大塚ホールディングス(HD)が、抗精神病薬「エビリファイ」の特許切れによる業績低迷からV字回復を遂げようとしています。2020年12月期の業績予想は売上収益1兆4450億円(前期比3.5%増)、営業利益1970億円(11.6%増)で、ピークだった14年12月期の水準に近付いてきました。「レキサルティ」「サムスカ/ジンアーク」などのグローバル4製品が好調で、かつてのエビリファイ一本足打法から収益構造も大きく変化しています。
INDEX
グローバル4製品が拡大
年間6500億円を売り上げた抗精神病薬「エビリファイ」の特許切れから間もなく5年。急激なパテントクリフに見舞われた大塚HDが、本格的な再成長期を迎えています。2月14日に発表した2019年12月期業績は、売上収益が前期比8.1%増の1兆3962億円、営業利益は63.1%増の1766億円。今期も売上収益3.5%増、営業利益11.6%増を予想しており、4期連続の増収増益となる見通しです。
エビリファイはピーク時の14年12月期に世界で6542億円を販売。連結売上高の4割を稼ぎ出し、大塚HDの業績はこの年、売上高1兆5718億円、営業利益2138億円と過去最高を記録しました。ところが、エビリファイの特許が15年に米国で切れると売り上げは激減。16年12月期は2ケタの減収減益に沈み、売上高は1兆1955億円、営業利益は1011億円まで落ち込みました。
3つのブロックバスター
パテントクリフからのV字回復を支えているのは、大塚HDが「グローバル4製品」と位置付ける▽抗精神病薬「エビリファイメンテナ」(大塚製薬)▽同「レキサルティ」(同)▽利尿薬「サムスカ/ジンアーク」(同)▽抗がん剤「ロンサーフ」(大鵬薬品工業)――の4新薬。19年12月期の4製品の売上高は前期から約1000億円増えて3751億円に達し、今期は4150億円まで伸びる見通しです。
特に好調なのがサムスカ/ジンアークです。同薬は、抗利尿ホルモンであるバソプレシンの働きを抑制することで、電解質の排泄に影響を与えずに体内の余分な水だけを排出する薬剤。09年に利尿薬として発売し、14年からは常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)という難病の治療薬としても販売しています。特に北米でのADPKD向けの販売が好調で、19年12月期に売上高が1000億円を突破しました。
エビリファイの持効性注射剤であるエビリファイメンテナもブロックバスターとなり、レキサルティも今期1000億円を超える見込み。エビリファイに大きく依存していた収益構造は多様化し、抗てんかん薬「イーケプラ」など国内の新薬群を含む多くの新薬が業績を底上げしています。
利益成長目標を上方修正
大塚HDは19~23年の中期経営計画で、最終年に売上収益1兆7000億円、本業のもうけを示す事業利益は2000億円を目標としています。18~23年の事業利益の年平均成長率は10.6%を目指していましたが、好調な業績を受けて、これを「13%以上」に上方修正しました。仮に18年から23年まで毎年13%ずつ増加したとすると、最終年の事業利益は2200億円超に上振れする計算です。
グローバル4製品は中計期間中に2000億円の売り上げ増を見込んでおり、19年以降に発売する新製品群によってさらに900億円を上積みする計画。今年は抗がん剤「ASTX727」が米国で発売となる見通しで、片頭痛治療薬の抗CGPR抗体フレマネズマブやTCR(T細胞受容体)-T細胞療法「TBI-1301」など5新薬の申請を予定しています。
ASTX727は13年に米アステックス買収して獲得した品目で、DNAメチル化阻害薬デジタビンに代謝酵素阻害薬cedazuridineを加えた世界初の経口DNAメチル化阻害薬。同じくアステックス買収で手に入れた新規DNAメチル化阻害薬「SGI-110」も今年申請予定です。タカラバイオから導入したTBI-1301は日本で先駆け審査指定制度の対象品目に指定されており、承認されれば世界初のTCR-T細胞療法となる見通し。買収や提携の成果が出つつあります。
問われる目利き力
一方で気がかりなのは、15年に4000億円超を投じて買収した米アバニアです。中枢神経系領域の強化を狙った買収でしたが、手に入れたアルツハイマー型認知症に伴う行動障害(アジテーション)の治療薬「AVP-786」は終了した2本の臨床第3相(P3)試験のうち1本で失敗。昨年11月には開発を続ける方針を発表し、今年追加のP3試験を始める予定ですが、減損リスクへの懸念はくすぶります。
アバニアをめぐっては、片頭痛治療薬「オンゼトラ・エクセル」のライセンス契約終了で18年12月期に115億円の減損損失を計上。情動調節障害治療薬「ニューデクスタ」の過去の販促活動に関する問題では、米司法省に125億円の和解金を支払いました。将来の成長に向けた投資は増える中、目利き力が試されています。
大塚HDは現在の中計で「“大塚だからできる”新領域での挑戦」を戦略の1つに掲げています。17年にはエビリファイの錠剤にセンサーを組み込んで服薬を検知する「デジタルメディスン」の承認を世界で初めて米国で取得。こうした独創的な製品開発は大塚ならではと言え、昨年1月には米クリックセラピューティクスと治療用アプリの開発・商業化で提携するなど、デジタルセラピューティクスの分野でも動きを強めています。
3月には傘下の大塚製薬の社長に井上眞副社長が昇格し、15年に前社長の岩本太郎氏が急逝して以来続いていた樋口達夫HD社長の兼務が解かれます。収益環境も厳しくなる中、新体制の手腕が問われます。
(前田雄樹)