したもので、天然型エストロゲンを起源とする製剤。2024年の発売を目指し、臨床第3相(P3)試験の準備を進めています。昨年11月には、同薬の開発・販売でエムスリーと提携。販売には同社のeプロモーションを活用することにしており、富士製薬工業は「未受診の患者や潜在的な患者に向けての疾患啓発にも可能性がある」と期待しています。
アプリで治療支援、あすか製薬は新組織
こうした中、女性特有の疾患に対する医薬品を扱う製薬各社などで、月経困難症の啓発や治療支援が盛んになっています。富士製薬工業は18年に女性健康支援アプリ「LiLuLa」をリリース。20~40代を中心とする利用者約5万人に情報提供を行っています。
国内最大級の女性健康情報サービス「ルナルナ」を運営するエムティーアイは、提携先のメディパルホールディングスとOC/LEPの服薬支援に取り組んでいます。低用量ピルを服用する人向けのルナルナ内の「ピル(OC/LEP)モード」や、患者の同意のもと医療機関とデータを共有する「ルナルナ メディコ」を活用し、月経困難症の治療を支援。活動には沢井製薬も協賛しています。
あすか製薬も創立100周年を迎えた昨年、新組織「女性のための健康ラボMint⁺」を立ち上げ、情報発信などの活動を始めました。Mint⁺が昨年行った調査によると、多くの男性も女性のつらい症状について理解したいと考えているといいます。一方で、性に関する教育の機会は限られ、欧米では一般的な「産婦人科のかかりつけ医」も日本では馴染みがありません。Mint⁺では、高校保健体育の副教材の制作も支援しており、今後も産婦人科が身近になるような情報発信を計画しています。
(亀田真由)