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細胞治療・遺伝子治療 アクセスと償還の5つの重要戦略とは|DRG海外レポート

更新日

米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。細胞治療・遺伝子治療のアクセスと償還に向け、製薬企業が米国でとっている5つの重要な戦略を紹介します。

 

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

 

効果と価格、両面で存在感

細胞治療や遺伝子治療が、希少疾病やがんの患者に大きな恩恵をもたらすようになり、医療は激変している。長年のアンメットニーズに対応できるようになった判明、途方も無い費用がかかり、その両面でこれらの治療の存在感が増している。

 

2019年10月現在、米国では次のような細胞治療・遺伝子治療が販売されている。

 

▽スパーク・セラピューティクスの「Luxturna」(42万5000ドル)。希少な眼疾患であるレーバー先天黒内障に対する遺伝子治療。
▽ギリアド・サイエンシズの「Yescarta」(37万3000ドル)。再発または難治性の大細胞型B細胞リンパ腫(成人)を対象とするCAR-T細胞療法。
▽ノバルティスの「Kymriah」(47万5000ドル)。前駆B細胞性急性リンパ性白血病(25歳以下)と再発または難治性の大細胞型B細胞リンパ腫(成人)に対するCAR-T細胞療法。
▽ノバルティスの「Zolgensma」(210万ドル)。脊髄性筋萎縮症の遺伝子治療薬。

 

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遺伝子治療薬の製造と研究開発のコストは、従来の生物学的製剤と比べて著しく高い。1回きりの注射剤として投与されるうえ、対象となる患者が限られているのも高額となる要因だ。

 

しかし、米国の保険償還の環境は、こうした治療の経済的負担を受け止められるほど整ってはいない。そんな中、こうした革新的治療を入手しやすくし、販売を伸ばすためには、新しいビジネスモデルを検討し、民間保険会社や政府などとの連携を模索することが、製薬会社にとって急務となる。

 

Decision Resources Groupは、製薬会社が細胞・遺伝子治療のアクセスと償還のために米国で模索しているアプローチを追跡している。ここから、製薬会社がとっている重要戦略の一部を紹介したい。

 

5つの重要戦略

【重要戦略1】コストパフォーマンスの明確化

保険会社と行政は薬の価格を詳細に吟味しており、製薬会社としては新たな治療薬のコストパフォーマンスを明確に示すことが不可欠だ。

 

例えばノバルティスは、Zolgensmaの10年分の費用がライバルとなる核酸医薬「スピンラザ」の半分で済むことを、自社の医療経済モデルで割り出した。Zolgensmaは1回限りの投与であるのに対し、スピンラザは生涯を通じて投与する必要があり、1年目は年間75万ドル、それ以降は毎年37万5000ドルかかる。ノバルティスは2019年10月現在、▽アテナ▽ユナイテッドヘルス▽シグナ▽アンセム――の大手医療保険会社4社のプランで、Zolgensmaのフォーミュラリー収載を確保した。

 

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米国では、Institute for Clinical and Economic Review(ICER=臨床経済的評価研究所)が、政府に準ずる医療技術評価機関として台頭している。細胞・遺伝子治療についても報告書や論評を発表しており、その中の1つ、2018年3月のエビデンス報告ではCAR-T細胞療法の費用対効果は高いと結論付けた。一般的な化学療法やまったくの未治療と比べた場合の医療上の正味の利益が、中程度の確実性で「小~かなりの大」になるというのがその理由だ。

 

もう1つの報告書で検討したZolgensmaについては、同薬の210万ドルという価格は「価値に基づくICERの価格基準の範囲に収まる」としている。ICERの肯定的な評価は、Zolgensmaの市場参入と販売の後押しとなるだろう。

 

