インサイト・バイオサイエンシズ・ジャパンのゼネラルマネージャー、ローター・フィンケ氏(同社提供)
創薬型企業の米インサイトが、日本市場に本格参入します。日本ではこれまで、グローバルの製薬大手と組んで自社創製品を展開してきた同社。今年9月に胆管がん治療薬として申請したFGFR阻害薬ペミガチニブで自社販売に乗り出します。
ペミガチニブを申請
JAK阻害薬「ジャカビ」や同「オルミエント」の開発で知られる米インサイトが、日本市場への本格参入に向けて活動を強めています。
日本では今年9月、初めて自社で新薬の承認申請を実施。申請したのは、FGFR阻害薬ペミガチニブ(適応=FGFR2融合遺伝子陽性の局所進行または転移性胆管がん)で、承認後は同社として初めて日本での自社販売を行う方針です。同社はこれまで、日本など米国以外の地域では導出先を通じて製品を展開してきましたが、現在、自社販売に向けて日本法人でセールスチームの立ち上げを進めています。
胆管がんは、中国や日本などのアジアで罹患者数の多い疾患。肝内胆管がんでは、7~14%にFGFR2融合遺伝子があることがわかっています。FGFR阻害薬は、エーザイや大鵬薬品工業も開発していますが、ペミガチニブがファースト・イン・クラスとなる見込み。同薬は今年4月、米国で「Pemazyre」の製品名で承認されており、欧州でも申請中です。
日本や米国、欧州などでは、切除不能な胆管がんの1次治療として化学療法が推奨されているものの、標準的な2次治療はまだ確立されていません。ペミガチニブは、2次治療としての使用が想定されます。
グローバルで売上高20億ドル
1991年設立の米インサイトは、2002年に創薬活動を開始し、09年にはJAK1/2阻害薬ルキソリチニブの開発・商業化でスイス・ノバルティスと提携。米国ではインサイトが「Jakafi」の製品名で、それ以外の地域ではノバルティスが「Jakavi/ジャカビ」の製品名で販売しています。日本では14年にノバルティスが発売し、現在、骨髄線維症と真性多血症の適応で承認。インサイトは、今年日本と米国で承認されたMET阻害薬カプマチニブ(製品名・タブレクタ)もノバルティスに導出しています。
09年には、米イーライリリーともJAK1/2阻害薬バリシチニブ(オルミエント)でパートナーシップを結びました。同薬は関節リウマチを対象に、日本と欧州で17年、米国で18年に発売。2つのJAK阻害薬と、米アリアド(17年に武田薬品工業が買収)から欧州での販売権を獲得したポナチニブ(ICLUSIG)が貢献し、19年にはロイヤリティを含む売上高が21億5900万ドル(約2353億円)に達しました。
今年は、Pemazyreとタブレクタに加え、独モルフォシスと共同開発した抗CD19抗体tafasitamab(Monjuvi)を米国で発売。収益構造も多様化し、20年も売り上げは拡大する見込みです。
日本法人のインサイト・バイオサイエンシズ・ジャパンは17年に設立。同社ゼネラルマネージャーのローター・フィンケ氏は、日本で自社販売を行う理由について「各地域の臨床研究開発者から医療従事者、患者へと途切れることなく適切な情報を提供したい」と話します。米国で販売基盤を確立し、一定の売り上げを確保できたこともあり、日本や欧州、カナダでも自社による販売体制を築いていく考えです。
ペミガチニブの販売体制の詳細は明らかにしていませんが、インサイト・ジャパンでコマーシャル部門を統括する黒山祥志エグゼクティブディレクターは「各拠点病院をカバーするセールスフォースを鍛え上げる」と意気込みます。コマーシャル部門に加え、PMS(製造販売後調査)組織の準備も進めています。
経口PD-L1阻害薬など開発中
日本では現在、ペミガチニブを含めて7つの新薬を開発中。うち半数以上が自社創製です。
申請中のペミガチニブは、膀胱がんなどの固形がんや、8p11骨髄増殖性腫瘍の患者を対象に、臨床第2相(P2)試験を実施中。同薬以外の自社創製品としては、P13Kδ阻害薬parsaclisibやJAK1阻害薬イタシチニブ(いずれもP2/3試験)、経口PD-L1阻害薬INCB86550(P1試験)などを開発しています。
このほか、アトピー性皮膚炎を対象としたルキソリチニブ外用剤のP1試験が進行中。同製剤はグローバルで単独開発しており、欧米で行ったP3試験ではIGAスコアの有意な改善を達成しました。近く米国などで申請する見込みです。
モルフォシスと共同開発したtafasitamabは米国以外の地域での販売権を持っており、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫を対象に日本でもP1試験を開始。米ケリセラから17年に導入したアルギナーゼ阻害薬INCB01158もP1試験の段階にあります。
日本でも18の臨床試験を進めており、高い創薬力で存在感を高めてきた同社。自社展開により、米国外の市場でもプレゼンスの拡大を目指します。
(亀田真由)