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ニュース解説

利益率1%…苦境の医薬品卸「談合疑惑」の波紋

更新日

大手医薬品卸4社による独立行政法人地域医療機能推進機構の医薬品購入を舞台とした談合疑惑。波紋が広がっています。

 

共同購入で受注調整か

「関係者の皆様の不信を招いたこと、また、国民の皆様に疑念を生じさせ、多大なご迷惑やご心配をお掛けしましたこと、誠に申し訳なく思っております」。医薬品卸売業者71社が加盟する日本医薬品卸売業連合会(卸連)は11月29日、渡辺秀一会長名のコメントを発表し、会員でもある大手卸4社が談合の疑いで公正取引委員会の強制調査を受けたことについて謝罪しました。

 

11月27日、公取委は独占禁止法違反の容疑で▽メディパルホールディングス(HD)傘下のメディセオ▽アルフレッサHD傘下のアルフレッサ▽スズケン▽東邦HD傘下の東邦薬品――に強制調査に入りました。独立行政法人「地域医療機能推進機構」(JCHO、本部・東京都港区)が発注した医療用医薬品の入札で受注調整を行った疑いがあり、公取委は検察当局への刑事告発を視野に調査を進めるといいます。

 

【医薬品の共同購入をめぐる談合疑惑の構図】:全国57病院を有する独立行政法人「地域医療機能推進機構」(JCHO)が、大手卸4社(メディセオ・アルフレッサ・スズケン・東邦薬品)から医薬品を共同購入(一括調達)。大手卸4社が談合か

 

JCHOは旧社会保険庁から社会保険病院や厚生年金病院を引き継いだ独立行政法人「年金・健康保険福祉施設整理機構」が前身で、2014年4月に発足。現在、全国で57の病院や26の介護老人保健施設などを運営しています。

 

談合疑惑の舞台となっているのは、JCHO傘下の病院で使う医薬品を本部が一括して調達する「共同購入」。入札は2年ごとに行われ、落札した卸はJCHOと2年間の納入契約を結びます。共同購入は、旧社保庁時代に指摘された非効率な病院経営を改善するための象徴的な取り組みの1つ。4社はこれを悪用した疑いが持たれています。

 

再編・淘汰が進んだ結果…

JCHOが運営する病院は、北は北海道から南は宮崎まで全国に広がっており、共同購入に対応できるのは全国に流通網を持つ4社に実質的に限られます。「入札に参加できる卸が事実上限定され、受注調整を行いやすい状況にあったことが、談合を誘発したのではないか」。ある業界関係者はこう見立てます。

 

再編が進んだ医薬品卸は現在、全国展開する4大卸(メディパルHD、アルフレッサHD、スズケン、東邦HD)と地方の有力卸(バイタルケーエスケー・HD、フォレストHD、ほくやく・竹山HD)にほぼ集約。1978年に615社だった卸連の会員(本社数)は19年3月末時点で70社まで減少(同年11月1日時点では71社)し、4大卸が8割を超える市場シェアを占めるまでに至っています。

 

【日本医薬品卸売業連合会の会員数(本社数)の推移】((年)会員数):(1978)615、(1982)538、(1987)434、(1992)351、(1997)277、(2002)175、(2007)128、(2012)92、(2017)74、(2019)70、※卸連の公表資料をもとに作成。各年3月31日時点。2019年11月1日現在の会員数は71社

 

ところが、再編・淘汰が進んでもなお、医薬品卸の薄利体質はほとんど変わっていません。卸連の集計によると、加盟社の19年3月期の営業利益率は1.12%。巨大化した4大卸とて例外ではなく、メディパルHDは1.57%、アルフレッサHDは1.70%、スズケンは1.28%、東邦HDは1.29%にとどまります。

 

納入価を下げて薬価との差額(薬価差益)を収入として確保したい医療機関・薬局と、薬価引き下げにつながる納入価の下落を抑えたい製薬企業の間に挟まれ、医薬品卸は利益を取れずにいます。各社とも流通の効率化を進めたり、事業の多角化を図ったりしてはいるものの、加速する薬価の引き下げや利幅の薄い後発医薬品の普及が収益を圧迫。災害への備えや再生医療等製品など特殊な医薬品への対応にも投資が必要です。こうした医薬品卸の苦境が談合疑惑の背景となった可能性があります。

