4月に行われる2020年度薬価制度改革は、▽新薬創出加算の見直し▽新薬創出加算対象品目を比較薬として類似薬効比較方式Iで算定された新薬の薬価から加算分を控除する仕組みの導入▽効能変化再算定の適用拡大▽いわゆる「G1」ルールの適用前倒し▽価格帯の集約によって薬価が上がる後発医薬品への対応――などが柱。昨年12月に中央社会保険医療協議会(中医協)がまとめた骨子をもとにポイントを整理しました。
INDEX
新薬創出加算 企業規模による不公平を改善
今回の薬価制度改革で最大の焦点となった新薬創出・適応外薬解消等促進加算の見直しでは、現行の仕組みは基本的に維持しつつ、企業指標に新たな項目を追加するなどして改善が図られることになりました。
新薬創出加算は2018年度の薬価制度抜本改革で、「乖離率(市場実勢価格と薬価の差)が平均以内」という従来の適用条件を撤廃し、対象品目を▽希少疾病用医薬品▽収載時に有用性加算などを取得した医薬品▽新規作用機序の医薬品――などに限定。加えて、「企業指標」として新薬開発などの取り組みを企業ごとに点数化し、それに応じて加算率に差をつける仕組みが導入されました。
その結果、新薬創出加算の対象品目は16年度と比べて32%減り、加算額も24%減少しました。企業指標は、臨床試験の実施や新薬の収載実績を「数」で評価する仕組みとなっており、製薬業界は「規模の小さい企業が不利になる」と反発。企業指標の廃止を含む大幅な見直しを求めてきました。
企業指標 革新的新薬の収載実績に重点
20年度改革では、現在の制度の枠組みは維持しつつ、企業指標に▽革新的新薬の収載実績(過去5年)▽薬剤耐性菌の治療薬の収載実績(同)――の2項目が追加され、革新的新薬の収載実績は「数」ではなく「実績の有無」で評価。さらに、従来からある「新薬収載実績」では、革新的な新薬(新薬創出加算対象品目と新規作用機序医薬品)をより重点的に評価する仕組みとします。規模が小さいながらも革新的新薬を創出している企業がポイントを獲得しやすくすることで、企業規模による不公平感を緩和する狙いです。
対象品目の要件には、新たに▽先駆け審査指定制度の対象品目▽薬剤耐性菌の治療薬――を追加。収載後に適応拡大した新薬については、追加された適応で新規の作用機序を持ち、かつ革新性・有用性の基準に該当する医薬品を品目要件に追加します。
こうした見直しに対して製薬業界側は「一定の改善が図られた」(日本製薬団体連合会)と評価する一方、「その内容は限定的」(日本製薬工業協会)と受け止めています。見直しの影響を注視しつつ、次の薬価制度改革に向けてさらなる見直しを求めていく構えです。
類似薬効比較方式Iでも“加算外し” 効能変化再算定には特例
もう1つ、20年度薬価制度改革で大きな焦点となったのが、類似薬効比較方式Iで新薬創出加算対象品目を比較薬とする場合の薬価のあり方です。
18年度の制度改革では、新薬創出加算の対象外かつ類似薬効比較方式IIで薬価算定される新薬は、同加算の対象品目を比較薬とする場合、比較薬の累積加算額を差し引いた上で薬価を算定する仕組みが導入。この“加算外し”を新規性の高い新薬の薬価算定方式である類似薬効比較方式Iにも広げるかどうかが論点となっていました。
結局、類似薬効比較方式Iの“加算外し”は、同IIで行っているような収載時ではなく、収載から4年たった後の初めての薬価改定(=収載後3回目の薬価改定)で行うことになりました。収載後に適応拡大などによって新薬創出加算の対象になるケースに配慮したもので、収載後3回目の改定までに新薬創出加算の対象にならなければ、収載時点での比較薬の累積加算額が差し引かれることになります。
効能変化再算定「高薬価・市場拡大」なら類似薬なくても適用
発売後の市場拡大などに応じて薬価を引き下げる再算定は、一部強化する方向で見直しが行われます。
抗IgE抗体「ゾレア」の花粉症への適応拡大を念頭に議論が行われた効能変化再算定は、「1日薬価が著しく高く、市場規模が著しく大きくなる」場合、変更後の効能・効果に薬理作用類似薬がなくても再算定を行う特例が設けられることになりました。
効能変化再算定は、適応拡大によって主要な効能・効果が変わった場合、その効能・効果での薬理作用類似薬に近づくよう、薬価を見直す仕組み。現在のルールでは、季節性アレルギー性鼻炎治療薬として初の抗体医薬となるゾレアのように、追加された適応に薬理作用類似薬がないケースでは適用できません。特例を設けることで、こうした場合でも再算定を適用して薬価を引き下げられるようになります。
