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【押さえておきたい】欧州臨床腫瘍学会(ESMO)2020で発表された6つの注目トピックス|DRG海外レポート

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米国に本社を置くコンサルティング企業DRGのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。 先月、オンラインで開かれた欧州臨床腫瘍学会(ESMO)から、薬物治療に関する注目のトピックスをピックアップしました。

 

(この記事は、DRGのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

 

※ ※ ※

 

今年のESMO(欧州臨床腫瘍学会)年次総会は、新型コロナウイルス感染症の影響で、9月19日~21日にバーチャル形式で開催された。がん患者のケア向上という最終目標のもと、2100を超える口頭発表やポスターセッションが行われ、興味深い新たなデータが発表された。その中から、薬物治療について特に印象に残ったトピックスをピックアップして紹介する。

 

トリプルネガティブ乳がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の進展

▽評価の分かれるテセントリク。キイトルーダが早期の転移性トリプルネガティブ乳がんの有力な治療薬候補に。

 

ロシュの「テセントリク」は、アブラキサンとの併用でPFS(無増悪生存期間)を延長することを示し(IMpassion130試験)、免疫チェックポイント阻害薬として初めて、PD-L1陽性の転移性トリプルネガティブ乳がんの治療薬として承認された。

 

ESMO2020で発表された同試験の解析決結果によると、PD-L1陽性患者のOS(全生存期間)の中央値は、テセントリク+アブラキサン群が25.4カ月、プラセボ+アブラキサン群が17.9カ月で、統計学的に有意な延長が認められた。一方、パクリタキセルとの併用療法を評価したIMpassion131試験では、PD-L1の発現の有無に関わらず、テセントリク+パクリタキセル群とプラセボ+パクリタキセル群でPFSやOSに差は見られなかった。

 

すでに報告されている、転移性トリプルネガティブ乳がんを対象とした「キイトルーダ」の臨床試験(KEYNOTE-355試験)では、アブラキサンやパクリタキセルなどの化学療法にキイトルーダを上乗せすることで、PFSの中央値が統計学的に有意に延長した(キイトルーダ+化学療法群9.7カ月、プラセボ+化学療法群5.6カ月)。

 

両試験で異なるデータが出た理由はまだわかっていないが、医師の薬剤選択に影響を与えることになるだろう。

 

 

ESMO2020で発表されたIMpassion031試験のデータによれば、高リスクの早期トリプルネガティブ乳がん患者に対し、術前化学療法に追加してテセントリクを投与すると、PD-L1発現の有無に関わらずpCR(病理学的完全奏効)率が有意に改善した(テセントリク群57.6%、プラセボ群41.1%)。昨年のサンアントニオ乳がんシンポジウムで発表されたKEYNOTE-522試験では、リンパ節転移用陽性の早期トリプルネガティブ乳がん患者にキイトルーダと術前化学療法を併用したところ、ITT解析集団でpCRに有意な改善が認められた(キイトルーダ群64.8%、プラセボ群51.2%)。

 

これらのデータは、早期のトリプルネガティブ乳がんに対する術前化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用にとって、追い風となるものだ。一方で、テセントリクとキイトルーダの違いを見つけることは、現時点では極めて難しい。今後、EFS(無イベント生存期間)のデータがそろってくれば、両剤の早期トリプルネガティブ乳がん治療薬としての役割も明らかになるはずだ。

 

HR陽性HER2陰性早期乳がんでは、ベージニオがイブランスをリード

▽PALLAS試験で有効性が示されなかったイブランス。monarchE試験で有効性が証明されたベージニオが、HR陽性HER2陰性早期乳がんでの承認に弾み。

 

CDK4/6阻害薬(ファイザーの「イブランス」、イーライリリーの「ベージニオ」、ノバルティスの「Kisqali」)は、2015年の発売以来、進行・転移性のHR陽性HER2陰性乳がんの標準的な1次治療薬となっている。3剤はいずれも、HR陽性HER2陰性の早期乳がんを対象とした臨床試験が行われており、イブランスとベージニオが先行している。しかし、ESMO2020で発表された両剤に関するデータは対照的だった。

 

イブランスのPALLAS試験では、ステージII/IIIのHR陽性HER2陰性乳がん患者を、術後内分泌療法+イブランス群と術後内分泌療法単独群に割り付けた。中間解析のデータによると、3年iDFS(無浸潤疾患生存期間)はそれぞれ88.2%と88.5%と差はなかった。

 

 

一方、ベージニオのmonarchE試験では、高リスクHR陽性HER2陰性早期乳がん患者の2年iDFSが、ベージニオ+内分泌療法群で92.2%と、内分泌単独療法群の88.7%を上回り、iDFSイベントの発生リスクも25.3%低下と顕著な効果が認められた。

 

2つの試験でこのような差が出た理由は今も検討中だが、対象患者の違いによる可能性が高い。ベージニオが対象とした再発リスクの高い患者のほうが、CDK4/6阻害薬の追加が奏功しやすいからだ。イブランスにとっては、高リスク患者を対象に進行中のPENELOPE-B試験が頼みの綱となる。

 

Spartalizumabと標準治療の併用、メラノーマで有意なベネフィット示せず

▽3剤併用療法は、高TMB転移性悪性黒色腫に有効性を示す傾向。

 