 

【主要医薬品卸の営業利益率(2019年3月期)】(社名/展開地域/営業利益率/売上高/営業利益):メディパルHD/全国/1.57%/3兆1819億円/498億円、アルフレッサHD/全国/1.70%/2兆6405億円/448億円、スズケン/全国/1.28%/2兆1324億円/272億円/東邦HD/全国/1.29%/1兆2222億円/158億円、バイタルケーエスケー・HD/東北・関東・北信越・関西/0.50%/5597億円/28億円、フォレストHD/九州/0.87%/4553億円/40億円、ほくやく・竹山HD/北海道/1.05%/2352億円/25億円|卸連加盟社平均→展開地域(―)/営業利益率(1.12%)/売上高(―)/営業利益(―)、※各社の決算発表資料と卸連の公表資料をもとに作成

 

流通改善に冷水

しかし、苦しいからといって受注調整を正当化することはできません。加藤勝信厚生労働相は12月3日の参院厚生労働委員会で「仮に談合が行われていたとすれば、公正で自由な競争を通じた価格形成を阻害するもので、はなはだ遺憾だと思っている」と断じました。

 

談合で納入価が高止まりしていたとすれば、それをもとに改定される薬価にも影響を与える可能性があります。厚生労働省は同月4日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会に、20年度薬価改定に向けて市場実勢価格を把握するために行った薬価調査の結果を報告しましたが、談合が疑われる4社とJCHOの取引に関するデータは除外。「薬価調査の信頼性を揺るがす」との批判も上がっており、波紋が広がっています。

 

医薬品の流通をめぐっては昨年4月、「未妥結・仮納入」「総価取引」といった特異な商慣行を改善すべく、厚生労働省が「流通改善ガイドライン」の運用を開始しました。ガイドラインの運用開始以降、医薬品卸の収益は改善傾向にあり、19年4~9月期の4大卸の営業利益率は軒並み前年同期から上昇。病院関係者からは「苦しいのはこちらも同じ。卸有利のガイドラインができたのに、談合までやっていたとは」といった恨み節も漏れ、医薬品卸に対する不信感も広がっています。

 

【流通改善ガイドラインの概要】:▼1次売差マイナスの解消:◯卸と医療機関・薬局との川下取り引きの妥結価格(市場実勢価格)を踏まえて適切に1次仕切価を提示し、それに基づいて適切な最終原価を設定する◯割戻しは流通経費などを考慮して卸機能を適切に評価する。アローアンスのうち仕切価を修正するようなものは仕切価に反映する。契約によって割戻しなどの運用基準を明確化する▼早期妥結と単品単価契約の推進、頻繁な価格交渉の改善:◯原則としてすべての品目を単品単価契約とすることが望ましいが、少なくとも前年度よりは単品単価契約の割合を高める◯価格交渉の段階から個々の医薬品の価値を踏まえて交渉する◯期中で医薬品の価値に変動がある場合を除き、年間契約など長期の契約を基本とすることが望ましい▼過大な値引き交渉の是正:◯個々の医薬品の価値を無視した値引き交渉、安定供給や卸の経営に影響を及ぼすような流通コストをまったく考慮しない値引き交渉を慎む◯医薬品の価値に基づく納入価の設定は仕切価に影響を受けるため、川上取り引き(メーカーと卸の取り引き)における仕切価交渉と一体となった納入価交渉を行う

 

薬価調査の信頼性を揺るがし、流通改善にも冷水を浴びせた談合疑惑。卸連は「今後の事実関係を踏まえつつ、コンプライアンスの徹底と医薬品の安定供給などによって社会的信頼の回復に努める」としています。医薬品卸は失った信頼を取り戻せるのか。まずは疑惑の全容解明が待たれます。

 

(前田雄樹)

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