米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回は、2018年以降、7つの新薬が相次いで発売された米国の片頭痛治療薬・予防薬市場を展望します。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
7つの薬剤が相次ぎ発売
2018年、米国の片頭痛治療薬市場は▽「Aimovig」(ノバルティス/アムジェン)▽「Ajovy」(テバ)▽「Emgality」(イーライリリー)――という3つのCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)を標的とする抗体医薬が発売され、ターニングポイントを迎えた。
これら3つの薬は、片頭痛に特化し、その予防を適応として承認された最初の薬剤となった。加えて、予防薬市場では2010年の「ボトックス」の適応拡大以来の参入で、新規性もあった。積もり積もったニーズを背景に3剤はシェアを拡大し、処方は今も伸び続けている。
2020年もすでに、片頭痛の急性期治療薬として▽「Reyvow」(lasmiditan、イーライリリー)▽「Ubrelvy」(ubrogepant、アラガン)▽「Nurtec ODT」(rimegepant、バイオヘブン)――が発売された。片頭痛に特化した急性期向けの選択肢としては実に20年ぶりの新薬だ。さらに今年は、ルンドベックも抗体医薬の「Vyepti」を予防用に発売した。
片頭痛では、従来の急性期あるいは予防の治療で十分な効果が得られなかったり、使用できなかったりする患者も多い。これらの新薬は、こうした患者にとって必要な治療選択肢だ。需要と患者集団の規模は十分なため、新薬の成長を背景に米国の片頭痛治療薬・予防薬の市場規模は今後10年にわたって大きく拡大するとDecision Resources Groupはみている(2018~2028年のメーカー出荷売り上げの年平均成長率は10%超と予測)。
違いは明らか
ルンドベックが今年、予防薬として発売したVyeptiは4番手と遅れをとったが、ほかのCGRPを標的とする抗体医薬とは一線を画している。効果が速やかに現れ、多くの患者で1カ月あたりの片頭痛の日数が75%以上減少することから、われわれがインタビューしたキーオピニオンリーダー(KOL)の何人かが、Vyeptiをこのクラスで最も有効性の高い薬だと考えている。
一方、年4回の点滴静注である点も、自己注射が可能な競合品と明らかに異なる。われわれが2018年に米国の神経内科医を対象に行った調査では、Vyeptiの投与プロファイルが患者の好みに合いそうだと答えた医師はほとんどいなかったものの、3~5割は頻繁に痛みが起こる患者や慢性片頭痛の患者は、効くなら投与方法は気にせずどんな予防薬でも試すだろうと答えた。
競合のAjovyは投与頻度を選択することができる。年4回の投与(3本を連続して注射)も可能だが、2019年の神経内科医に対する調査では大多数の患者が毎月の投与を選んでおり、投与法でVyeptiが優位であることは変わらない。Vyeptiは2021年に急性期治療への適応拡大が予定されており、承認されれば病院での優先順位が上昇して新たな使用につながる可能性がある。急性期の臨床第3相(P3)試験の結果は、年内に明らかになる見込みだ。
新しい急性期治療薬についてKOLらにインタビューしたところ、Reyvowがゲパント系薬剤よりも効果が高いと考える向きも一部にはあるが、Reyvowには中枢神経系の副作用があり、結果として履歴書に「運転制限あり」と記入しなければならなく点が不利益になるという意見が優勢だ。
一方でKOLらは、ゲパント系薬剤の安全性・忍容性プロファイルは明確であり、非専門医の使用を促すと考えている。Nurtec ODTの剤形は急性期片頭痛の領域で独特と言えるわけではないが、外出時でも簡単に服用できるのは利点だ(通常の錠剤は年内に発売予定)。
より重要なのは、rimegepantの単回投与で48時間持続する鎮痛作用を認めた患者が多くいたとデータが示していることだ。このベネフィットのおかげで、1日おきの投与を検討した予防適応のP3試験で良好な結果が出せたのだと考えられる。2021年に予防への適応拡大が承認されれば、rimegepantは2つの目的で使用できる唯一の経口片頭痛治療薬として独自のポジショニングを築くだろう。
成否を分けるのはアクセスの良さ
