平成も残すところ1週間あまり。IQVIAの統計データをもとに、平成元年から平成30年の国内医療用医薬品市場を振り返ります。
市場規模 5.5兆円から10.3兆円に拡大
IQVIAの医薬品市場統計によると、平成元年(1989年)に5兆5260億円だった国内医療用医薬品市場は、平成30年(2018年)には10兆3375億円まで拡大。平成の30年間で市場は87.1%、額にして4兆8000億円あまり増加しました。
少し詳しく見てみると、市場は平成4年(1992年)に初めて6兆円を超え、11年後の平成15年(2003年)に7兆円に乗りました。その後、平成19年(2007年)には8兆円、平成23年(2011年)には9兆円、平成27年(2015年)には10兆円を、それぞれ突破しました。
平成8年(1996年)から平成10年(1998年)まで3年連続で市場が縮小したのは、平成9年(1997年)の消費税率引き上げ(3%から5%)に伴って3年連続で薬価改定が行われたため。あわせてR幅(現在の調整幅のような仕組み)も段階的に圧縮され、特に平成10年は市場全体で前年比7.0%減と平成最大のマイナスとなりました。
一方、平成19年(2007年)から平成28年(2016年)までは10年連続で市場が拡大。ARBやスタチンなど生活習慣病治療薬の急速な普及と、がんやリウマチといった領域でのバイオ医薬品の台頭が市場を押し上げました。
平成28年には、ギリアド・サイエンシズのC型肝炎治療薬「ハーボニー」が2960億円、小野薬品工業の免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」が1079億円を販売。国内市場は10兆6240億円とピークに達しましたが、一方で高額薬剤の問題が顕在化しました。
このころから薬価への締め付けは一層強くなり、平成28年4月には予想を超えて販売額が極めて大きくなった医薬品の薬価を引き下げる、いわゆる「特例拡大再算定」が導入。平成29年(2017年)にはオプジーボの薬価が緊急的に半額に引き下げられ、平成30年(2018年)には新薬創出・適応外薬解消等促進加算の縮小などを柱とする薬価制度の抜本改革が行われました。
市場は平成29、30年と2年連続で縮小しており、IQVIAは日本の医薬品市場の向こう5年間の成長率を年平均マイナス3~0%と予測。国内市場は、平成の終わりとともに本格的なマイナス成長の時代の入り口に差し掛かっています。
感染症から生活習慣病、そしてがん
平成の30年間で、国内市場は規模だけでなく中身も大きく変わりました。
平成を、「前期」(1989~1998年)、「中期」(1999~2008年)、「後期」(2009~2018年)に分け、市場全体の約半分を占める上位16薬効をランキングしてみると、前期の売り上げトップは「全身性抗菌剤」。平成元年(1989年)には市場全体の17.5%を占めました。
平成中期に入ると、感染症から生活習慣病へとトレンドが移り、「レニン-アンジオテンシン系作用薬」が前期8位から3位に、「脂質調整剤および動脈硬化用剤」も前期11位から4位に浮上。「抗腫瘍剤」や「糖尿病治療剤」も売り上げを伸ばしました。
平成後期は「抗腫瘍剤」がトップで、薬効別では初めて1兆円の大台を突破。関節リウマチに対する生物学的製剤の普及で「免疫抑制剤」が伸びたほか、ハーボニーなどの高額な新薬が相次いだ「全身性抗ウイルス剤」も拡大しました。一方、「レニン-アンジオテンシン系作用薬」「カルシウム拮抗剤」「脂質調整剤および動脈硬化用剤」といった生活習慣病治療薬は、薬価の引き下げや後発医薬品の普及で市場は急激に縮小しています。
平成元年(1989年)と平成30年(2018年)を比べてみると、「全身性抗菌剤」は9656億円から2195億円と77.3%縮小した一方、「抗腫瘍剤」は3280億円から1兆2002億円と265.8%拡大。平成元年に908億円だった「レニン-アンジオテンシン系作用薬」は平成23年(2011年)に6527億円まで増加したものの、平成30年には3511億円まで減少しました。
こうした市場構造の変化は、売上高上位製品の顔ぶれにも表れています。
平成2年(1990年)に国内で最も売れた医薬品はセフェム系抗菌薬「ケフラール」でしたが、平成7年(1995年)には高脂血症治療薬「メバロチン」にトップが交代。平成17年(2005年)にはARB「ブロプレス」が首位となり、ランキング上位にはカルシウム拮抗薬「ノルバスク」やARB「ディオバン」、高脂血症治療薬「リピトール」といった大型の生活習慣病治療薬が並ぶようになりました。
平成27年(2015年)になると、C型肝炎治療薬「ハーボニー」がトップになり、2位には抗体医薬の抗がん剤「アバスチン」がランクイン。直近の平成30年(2018年)は、アバスチンのほか、免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」「キイトルーダ」と売上高上位10製品のうち3製品が抗がん剤となり、平成の中頃にランキング上位をほぼ独占していた生活習慣病領域の薬剤はARB「アジルバ」だけに。10製品中4製品を抗体医薬が占めています。
薬価抑制策によって低成長時代に突入する一方、技術の進歩に伴いモダリティが多様化する昨今の製薬業界。「令和」の国内市場には、どんな変化が待ち構えているのでしょうか。
(前田雄樹)
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