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ニュース解説

【貧血】鉄剤、より使いやすく…JTや日本新薬が開発

鉄欠乏性貧血に対し、既存薬より使いやすい鉄剤の開発が行われています。治療の基本となる経口鉄剤では、日本たばこ産業(JT)が今年5月、既存薬より消化器系の副作用が少ないと期待されるクエン酸第二鉄水和物を申請。静注剤では、週1回投与の「フェインジェクト」(ゼリア新薬工業)が承認されたほか、日本新薬も少ない投与回数で高用量の鉄補充が可能な静注剤を開発しています。

 

女性に多い疾患

貧血は、血液の酸素を運ぶ能力が低下し、全身が酸素不足となった状態のこと。動悸・息切れ、疲労感、倦怠感などの症状を呈します。

 

貧血と一口に言っても原因はさまざまで、それによっていくつかの種類に分けられます。国際疾病分類第10版(ICD-10)では、▽血液を作るのに必要な栄養素が欠乏することで起こる「栄養性貧血」(鉄欠乏性貧血など)▽赤血球が破壊されることで起こる「溶血性貧血」(自己免疫性溶血性貧血など)▽骨髄の造血幹細胞が機能せず、血球が産生されないことで起こる「無形成貧血」(再生不良性貧血など)――の3つに大別され、原因に応じた治療が行われます。

 

【主な貧血の種類】(概要/主な治療): <栄養性貧血> 鉄欠乏性貧血/体内の鉄分が不足し、赤血球中のヘモグロビンが作れなくなることで起こる貧血。貧血で最も多い。/鉄剤 |巨赤芽球性貧血/骨髄に巨赤芽球(赤血球になる前の若い細胞)ができる貧血。造血作用のあるビタミン(ビタミンB12や葉酸)が欠乏することで起こる。/ビタミンB12葉酸 <溶血性貧血> 自己免疫性溶血性貧血/免疫系が自己の正常な赤血球を破壊してしまうことで起こる貧血。/ステロイド、脾臓摘出、免疫抑制剤 |サラセミア/ヘモグロビンを構成するグロビン遺伝子のα鎖やβ鎖の遺伝子異常が原因で赤血球が作られないため起こる。遺伝性疾患。/骨髄移植、輸血、脾臓摘出 |発作性夜間ヘモグロビン尿症/補体系(免疫系の一部)が制御不能となり、活性化されて赤血球を破壊することで起こる。再生不良性貧血や血栓症を合併することが多い。/骨髄移植、抗補体抗体 <無形成貧血>再生不良性貧血/血液中の赤血球、白血球、血小板のすべてが減少して起こる貧血。骨髄の造血幹細胞が機能せず、血球が産生されないことが原因。/免疫抑制療法、輸血、骨髄移植、トロンボポエチン受容体作動薬 |赤芽球減少症/赤芽球や網赤血球などが減少して起こる貧血。再生不良性貧血と同様、骨髄の造血幹細胞が機能しないことで起こる。/赤血球輸血、免疫抑制療法 |※国際疾病分類の第10版(ICD-10)などをもとに作成

 

貧血の中で最も患者数が多いのは、鉄の不足によってヘモグロビンの産生が低下することで起こる「鉄欠乏性貧血」。厚生労働省の患者調査によると、国内の患者数は約10万人(2017年時点)で、このうち9割近くを女性が占めています。鉄欠乏性貧血が女性に多いのは、月経による出血量で鉄が失われやすいため。貧血に至らなくとも、月経のある女性の約半数は鉄が欠乏した状態にあると言われています。

 

 【年代別の貧血患者数のグラフ(2017年)】(総数/男性/女性): <全体>鉄欠乏性貧血10.3万人/その他の貧血3.6万人 <鉄欠乏性貧血> ~19歳/7千人/2千人/4千人 |20歳台/11千人/―/11千人 |30歳台/19千人/―/18千人 |40歳台/38千人/1千人/37千人 |50歳台/10千人/―/9千人 |60歳台/5千人/2千人/3千人 |70歳以上/13千人/5千人/9千人 <その他の貧血>/―/―/― ~19歳/1千人/―/― |20歳台/2千人/―/2千人 |30歳台/4千人/―/3千人 |40歳台/3千人/―/3千人 |50歳台/2千人/―/1千人 |60歳台/6千人/3千人/3千人 |70歳以上/18千人/9千人/9千人 |※厚生労働省「患者調査」(2017年)をもとに作成

 

