米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは、キムリア、イエスカルタに続くCAR-T細胞療法として開発が進むliso-cel(開発コード・JCRA017)。昨年の米国血液学会で発表されたP1試験のデータなどをもとに、先行する2剤との差別化を考えます。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
安全性で有利か
CD19をターゲットとする2種類のCAR-T細胞療法(カイト/ギリアドの「イエスカルタ」とノバルティスの「キムリア」)が使えるようになり、再発・難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の治療は大きく変化した。これら2つの新たな治療法の有効性は素晴らしいが、一方で重大な副作用やロジスティクスの問題、保険償還の遅れなどが障害となり、必要な患者に十分提供しきれていない状態にある。
ジュノ/セルジーン(現在はブリストル・マイヤーズスクイブ)のlisocabtagene maraleucel(通称・liso-cel、開発コード・JCRA017)もCD19を標的とするCAR-T細胞療法で、3番手としてDLBCLの市場に参入することになる。ここからは、2019年の米国血液学会(ASH)年次総会で発表されたデータを検討し、iso-celの評価と差別化の戦略、そして将来の展望について簡単に解説する。
複数の前治療歴のあるDLBCL患者を対象に行われたliso-celの臨床第1相(P1)試験「TRANSCEND NHL-001」のデータを見てみると、有効性は先行するCAR-T細胞療法(特にイエスカルタ)とおおむね同等だが、奏効率はキムリア(JULIET試験)よりもかなり高いことがわかる。
CAR-T細胞療法の間接比較は、試験によって患者の登録基準(例:移植歴の有無)や試験デザイン(例:ブリッジング化学療法を許容するかどうか)が異なるため、非常に難しい。
イエスカルタが重要な競合相手に
とはいえ、この比較からわかるのは、liso-celの重要な比較の相手がイエスカルタになるであろうということだ。イエスカルタについては、「ZUMA-1試験」の2年間のアウトカムで全生存期間(OS)の中央値が未到達となっている。効果の持続性を評価し、製剤間の差をより一層引き出すには、さらに長期間の追跡とリアルワールドデータが重要になる。
liso-celは安全性の面で好印象を与えており、いずれはこれが決定的な差別化の要因になる可能性が高い。TRANSCEND NHL-001試験ではliso-cel に4例の治療関連死が認められたが、重度のサイトカイン放出症候群(CRS)と神経毒性の発生率は、ほかのCAR-T細胞療法よりかなり低くなっている。
外来での投与がカギに
CAR-T細胞療法では今後も、ロジスティクスの問題とともに、製剤の製造が注目される状況が続くだろう。この点については、カイト/ギリアドの方がノバルティスより製造の失敗率が低く、現時点では最も成功しているCAR-T細胞療法といえる。
Liso-celはどうかというと、TRANSCEND NHL-001試験では白血球アフェレーシスを実施した342例中268例に投与が行われた。重要なのは、製造の失敗によって2例が投与を受けず、さらに24例には不適合な製剤が投与されたことだ。これは、CD4+/CD8+比が1:1という規定値をクリアするのが難しかったためとみられる。Liso-celの製造にかかる時間は中央値で24日と報告されており、メーカーの製品情報によると、イエスカルタの製造期間は17日、キムリアは22日となっている。
製造期間が長く工程も複雑になりかねないにもかかわらず、ジュノ/セルジーンはliso-celを外来で投与することを目指している。それが可能になれば、患者が薬剤にアクセスできる機会は増えるだろう。TRANSCEND NHL-001試験では被験者の10%弱が外来で投与を受けており、P2試験の「TRANSCEND-OUTREACH試験」でこのアプローチを追求している。
競争のポイントは
効果の持続性は重要だが、唯一の差別化要因ではない。安全性と外来での投与の可能性が最も重要になると思われる。安全性の高い製剤は外来での使用で有利となり、結果的に患者アクセスの機会が増す。医師の精通度合いや経験も採用の大きな要因であり続ける。
製造の期間と信頼性が極めて重要になる。急激に疾患が進行する患者を治療しなければならない緊急性と、製造に失敗するおそれがあることを考慮すると、ロジスティクス上の大きなメリットを提供できる製剤が高い競争力を手にするのは間違いない。
コストと患者アクセスの改善が必要だ。2019年、CMS(メディケア・メディケイド・サービスセンター)は最終的に、メディケア受給者に対して承認済みのCAR-T細胞療法を償還対象とすることを決めた。このことは、アメリカでの高額な治療の採用を促すことになるだろう。
クラス内外で激しい競争を強いられる。liso-celもその他のCAR-T細胞療法も、DLBCLの分野で最近承認された分子標的薬(ロシュの「Polivy」)のほか、開発段階にある分子標的薬候補(MorphoSysのtafasitamabなど)との競争に直面している。これらは、有望なアウトカムを示しており、CAR-T細胞療法に比べてロジスティクス上のメリットがあるのは明らかだ。
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競争は激化するが、Decision Resources GroupはCD19をターゲットとするCAR-T細胞療法がDLBCL治療の本命となり、この分野だけで2028年までに世界の主要国で23億ドル近くを売り上げることになると予想している。今後予定されている2次治療への適応拡大が販売を後押しするだろう。
(原文公開日:2019年12月9日)
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
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