米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。先月、米国のトランプ大統領が薬価の引き下げを促す大統領令に署名しました。製薬企業にはどんな影響があるのでしょうか。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
大統領令に署名
2020年7月24日、米国のトランプ大統領は、医薬品価格の引き下げを促す複数の大統領令に署名した。この大統領令には、次の施策が含まれる。
国際薬価指標
今回の大統領令で最も積極的な施策は、メディケアで使われる処方薬の価格を、国際的な基準に基づいて決定することだ。これは、メディケアプログラムと高齢者が負担するメディケア・パートBでの医薬品の支払を、経済水準が同等な他国並に抑えるという措置である。
この施策の施行は8月24日まで延期され、製薬企業には「薬価を他国並みに引き下げる案を出す」猶予が与えられている。国際参照価格決定方式(IRP)の活用は、参照対象国を基準に薬価を引き下げる一般的な方法だ(ペロシ下院議長によるIRP案によると、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、日本、英国の薬価が基準になる)。
リベートと割引
今回の大統領令により、製薬企業が薬剤給付管理会社(PBM)に支払うリベートは廃止され、その分がメディケア・パートDの加入者に割引として還元される。さらに、340Bプログラムに参加する連邦政府認定の医療機関は、価格が下がった分を所得の低い患者に還元しなくてはならない。トランプ氏は、この施策によって数十億ドルのコスト削減につながると主張している。
カナダからの輸入
大統領令によって、政府が特定の処方薬の輸入に関する計画を策定することが認められる。緊急用の米国製インスリンを再輸入することも認められ、個人が同意の上でカナダから価格の安い医薬品を購入することができる。
製薬企業への影響
国際薬価指標の規定は製薬企業にとって厳しいものだが、政府が新型コロナウイルス治療薬の開発・供給で製薬企業を頼っている中での発表である。製薬企業には8月24日の期限まで交渉の余地が残されており、規定はそのあとに発効される。
PBMに支払われるリベートに関する規定は、これを実施することで連邦政府の支出が増加したり、保険料が上昇したりすることがないと米保健福祉省(HHS)長官が認めることが条件となっている。一方、2019年に提案された同様の規定を議会予算局が分析したところ、メディケアの保険料は上昇し、連邦政府は10年間で1770億ドルの負担増を強いられる可能性があることがわかった。こうしたことを考えると、この規定の実施は難しいかもしれない。
連邦法では、政府が小売薬局の薬価を直接交渉することは禁じられている。メディケアが支払う医薬品の価格を広範に統制するには、法律の制定が必要になるだろう。
注目すべきは、7月27日に予定されていたトランプ氏と製薬企業幹部との会合が、業界関係者が会合の生産性に懸念を表明して中止になったことだ。業界側はおそらく、大統領令に対して法的に異議申し立てを行うのが適切な対応だと考えている。このため、こうした施策が大統領選までに正式決定する可能性は低い。米国の将来的な医薬品価格の改革は、11月の大統領選と議会選で具体化するだろう。
(原文公開日:2020年8月13日)
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです)
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