JTがクエン酸第二鉄の適応拡大を申請

鉄欠乏性貧血の治療は、経口の鉄剤で不足した鉄を補うのが基本。体内に鉄を十分蓄えるため、貧血が改善したあとも服用を続けるのが一般的です。経口鉄剤には、フマル酸第一鉄やクエン酸第一鉄ナトリウムなどがありますが、胃腸障害などの副作用が出た場合や、鉄の損失が多い場合は静注製剤を投与します。

 

経口鉄剤では今年5月、日本たばこ産業(JT)が、高リン血症治療薬として承認されている「リオナ」(一般名・クエン酸第二鉄水和物)の鉄欠乏性貧血への適応拡大を申請しました。国内で行った臨床第3相(P3)試験では、投与7週間後のヘモグロビン値の変化量で対照薬のクエン酸第一鉄ナトリウムに対する非劣性を確認。悪心・嘔吐の有害事象発現率も対照薬より低く、良好な忍容性が確認されたといいます。

 

販売を担当するJT子会社の鳥居薬品は、6月にあすか製薬と鉄欠乏性貧血の適応でコ・プロモーション契約を締結。婦人科に強いあすかとの提携で、女性に多いこの疾患での市場浸透を狙います。

 

静注剤では昨年3月、含糖酸化鉄に続いて2剤目の静注鉄剤となる「フェインジェクト」(カルボキシマルトース第二鉄)の承認をゼリア新薬工業が取得。スイスのビフォーファーマから導入した同薬は、1回あたりの鉄投与量が多く、週1回の投与で治療できるのが特徴。週に複数回投与されることもある既存薬に比べ、患者負担の軽減が期待されていますが、薬価収載について当局との協議に時間がかかっており、いまだに発売されていません。ゼリア新薬は「早期の発売に向けて当局との協議を継続中」としています。

 

婦人科を注力領域の1つとする日本新薬も、静注鉄剤「NS-32」(デルイソマルトース第二鉄)を開発中。現在、国内でP3試験を行っています。同薬はデンマークのファーマコスモスからの導入品で、こちらも既存薬より少ない投与回数で高用量の鉄補充が可能になるといいます。

 

【国内で開発中の主な貧血治療薬(2020年6月17日現在)】(段階/一般名(製品名/開発コード)/適応/社名): 承認(未収載)/カルボキシマルトース第二鉄(フェインジェクト)/鉄欠乏性貧血(静注剤)/ゼリア新薬工業 |申請/クエン酸第二鉄水和物(リオナ)/鉄欠乏性貧血(経口剤)/日本たばこ産業 |申請/sutimlimab(―)/寒冷凝集素症/サノフィ |P3/デルイソマルトース第二鉄(NS-32)/鉄欠乏性貧血(静注剤)/日本新薬 |P3/抗ヒト胸腺細胞ウマ免疫グロブリン(―)/中等症以上の再生不良性貧血/ファイザー |P3/ロミプロスチム(ロミプレート)/免疫抑制療法未治療の再生不良性貧血/協和キリン |P1/2/crovalimab(SKY59/RG6107)/発作性夜間ヘモグロビン尿症/中外製薬 |※各社のパイプラインをもとに作成

 

溶血性貧血でも新薬開発進む

一方、溶血性貧血ではサノフィが今年4月、抗補体(C1s)抗体sutimlimabを寒冷凝集素症の適応で国内申請しました。寒冷凝集素症は、補体経路(免疫系の一部)が正常な赤血球を誤って破壊する自己免疫性溶血性貧血。申請のもととなったグローバルP3試験では、溶血の抑制と治療開始後1週間以内の貧血・疲労の改善が確認されました。承認されれば、寒冷凝集素症を適応症とする初の治療薬となります。

 

補体をターゲットとする抗体医薬では、アレクシオンファーマが溶血性貧血の一種である発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療薬として、2週1回投与の抗補体(C5)抗体「ソリリス」(エクリズマブ、2010年発売)と8週1回投与の同「ユルトミリス」(ラブリズマブ、2019年発売)を販売。中外製薬も、発作性夜間ヘモグロビン尿症を対象に抗C5リサイクリング抗体「SKY59/RG6107」(crovalimab)のP1/2試験を実施中です。維持期には皮下投与で済むとして、静注であるソリリス/ユルトミリスとの差別化を図っています。

 

日本での患者数は多くありませんが、ヘモグロビンを構成するグロビン遺伝子の異常によって起こる鎌状赤血球症やサラセミアなどの開発も進んでいます。鎌状赤血球症では昨年、スイス・ノバルティスの「Adakveo」や米グローバル・ブラッド・セラピューティクスの「Oxbryta」が米国で承認。武田薬品工業も「TAK-755」の米国P1/2試験を行っています。

 

(亀田真由)

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