特例の対象となるのは、▽1日薬価が参照薬(変更後の適応と同一・類似の効能・効果を持つ既存薬のうち、治療上の位置付けなどが類似しているもの)の10倍以上▽参照薬の市場規模が150億円以上▽効能・効果の変更に伴い患者数が最大10倍以上に拡大――などの要件を満たした医薬品。生命に重大な影響のある重篤な疾患や指定難病、血友病やHIVの適応を追加するものは対象外となります。
「G1」置き換え率80%以上なら適用前倒し
18年度の薬価制度抜本改革で導入された、長期収載品の薬価を段階的に後発品と同じかそれに近い水準まで引き下げるルールは、後発品への切り替えが加速していることを踏まえ、一部の長期収載品で適用が前倒しされます。
18年度から始まった長期収載品の薬価引き下げルールは、後発品の発売から10年たった長期収載品の薬価をまず後発品の2.5倍まで下げ、その後は
▽後発品への置き換え率が80%以上の長期収載品は6年かけて後発品と同じ薬価まで引き下げる(G1ルール)
▽後発品への置き換え率が80%未満の長期収載品は10年かけて後発品の薬価の1.5倍まで引き下げる(G2ルール)
――というもの。
20年度の制度改革ではG1ルールを見直し、後発品の発売から10年たっていなくても、置き換え率が80%以上になれば前倒しで適用。置き換え率が80%以上になった2年後の薬価改定時に80%以上であることを再確認した上で適用されます。
長期収載品ではこのほか、後発品発売5年後からG1/G2適用まで行われる「Z2」(後発品への置き換え率に応じた薬価引き下げ)の基準となる置き換え率を「40%未満」「40%以上60%未満」「60%以上80%未満」から「50%未満」「50%以上70%未満」「70%以上80%未満」に変更。G1/G2はこれまでバイオ医薬品は対象外としていましたが、20年度からはオーソライズド・ジェネリック(AG)が発売されたバイオ医薬品については対象となります。
後発品「価格帯集約で薬価引き上げ」を抑制
後発品では、価格帯の集約によって改定前から薬価が引き上がることを防ぐために、新たに2つの改定ルールが導入されます。
後発品の薬価改定は現在、
▽市場実勢価格に基づく算定額が先発品の50%以上
▽市場実勢価格に基づく算定額が先発品の30%以上50%未満
▽市場実勢価格に基づく算定額が先発品の30%未満
の3つの価格帯ごとに加重平均をとり、それぞれ1つの薬価に集約する仕組みになっています。ただ、これだと市場実勢価格が安い品目の薬価が引き上げられることがあるため、「市場での評価が適切に反映される制度にすべき」との指摘が上がっていました。
改定前から薬価が引き上がる原因には、(1)価格帯を分ける「最高額の50%」「最高額の30%」の額が下がった結果、上の価格帯に属することになるケース(2)上の価格帯から降りてきた品目によって下の価格帯の加重平均が高くなるケース――があり、20年度改革ではそれぞれのケースに対応した新たなルールが導入されます。
(1)のケースでは、市場実勢価格に基づく算定額が上の価格帯に相当することになったとしても、改定前から薬価が上がる場合はもとの価格帯に含めて改定後の薬価を算定。(2)のケースでは、改定前の薬価がその価格帯の実勢価の加重平均を下回る品目だけ別の価格帯とし、その中で加重平均をとって改定後の薬価を決めます。
後発品の収載時の薬価は、現在の「先発品の50%(内用薬で収載が10品目を超える場合は40%)」を維持。バイオ医薬品のオーソライズド・ジェネリック(バイオAG)は、通常のバイオシミラーと同じ「先発品の70%」とします。
高額な再生医療等製品、補正加算を傾斜配分
再生医療等製品では、その特性に合わせた薬価算定のルールがいくつか導入されます。
1000万円を超えるような高額な再生医療等製品が登場している現状を踏まえ、補正加算前の価格が1000万円超かつピーク時売上高予測が50億円超の品目については、価格に応じて補正加算の加算率を傾斜配分する仕組みを新設。高額化に歯止めをかける狙いで、収載後に加算を適用する場合も同様に加算率に傾斜をつけます。
再生医療等製品は流通の形態も多様なため、原価計算方式で薬価算定する場合は流通経費を品目ごとに個別に精査することとし、医薬品の薬価算定で用いられる流通経費(消費税を除く価格の7.5%)を下回る場合は、それをもとに算定を行うことになります。昨年5月に収載されたCAR-T細胞療法製品「キムリア」は、ノバルティスファーマからの自主申告に基づき、流通経費を「消費税を除く価格の2.4%」として薬価算定が行われました。
再生医療等製品をめぐってはこのほか、条件・期限付き承認の品目の薬価を「条件・期限付き承認時価格」と呼ぶことを規定。本承認の取得時に、条件・期限付き承認を得た時点では明らかではなかった医療上の有用性が客観的に示された場合は、補正加算をつけるかどうかを改めて評価します。
(前田雄樹)