米国に本社を置くコンサルティング企業DRGのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。 インスリンの価格が高騰する米国で、患者負担を抑えようと、さまざまな取り組みが行われています。
(この記事は、DRGのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
20年で16倍に
高額な薬剤費は、慢性疾患の管理を難しくするおそれがある。慢性疾患の治療薬は長期間にわたる使用が必要で、特にメディケアの受給を受ける患者は、費用が高額にならないように使用を控える傾向がある。CVSヘルスによれば、米国の糖尿病患者は3000万人を超え、その3分の1は上昇する薬剤費を負担できるほどの経済的な余裕がない。
メイヨー・クリニックの調査によると、インスリン製剤「ヒューマログ」の1バイアルあたりのコストは、1999年の21ドルから2019年には332ドルまで上昇した。750万人を超える米国人が使用しているにもかかわらず、その価格は高騰している。自己負担額は通常、表示価格に基づいて決まるため、正味価格が下がっても患者の負担は増える。これは、2型糖尿病の経口薬についても同様だ。
インスリン製剤の価格の上昇に対し、関係者の間で新たな取り組みが始まっている。
今年3月、メディケアパートDの「シニア・セイビング・モデル」では、1カ月あたりのインスリンの自己負担額について、35ドルを上限とすることが発表された。このモデルは来年1月1日に開始される予定で、受給者の負担を平均で66%減らすとともに、5年間で2億5000万ドルのコスト削減が見込まれる。
この任意参加のモデルは、製造販売元がカバレッジギャップ割り引きを負担する現行のプログラムに基づいて作られており、支払い者と製薬会社が協力する機会を与えるものだ。そうすることで、双方に共通のり市区が健康保健プランに反映され、カバレッジギャップによる自己負担増加の歯止めとなる。モデルには、イーライリリー、ノボノルディスク、サノフィが参加する予定で、メディケアパートDの各保険プランも協力の意向を示している。
自己負担をゼロに
CVSは今年1月、「RxZERO」と呼ばれる新たなプログラムを立ち上げた。これは、保険料と免責金額は据え置いたまま、すべての糖尿病治療薬を対象に加入者の費用負担をなくすプログラムだ。このプログラムを通じて服薬アドヒアランスが向上し、患者の状態が良くなれば、保健プラン提供者もコスト削減というメリットを享受できる。
PBM(薬剤給付管理会社)のバリューベース・フォーミュラリーに収載されるのは、後発医薬品は推奨先発医薬品が中心。このため、保険プラン提供者のコストは、年間1人あたり平均1256ドルから1225ドルに削減される。
インスリン製剤「ランタス」などの製造元であるサノフィは、2018年4月から患者の自己負担に上限を設ける「バリュー・セイビング(VALyou Savings)」プログラムを行っている。このプログラムの恩恵を受けるのは、無保険者や従来の患者支援プログラムの対象にはならなかった人たちだ。プログラムの開始以降、患者の薬剤費は約1000万ドル削減された。現在の価格は月99ドルで、ペン型注射器と10mLバイアルを最大10箱まで使用できる。
シグナ-エクスプレス・スクリプツな今年1月、インスリンの自己負担額の上限を月25ドルとする「ペイシェント・アシュアランス・プログラム」を開始した。これにより、インスリンの自己負担額は少なくとも40%削減された。PBMはインスリンの製造販売元と連携し、販売時のコストを下げるよう交渉した。このプログラムを利用できるのは、民間の保険プランの加入者。4万人を超える加入者に対し、開始後4カ月で370万ドルのコスト削減に成功した。
法律で費用に上限
オスカー・ヘルスは、インスリンなど一部の高額な薬剤の自己負担額を最大で月3ドルとする新たなフォーミュラリーを策定した。よく使われる高コストな100の薬剤を収載し、服薬アドヒアランスの向上と健康の増進を目指している。今年1月に運用を開始したが、一部の州では3ドルを上限とすることが認められず、影響は限定的だ。
メディカも今年1月から、企業保険加入者のインスリンの自己負担額の上限を25ドルとしている。超過分は自社で負担し、保険料を上げる予定はないという。
保険加入者のインスリンの費用に上限を設ける法律が、3つの州で可決されている。コロラド州は今年1月から、民間の保険プランに対し、30日間のインスリンの自己負担額が100ドルを超えることを禁じている。イリノイ州でも上限を月100ドルとする法律が成立し、来年1月から施行される。ニューメキシコ州も同じく、来年1月から、30日間のインスリンの自己負担額を25ドル以下に制限する。ほかにも、17の州で同様の制度が提案されている。
いくつもの政治的な論争を経て、多様なステークホルダーがインスリンのコストを抑制する取り組みに着手している。価格が下がれば、患者は命綱とも言えるインスリン製剤の使用を控えることがなくなり、服薬アドヒアランスが向上し、患者のケアコーディネーションや健康状態の向上につながるだろう。
こうした取り組みによって、製薬会社はインスリンの売り上げを伸ばし、受給者はカバレッジギャップでの自己負担が減ると予想される。支払者が財務的なリスクを負担することで、たとえ患者の自己負担は下がっても、製薬会社はインスリン製剤の費用をすべて充当することが可能となる。
(原文公開日:2020年10月13日)
(この記事は、DRGのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです)
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