2020年度の薬価制度改革に向けた議論が、間もなく本格化します。最大の焦点になるのは新薬創出・適応外薬解消等促進加算(新薬創出加算)の見直しとみられ、類似薬効比較方式で同加算の対象品目を比較薬とする場合の薬価算定や、いわゆる「G1」「G2」による長期収載品の薬価引き下げまでの期間短縮なども検討課題に挙がっています。
8月以降に議論本格化
中央社会保険医療協議会・薬価専門部会で2020年度の薬価制度改革に向けた検討が進んでいます。同部会は5月の会合で厚生労働省から検討課題の提示を受け、7月には薬価算定組織から改革に関する意見をヒアリング。今後、製薬業界からも要望を聞き、8月以降、本格的な議論が行われることになります。
現時点で検討課題として挙がっているのは、
▽新薬創出・適応外薬解消等促進加算(新薬創出加算)の企業指標
▽新薬創出加算の対象品目を比較薬とする場合の薬価算定
▽適応拡大などによる革新性・有用性の評価
▽いわゆる「G1」「G2」による長期収載品の薬価引き下げまでの期間
――など、前回の18年度改革で引き続き検討することとされたテーマが中心。このほか、バイオ医薬品のオーソライズド・ジェネリック(AG、いわゆるバイオセイム)の薬価算定や、高額な再生医療等製品の価格算定などが論点として浮上しています。
【論点1】新薬創出加算の見直し
中でも最大に焦点となりそうなのが、新薬創出加算の見直しです。前回の18年度改革では、新薬開発やドラッグ・ラグ解消に向けた企業の取り組みを評価し、それに応じて加算に差をつける「企業要件」が新たに導入されました。評価の指標(企業指標)は、国内での臨床試験実施数や新薬収載実績など5項目で、合計点数で上位25%に入った企業は加算が満額受けられる一方、最低点数の企業は2割減、それ以外の企業は1割減となる仕組みです。
18年度改革の骨子では、新薬創出加算の企業要件・企業指標について「革新的新薬開発やドラッグ・ラグ解消の取り組み・実績を評価するものとして適切かどうかについて、実態も踏まえつつ検証を行う」とされました。製薬業界側は、企業要件自体には一定の理解を示す一方、現行の指標では中小企業が不利になる上、点数による企業の区分も相対評価のため予見性に乏しいなどと主張。現行の企業指標による評価は撤廃するよう求めています。
新薬創出加算をめぐっては、18年度改革で品目の要件についても見直しが行われました。その結果、対象品目は16年度改定の823品目から560品目に、加算額は1060億円から810億円に、それぞれ減少。企業要件で加算を満額得られる「区分I」に該当したのは83社中23社で、残りの60社は加算を受けても薬価が維持されませんでした。
製薬業界側は品目要件についても、▽医療上の必要性が高く、承認審査上、優先的に審査される品目などは対象とする▽薬価収載後の革新性・有用性の評価を拡充する▽新規作用機序を持つ医薬品の対象を拡充する――といった見直しを行うべきだと主張しています。
【論点2】新薬創出加算の対象品目を比較薬とする場合の薬価算定
新薬の薬価算定をめぐっては、新薬創出加算の対象品目を比較薬とする場合の薬価算定のあり方が議論になる見通しです。
18年度の制度改革では、新薬創出加算の対象外かつ類似薬効比較方式IIで薬価算定される新薬は、同加算の適用品目を比較薬とする場合、比較薬の加算相当額を差し引いた上で薬価算定を行うことになりました。20年度の改革で論点となるのは、これを類似薬効比較方式Iで算定される品目に拡大するかどうか。あわせて、収載時には新薬創出加算の対象外だったものの、その後に同加算の対象となった場合の対応についても検討されることになっています。
一方、製薬業界側は、新薬の薬価算定について、類似薬効比較方式の対象を拡大することを提案する構えです。現行ルールでは、▽効能・効果▽薬理作用▽組成・構造▽投与形態――の要素で類似薬を選択することになっていますが、日本製薬工業協会(製薬協)はこれら4つの観点にとらわれない幅広い視点や考え方(対象疾患の特性や薬剤の臨床的位置付けなど)で類似薬を選べるようにすべきと主張。こうすることで、「ブラックボックス」とも指摘される原価計算方式による薬価算定を減らし、薬価算定の納得性を高めることができるとしています。
【論点3】「G1」「G2」適用までの期間短縮
長期収載品の薬価では、18年度に導入された「G1」「G2」による引き下げ開始までの期間の短縮が検討されます。
「G1」「G2」は長期収載品の薬価を段階的に後発医薬品と同じかそれに近い水準まで引き下げるルール。後発品の発売から10年たった時点で、長期収載品の薬価を後発品の2.5倍の水準まで下げ、その後は▽後発品への置き換え率が80%以上の場合は6年かけて後発品と同じ薬価に(いわゆる「G1」)▽80%未満の場合は10年かけて後発品の薬価の1.5倍に(いわゆる「G2」)――それぞれ引き下げます。
このルールでは、後発品発売からG1/G2適用までの10年間を「後発品への置き換え期間」と位置付けていますが、政府の促進策の効果もあって後発品への切り替えは加速しており、薬価算定組織は「後発品への置き換えが進んでいる事例などでは、引き下げまでの期間を短縮できることにしてはどうか」と提案。特にAGでは通常の後発品より早く切り替えが進むことから、引き下げ開始までの期間を短縮することを提案しています。
“抜本改革”として行われた前回18年度の薬価制度改革は、製薬業界にとって厳しいものとなり、企業経営にも大きな影響を与えました。医療保険財政の持続可能性が大きな課題となる中、製薬業界にとっては、イノベーション評価の方向にどれだけ制度を押し戻せるかが大きなポイントとなります。
(前田雄樹)