われわれのインタビューに応じてくれた米国の神経内科医らは、どの抗体医薬を選ぶかは、その薬が患者の医療保険でカバーされているかどうかによる、と答えている。実際、2019年は、クラス3番手のEmgalityが広く保険適用されていることもあって大きく処方シェアを伸ばした。
Institute for Clinical and Economic Review(ICER=臨床経済的評価研究所)は、急性期向け経口薬の費用対効果を分析し、lasmiditan、ubrogepant、rimegepantはトリプタン系薬剤に不適格または効果不十分な患者には最適、という穏当な結論を出した。トリプタン系の8成分はさまざまな製剤が使用可能となっており、そのほとんどは後発品だ。
一方、ICERは最終報告で、ゲパント系薬剤の医療給付価格基準を、アラガンが提供した追加のエビデンスに基づいて年間4200~4600ドルに引き上げた。Ubrelvyの年間卸購入価格(4,896ドル)は、報告ではICERの基準額をわずかに上回り、UbrelvyとNurtec ODTのパック価格は同程度となっている。対照的に、Reyvowの年間卸購入価格(4,610ドル)はICERの基準額(ドラフトの時点から変更なく2,200~3,200ドル)を大幅に上回ると報じられている。
支払い会社は、フォーミュラリーを設計するにあたってICERの知見を考慮するため、こうした決定によってイーライリリーは契約交渉で大きな重圧を負うことになる。しかし、主戦場となるのは割戻し/値引きであり、保険適用の優位さで決着がつく。フォーミュラリーの位置付けを、市販後のデータがさらに支持するだろう。
予防への適応拡大を想定すると、rimegepantには別の課題がある。Aimovig、Emgality、Ajovyの価格は年間約7,200ドルで、これが新たな予防薬の基準価格になることはほぼ間違いない(Vyeptiは月の価格がより安いが、投与に費用がかかり、おそらく医療給付としての保険適用になる)。rimegepantは75 mg1錠につき106ドルで、1日おきに服用した場合の年間コストは抗体医薬よりはるかに高い。とはいえ、予防とは別に突発的な痛みで急性治療薬を使用する必要性は、低下するかなくなることもあるだろう。
こうしたことを考えると、バイオヘブンはrimegepantが2つの目的を兼ねて処方されたときの真のコストと相対的価値が、直接的な競合品の多くと同等であることを立証する必要に迫られる。CGRPを標的とする治療薬で構成されるレジメンがそれにあたるというのが、われわれの見方だ。一見すると、この価格差は別々に処方するほうに有利なようだが、服薬コンプライアンスと治療継続率、片頭痛エピソードの発現や慢性片頭痛で治療した日数を計算に入れたわれわれの分析では、双方の実際の年間コストは拮抗する。
アラガンが経口CGRP受容体拮抗薬であるatogepantを予防薬として開発していることにも注意すべきだ。この薬の価格設定はよりシンプルになるだろう。現時点では、atogepantのコストは抗体医薬とおおむね同等の範囲に落ち着くとみられる。
2020年以降の展望は
急性期治療の場合、多くの片頭痛患者は経口トリプタン系薬剤で十分緩和作用が得られており、KOLらは、Reyvow、Ubrelvy、Nurtec ODTの効果はトリプタンをしのぐほどではないという意見でほぼ一致している。
ICERはトリプタン系薬剤の活用が十分ではないことに注目し、トリプタンの使用最適化に向けたプライマリケア医の教育を専門家コミュニティに促している。こうしたことに加え、後発品は入手しやすいこと、段階的処方が考慮されることもあって、トリプタン系薬剤は急性期管理における標準治療として今後も一般的に使用されるだろう。
後発の経口予防薬が数多く市販されていることを考えると、片頭痛予防の市場も同じ展開になりそうだ。ただ、片頭痛の有病者はとてつもなく多い。われわれの疫学調査では、2020年の米国の患者は3500万人を超えている。この患者集団は有効性の高い新たな選択肢を求めており、さほど大きなシェアを獲得できない薬でも、明確な差別化とアクセスの良さを数十億ドルの売り上げに結びつけるのは難しいことではないだろう。
(原文公開日:2020年4月17日)
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
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