米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。医薬品のコスト抑制に向けて安価な医薬品の輸入へと動く米国の状況をまとめました。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
輸入を可能にする2つの方法
米国で、他国から安価な医薬品の輸入を可能にしようという動きが加速している。フロリダ、バーモント、コロラド、メインの4州はカナダから医薬品を購入する大規模輸入プログラムの策定を認める法案が議会を通過しており、今年7月には保健福祉省(HHS)と食品医薬品局(FDA)が輸入計画を発表した。バーモント州では唯一、すでに輸入計画が策定されているが、どんなにうまくいったとしても、実施されるのは2020年後半以降になりそうだ。
各州は医薬品の輸入に向けたコンソーシアムを結成したが、輸入計画を実行するには政府の承認が必要となる。HHSは先般、HHSとFDAの許可を得るための2通りの方法を示したガイダンスを公表した。
1つ目の方法は、州政府・医薬品卸売業者・薬局に、FDAの条件を満たす適格なカナダの医薬品を輸入するための実証プロジェクトを提案する権利を与えるというものだ。この方法では、▽規制薬物▽生物製剤▽注入薬▽静注薬▽手術中に使用する吸入薬▽一部の非経口薬――は対象外となる。
自社医薬品の安価な海外版を輸入
2つ目の方法は、FDAが承認した医薬品の製造会社が、その海外版製品を輸入することを認めるというものである。海外版製品には新たな全米医薬品コード(NDC)を使用することとし、それによって米国版製品よりも安い価格で販売することが可能となる。製薬会社は、海外版製品についてFDAの承認を得る必要がある。製薬会社が自社医薬品の低価格版を提供するのを阻む米国の契約に拘束されない口実があることを考慮すれば、この方法を通じて輸入が進む可能性がある。
カナダの処方薬の価格は、平均して米国より30%安い。カナダ政府は米国と異なり、製薬会社と直接、価格交渉することができるからだ。「クレストール」のようなコレステロール低下薬の1カ月分の価格は、カナダの40ドルに対して米国では300ドル。多くの米国人がインスリンを買うためにカナダを訪れるが、その価格は米国のおよそ10分の1となっている。
輸入には多くの障壁
医薬品の輸入にはハードルもあり、その最たるものがサプライチェーンの構築と輸入品の品質・安全性の判定にかかる費用だと思われる。さらに、次のようなこともかなりの障壁となる可能性がある。
▽偽造医薬品の流通を防ぐ規制システムである「トラックアンドトレースシステム」を弱体化させる。
▽偽造医薬品や汚染医薬品のリスクに関するFDAの警告。
▽すでに成立した州法やHHSの指示は、生物製剤やインスリンの輸入は支持していないが、製薬会社なら自社の生物製剤やインスリンを輸入することは可能だと考えられる。ただし、製薬会社が自社製品を輸入したり、安価で販売するために生産能力を増強したりすることに関心があるかどうかは疑わしい。
▽医薬品卸売業者は購入者として役割を果たすことができるが、そうした試みは歴史的に製薬会社のロビー活動によって貶められてきた。
▽カナダの医薬品市場ではすでに医薬品不足が問題となっている。米国の輸入によってそれが加速する可能性があり、カナダの医療業界は米国の輸入計画に猛反対している。さらには、輸出入の取り決めに傘下する卸売業者も不足している。
▽米国による輸入が進めば、カナダでも医薬品の価格が上昇する可能性があり、いずれ米国側がコスト削減効果を得られなくなるおそれがある。
▽米国の製薬会社が、契約合意書を修正することにより、カナダからの輸出を制限する可能性がある。
▽米国の薬局が、何のメリットもなく、こうした処方箋の薬を出すのに協力するとも考えにくい。
実現は容易ではない
カナダでは総選挙が近づいており、カナダ国内の医薬品不足とあいまって、米国への輸出が実現する見込みがあるとは言えない状況にある。カナダの保健大臣は、カナダが自国の10倍の人口を抱える米国の医薬品需要を満たすことはできないと考えている。過去の使用量に基づいて医薬品の割り当て量を設定・管理しているカナダからの輸入は容易ではない。
現状はHHSのガイダンスが発表されたに過ぎず、各州は輸入プロセスの開始に向けた保健福祉長官の承認を待っている段階だ。HHSのアザー長官はこれまで、医薬品の輸入を直接的に支持しておらず、数え切れないほどある障壁にもたびたび言及している。2020年には議会選挙が予定されており、医薬品輸入政策は当面進みそうにない。
(原文公開日:2019年9月17日)
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
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