製薬会社が行う医療用医薬品の販売情報提供活動を規制するガイドラインの運用が、きょう4月1日から始まります。ガイドラインでは、販売情報提供活動の原則を規定しているほか、企業に監督部門の設置や業務記録の作成・保管などを義務付け。有効性を誇張するなど不適切なプロモーションをなくすのが目的ですが、ガイドラインはMRなどの評価の見直しまで踏み込んでおり、製薬会社では手探りの対応が続きます。
「売り上げ至上主義によらない人事評価を」
「医療用医薬品の販売情報提供活動ガイドライン」は、製薬企業による不適切な情報提供活動がなくならないことを受け、厚生労働省が昨年9月に策定。一部の項目を除いて、きょう4月1日に運用が始まりました。
厚労省が製薬会社のMRやMSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)によるプロモーション活動を対象に2016年度から行っている“覆面調査”によると、全国のモニター医療機関から不適切プロモーションとして報告のあった事例は、16年度(調査期間3カ月間)39医薬品64事例、17年度(同5カ月間)は52医薬品67事例に上りました。厚労省はガイドラインを通じてこうた事例をなくし、医療用医薬品の適正使用を確保したい考えです。
ガイドラインの対象となるのは、製薬企業や医薬品卸が行う情報提供活動で、委託先・提携先も含まれます。医療従事者に対する活動はもちろん、一般向けの疾患啓発にも適用され、規制はMRやMSLだけでなく、製薬会社のすべての従業員に及びます。販売情報提供活動に対する製薬企業経営陣の責任が明確化されました。
監督部門を設置、口頭の説明まで記録
企業に対しては、販売情報提供活動やそれに使う資材が適切かどうかをモニタリングする部門(販売情報提供活動監督部門)を設け、そこに企業から独立した第三者を含む審査・監督委員会を置くことが義務付けられました。適切に活動を行うための手順書の作成や、業務記録(医療従事者らに口頭で行った説明の内容を含む)の作成・保管も求めています。
ガイドラインはMRらの人事評価制度にも踏み込んでおり、役員や従業員が適切な販売情報提供活動を行ったか(行わせたか)を確認し、それを評価に適切に反映するよう、企業の経営陣に要請。厚労省は「適切な販売情報提供活動を行った(行わせた)ことを人事上の評価項目として設定するなど、売り上げ至上主義によらない人事評価制度や報酬体系とすることが考えられる」としています。
「SOVとは決別」
4月1日には、ガイドラインの運用開始にあわせて多くの製薬企業が販売情報提供活動監督部門を新設します。監督部門に関連する項目は10月1日からの適用ですが、製薬企業では日本新薬や科研製薬、沢井製薬などが、医薬品卸ではメディパルホールディングスなどが前倒しで対応し、新たな組織を設置。一方で、監督部門に助言を行う審査・監督委員会については、まだ目立った動きは見られません。
エーザイの宮島正行執行役(エーザイ・ジャパン プレジデント)は、同社が3月に開いた記者懇談会で、ガイドラインへの対応として、MR活動の記録・保管システムの整備や研修を行っていると説明。ファイザーの原田明久社長も同月の記者会見で「昨年から社内でオンレベル・オフレベルの情報提供をどういうふうにやるかということをディスカッションしており、今はおそらく業界でも最先端の方向でやっていると思う」とし、「既存の組織の中にガイドラインで求められているものを入れ込んで対応していく」と述べました。
売り上げ目標の見直し「悩んでいる」
悩ましいのが人事評価制度の見直しです。エーザイの宮島執行役は「今は数的(売り上げ)な評価は半分くらい。これをなくしていくかは検討中だが、少し悩んでいるところもある」と言います。一部の製薬企業ではMRの業務上の目標から売り上げを外す動きもあるとされる一方、会社全体の予算やMRのモチベーションとの関係から後ろ向きの声も聞かれ、手探りの状態は続きます。
いずれにしても、今回のガイドラインは、製薬会社の営業活動に大きな変化を迫るものです。宮島氏はガイドラインの運用開始を機に「従来のSOV(シェア・オブ・ボイス)型のビジネスとは決別し、患者や医師の見えないニーズに応えられるようなビジネスに見直したい」。ファイザーの原田社長も「正しいプロモーションこそ患者を守るという姿勢で臨んでいきたい」と話します。
製薬会社の情報提供活動をめぐっては、薬価への圧力を強める財務省がMRの生産性を問題視しており、製薬企業の間では、組織の縮小も含め営業活動を効率化する動きも広がっています。製薬会社の営業活動には、その質と量の両面で厳しい目にさらされており、今回のガイドラインはMRの減少に拍車をかけることになるかもしれません。
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