帝人ファーマが新会社を設立し、訪問看護事業を本格展開すると発表しました。ほかに例を見ない、製薬企業による訪問看護ステーションの展開。その狙いは。
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地域包括ケアに照準
帝人ファーマは9月30日、訪問看護事業を手掛ける新会社「帝人訪問看護ステーション」を設立し、10月1日から本格稼働すると発表しました。
帝人ファーマは1999年から20年以上、訪問看護事業に取り組んでおり、すでに全国7府県で13の訪問看護ステーションを運営。在宅酸素療法に使う酸素濃縮装置など、同社の医療機器を使用している患者へのフォローをメインに展開してきました。今回、新会社の設立によって訪問看護事業は独立した事業となり、従来の在宅医療事業を補完する存在から、より主体的に経営を行う事業へと転換。同社の医療機器を使っている患者に限らず、サービスを提供していくことになります。
「地域密着型総合ヘルスケアサービス」を展開
新会社では今後、大規模ステーションを展開し、活動エリアをコンパクト化することで訪問効率を高める考え。訪問看護師の教育や、理学療法士などほかの専門職の採用にも力を入れ、サービスの向上を目指します。
帝人ファーマの親会社である帝人は、今年2月に発表した2020~22年度の中期経営計画で、「少子高齢化・健康志向へのソリューション提供」を掲げており、リハビリ・介護や予防・健康増進も含めた「地域密着型総合ヘルスケアサービス」の展開はその柱となる戦略の1つ。国が2025年をメドに構築を目指す「地域包括ケアシステム」を見据え、「より高品質なケアを提供するとともに、医療機関・居宅介護支援事業者などをきめ細かに連携し、地域包括医療体制の確立に貢献していく」(帝人ファーマ)としています。
25年度までに100億円事業に
帝人ファーマは昨年10月、地域包括ケアシステムに対応した包括的なヘルスケアサービスの提供に向け、従来は「医薬品」と「在宅医療」の事業別だった組織を「営業」と「研究開発」の機能別に再編。医薬品と医療機器の営業機能を子会社「帝人ヘルスケア」(旧・帝人在宅医療)に集約。地域密着型の営業を一体的に展開する体制を敷きました。
帝人ファーマは2015年から、在宅療養中の患者の情報を関係する医療・介護従事者で共有するシステム「バイタルリンク」を販売しており、訪問看護とバイタルリンクを合わせた「地域包括ケア事業」で25年度までに売上高100億円を目指しています。在宅医療事業やバイタルリンクとも連携し、シナジーを創出する考えです。
迫る「フェブリク」の特許切れ
帝人ファーマが地域包括ケアの分野で事業の拡大を進めるのは、痛風・高尿酸血症治療薬「フェブリク」(一般名・フェブキソスタット)への後発医薬品参入が2022年に迫っているという事情もあります。
フェブリクの19年度の売上高は386億円で、帝人のヘルスケア事業(19年度は1539億円)の4分の1を稼ぐ最主力品。同薬の特許切れにより、ヘルスケア事業の既存ビジネスは大幅な縮小が見込まれ、同薬に代わる新たな収益減の確保が急務となっています。
帝人ファーマは22年度までに、骨粗鬆症治療薬「ITM-058」(アバロパラチド酢酸塩、20年5月申請)とA型ボツリヌス毒素製剤「NT-201」(インコボツリヌストキシンA、「ゼオマイン」の製品名で20年6月承認)の2新薬を発売する見込み。帝人の中計では、これらの新薬でフェブリクの落ち込みを補いながら、地域包括ケアなどの新規事業で収益を拡大させていく絵を描いています。
製薬各社が地域包括ケアへの対応を模索する中、「医薬品+在宅医療」というユニークな事業基盤を生かした展開を進める帝人ファーマ。公的医療保険外のサービスも視野に、新事業の創出を狙います。
(前田雄樹)