【重要戦略2】斬新な支払いモデルを採用

細胞・遺伝子治療では、「分割払い」や「成功報酬型」といった支払いモデルが取り入れられている。数年にわたる分割方式で費用を払い戻すことができれば、治療に伴う経済的負担を和らげることができる。つい最近、ノバルティスは、Zolgensmaについてシグナ-エクスプレス・スクリプツ傘下の専門薬局Accredoと5年間の支払いプランで提携した。

 

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成功報酬型の支払いモデルの場合、治療成績が思わしくなければ、保険会社は値引きや払い戻しの率の引き上げを交渉することができる。こうしたモデルを採用すれば、経済的リスクが製薬会社にある程度転嫁されるため、保険会社がフォーミュラリーで優先順位を上げる動機になるだろう。スパークとHarvard PilgrimがLuxturnaについて結んだ出来高払い協定がその一例で、一定期間治療しても効果が認められない場合、Harvard Pilgrimが返金や払い戻しを受ける。

 

【重要戦略3】医療施設と協力してケアを調整

新規治療薬の対象患者を特定し、実際に投与するには、医療施設が極めて重要な役割を果たす。細胞・遺伝子治療薬のプロセシングは複雑で、基盤設備の経費もかかる。したがって、細胞・遺伝子治療薬を投与するための設備とスタッフがそろった医療施設のネットワークを構築・維持することは、製薬会社にとって必須となる。

 

ノバルティスとギリアドは、国内の主要ながん研究センターと手を組み、CAR-T細胞療法を行うスタッフの訓練を広く支援している。CAR-T細胞療法では、サイトカイン放出症候群や神経毒性などの有害事象が起こり得るので、それを管理するために医療従事者と製薬会社が一体的に連携することが求められている。

 

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細胞・遺伝子治療の領域で事業展開する製薬会社の多くは、治療の調整を支援している。来院スケジュールの作成から治療薬のプロセシング、製品の配送をサポートするほか、患者を治療関連サイトにつなぐためのポータルも整備している。医療記録の統合にも注力し、ケアの最適化を図るとともに、個別の臨床転帰に影響する因子の理解に役立てている。

 

【重要戦略4】個別患者の事情に配慮

細胞・遺伝子療法を受ける患者は、保険会社が費用の大半またはすべてをカバーしてくれなければ、自費で高額な支出を行うことを求められる可能性がある。そこで、これらの治療には、ほかの高額な薬物療法にはないユニークな患者支援プログラムが提供されている。

 

たとえば、CAR-T細胞療法を受ける患者向けのプログラムには、移動と宿泊の費用が含まれる。CAR-T細胞療法を提供する施設は少なく、患者は治療のために遠方の医療機関に行かざるを得ないこともあるからだ。

 

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【重要戦略5】流通ルートの確保

従来の「buy-and-billモデル」の流通は、細胞・遺伝子治療には向いていない。製薬会社は、自社のスペシャリティ医薬品の流通を再編し、こうした薬に固有の課題に対応している。

 

その1つが、スパークが製薬会社として初めて試みた代替流通で、エクスプレス・スクリプツと連携して行っている。この仕組みでは、医療施設はLuxturnaをスパークから仕入れるのではなく、患者が医療保険の認定を受けた後、Accredo Specialty PharmacyやCuraScript Specialty Distributionを介してエクスプレス・スクリプツから受け取る。ノバルティスもZolgensmaについて同じような協定を結んでいる。

 

※※※

 

現在、300を超える細胞・遺伝子治療が開発段階にあり、そのうちのおよそ30は後期段階に来ている。2030年までに50余りが市場に届き、治療選択肢の限られた希少疾患に新たな希望をもたらすだろう。製薬会社には、これまでにない価格設定やサービスでアクセスの向上を図ることが期待される。

 

(原文公開日:2019年10月30日)

 

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。

 

【記事に関する問い合わせ先】
ディシジョン・リソーシズ・グループ日本支店
斎藤(コマーシャルエクセレンス ディレクター)
E-mail:ssaito@teamdrg.com
Tel:03-6625-5257(代表)

 

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