標準治療と免疫チェックポイント阻害薬により、悪性黒色腫の治療は向上しているが、それでも病勢進行に至る患者は依然として多い。

 

COMBI-i試験では、転移性BRAF変異陽性悪性黒色腫を対象に、ノバルティスの「タフィンラー」「メキニスト」とPD-1抗体spartalizumabの3剤併用療法を評価した。主要評価項目は、治験責任医師の評価によるPFS。3剤併用群の中央値は16.2カ月で、対照群12.0カ月と比較して統計学的な有意差を示すことができなかった。現在進行中のサブ解析では、TMB(遺伝子変異量)が高い患者は、3剤併用療法のベネフィットを得られる傾向にあることが明らかになっている。

 

 

一方、ロシュが行ったIMspire150試験は、COMBI-i試験とほぼ同じ戦略で統計デザインが異なる試験だ。テセントリク+ゼルボラフ+Cotellicの3剤併用療法が検討され、最近、転移性悪性黒色腫の治療として米国で承認を取得した。

 

とはいえ、3剤併用療法が現在の治療選択肢よりも優れているかどうかは、はっきりと証明されたわけではない。今後、その長期的なベネフィットを明らかにしていく必要がある。

 

非小細胞肺がん1次治療、Libtayoの有効性を示すもキイトルーダの優位揺らがず

▽LibtayoがPD-L1発現50%以上の患者で生存期間延長を示したが、キイトルーダとは厳しい勝負に。

 

EMPOWER-Lung1試験は、TPS(PD-1発現陽性細胞の割合)50%以上の転移性非小細胞肺がんの1次治療として、リジェネロン・ファーマシューティカルズとサノフィの抗体PD-1抗体「Libtayo」単剤療法と、白金製剤2剤併用の化学療法を比較したものだ。リジェネロンとサノフィは2020年4月、確実な有効性が示されたとして、同試験の早期中止を発表している。

 

 

ESMO2020で公表された同試験の中間データによると、OSの中央値は、Libtayo群で未達、白金製剤2剤併用群では14.2カ月だった。Libtayoの安全性プロファイルは、これまでの試験結果や、ほかの抗PD-1/PD-L1抗体と一致していた。

 

欧米では年内にもLibtayoの承認申請が期待されている。ただ、PD-L1高発現非小細胞肺がんでは、すでにはキイトルーダ単剤療法が承認されており、Libtayoはシェア獲得に苦戦を強いられるだろう。

 

ALK陽性非小細胞肺がん、1次治療でローブレナの承認間近か

▽ローブレナが登場してもアレセンサのリードは変わらず。

 

ESMO2020で発表されたCROWN試験の中間解析データによると、ファイザーのALL阻害薬「ローブレナ」は、ALK融合遺伝子陽性転移性非小細胞肺がんの1次治療薬で、同社の「ザーコリ」よりも高い有効性を示した。

 

BIRC(盲検下独立審査委員会)がPFSを評価したところ、ローブレナ群ではPFSイベントの発生リスクが72%の低下。副次評価項目のひとつである、BIRC評価による脳転移のOR(全奏効)とCR(完全奏効)についても、ベースラインでの脳転移病変が計測可能か否かに関わらず、ローブレナの方が良好だった。もうひとつの副次評価項目であるOSは、解析時のデータが十分ではなかった。

 

 

現在、ALK陽性転移性非小細胞肺がんの1次治療薬として欧米で承認されているのは、▽ロシュの「アレセンサ」▽武田薬品工業の「Alunbrig」▽ザーコリ▽ノバルティスの「ジカディア」――の4つ。このうちアレセンサは、ザーコリをはじめとするほかのALK阻害薬を完全に圧倒している。そう考えると、臨床現場でのシェア争いでローブレナの相手となるのは、アレセンサに絞られるだろう。

 

胃・食道がん1次治療、オプジーボとキイトルーダが有望

▽オプジーボとキイトルーダが胃・食道がんの1次治療薬を目指す。

 

ESMO2020では、胃・食道がんの1次治療として免疫チェックポイント阻害薬のベネフィットを明らかにした3つの試験に関するデータが発表された。このうち、HER2陰性の腺がん患者を対象に、オプジーボ+化学療法と化学療法単独とを比較したのが、ATTRACTION-4試験とCheckMate-649試験だ。

 

 

そのうちCheckMate-649試験では、OSとPFSがともに改善し、評価項目を達成。一方、アジア人だけを対象としたATTRACTION-4試験では、PFSは改善したものの、OSは改善しなかった。

 

3つ目は、局所進行・切除不能または転移性の食道胃接合部腺がん患者を対象とした キイトルーダのKEYNOTE-590試験で、キイトルーダ+化学療法はOS、PFS、ORR(客観的奏効率)のいずれについても化学療法単独を上回った。

 

これらの試験データから、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用は、胃・食道がんの標準的な1次治療となる可能性がある。

 

(原文公開日:2020年9月28日)

 

(この記事は、DRGのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです)

 

【記事に関する問い合わせ先】
DRG(クラリベイト・ジャパン・アナリティクス株式会社)
野地(アカウントマネージャー)
E-mail:Hayato.noji@clarivate.com

 

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