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患者は医療技術評価(HTA)の犠牲者になってしまうのか|DRG海外レポート

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米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回は、米国で影響力を増すInstitute for Clinical and Economic Review(ICER、臨床経済的評価研究所)による医療技術評価(HTA)を取り上げます。

 

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

 

米国で影響力を増す「臨床経済的評価研究所」

米国の医療が抱える課題が厳しさを増す中、薬価をめぐる問題に一般市民からも政策立案者からも大きな注目が集まっている。悩ましいのは、医薬品の価格が、医薬品メーカーにとっては報酬である一方、保険者にとっては価値の対価である、という点だ。

 

問題をより難しくしているのが、複雑怪奇な米国の医療システムである。そこでは、連邦や州の政府、民間の保険会社、薬剤給付管理会社、医師、患者など、さまざまな利害関係者が互いに依存し合っている。システムが複雑なせいで、医薬品の価格や費用と効果の関連がわかりづらくなっている。

 

Pills and bottle on hundred dollar bills, medicine and health care cost concept

 

もちろん、米国式の薬価設定手法だけが選択肢ではない。多くの国は体系化した医療技術評価(HTA)を導入しており、新規療法から患者が得るベネフィットを数値化して価格に反映しようとしている。考え方としては立派だが、問題はHTAによって「使用を推奨しない」と結論付けられた場合だ。予算を握る立場からは正しい決定かもしれない。しかし、患者は新しい薬へのアクセスを失うことになる。

 

米国ではこの5年間で、価格設定を監視するInstitute for Clinical and Economic Review(ICER:臨床経済的評価研究所)が、非公式のHTA機関として頭角を現してきた。ICERは、薬の価値を検証して報告する一方、価格に見合わない治療薬をやり玉に挙げる。ICERは公式機関ではないが、保険者や政策立案者は治療薬へのアクセスを絞るためにICERの知見を利用しており、ICERの影響力は拡大している。実際、CVSケアマークは、ICERの費用対効果評価をもとにフォーミュラリーから薬を除外すると表明している。

 

アクセスを阻害するリスク

ことがこれほど複雑になると、患者への意識は希薄になりがちだ。HTAによって、重篤かつ生命を脅かす疾患を治療するための薬が利用できなくなれば、患者は高いリスクにさらされるおそれがある。

 

治癒への期待を抱かせる一方で驚くほど高額な遺伝子治療薬や生物製剤が相次いで登場する時代を迎え、そのリスクはさらに増大するかもしれない。こうした新技術が導入されれば現在の方法論では手に負えないと、ICERやほかの価値評価機関は認めている。新治療に対応するには、治癒に伴う高いコストと長期に及ぶコストの削減を比較する、新たな手法が必要だ。そうした新手法の開発にあたっては、患者を置き去りにしないための慎重な検討が求められる。

 

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現在のHTAの手法は、厳密で根拠に基づく手法をとっている点で評価できる一方、製薬業界としては、厳密さを完全性とイコールで結びつけたくなる衝動を抑えなければならない。しかし、数値的モデルでは薬と疾患に絡む複雑性を余すことなくとらえるのは難しい。患者の負担という面ではなおさらだ。

 

患者の報告に基づくアウトカム(PRO=Patient Reported Outcome)は、患者の負担を数値化する手法の1つとしてHTAでしばしば使われる。しかし、PROの意義は利害関係者によってまちまちで、検証に時間と手間がかかる。さらに、すべての患者を同質な一群として扱う総計的PROでは、患者の多様性を捕捉できず、最大の価値を享受し得る特定の患者集団が埋もれてしまう可能性がある。

 

患者への理解が不可欠

PROに意義がないと言っているのではない。価値評価では数値的手法をとらなければならず、PROも必要なデータの1つだ。むしろ、PROの欠点を受け止め、見直しを行うとともに、患者や医療提供者などからのフィードバックを反映させていくことが求められる。言うほど単純な話ではないが、評価の過程で新治療薬のベネフィットが丸ごと無視されることがないよう、メーカーには製品開発プロセスの初期からPROを考慮することが必要となる。

 

HTA機関とICERのベストプラクティスは進化を続けているが、ICERが、透明性だけでなく、ありとあらゆる利害関係者からのインプットを維持しているのは心強いと言える。このような方法をとっているからこそ、話し合いの場に患者が参加できる。

 

薬とミニチュアの人々

 

ICERの影響力が増すことで、米国の健康管理システムには次世代の価値評価体系を練り上げる機会がもたらされる。これを機会のままで終わらせないためには、保険者、政策立案者、プロバイダー、製薬企業が、患者のニーズや患者が抱える問題を理解することの重要性を肝に銘じなければならない。

 

さらに、薬の表示価格に始まり、正味価格や患者の自己負担費用へと続く薬価の道筋は、複雑に入り組んでいる。価値評価では、患者からすれば価格と価値がしばしば結びつかなくなるということを考慮する必要がある。患者に焦点を当て、患者がたどる道のりと患者にとっての価値を理解してはじめて、価値に基づく医療を最大化することができる。

 

(原文公開日:2019年4月10日)

 

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。

 

【記事に関する問い合わせ先】
ディシジョン・リソーシズ・グループ日本支店
斎藤(カスタマー・エクスペリエンス・マネージャー)
E-mail:ssaito@teamdrg.com
Tel:03-5401-2615(代表)

 

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