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重症喘息 相次ぐ生物学的製剤、普及のペース鈍く―治療啓発 課題に

従来の治療では症状をコントロールできない「重症喘息」に、生物学的製剤が相次いで登場しています。16年グラクソ・スミスクラインが「ヌーカラ」を、18年にはアストラゼネカが「ファセンラ」を発売。今年3月にはサノフィの「デュピクセント」も適応拡大が承認されました。治療選択肢は広がっていますが、普及のペースは鈍いといい、患者や医療関係者への啓発が課題となっています。

 

重症喘息 患者数は40~80万人

喘息(気管支喘息)は、慢性的な炎症により気道が狭くなる疾患です。炎症がある気道にダニやホコリ、ハウスダストといった刺激が加わると発作が起こり、喘鳴や息切れ、咳といった症状が出ます。

 

厚生労働省の厚生科学審議会疾病対策部会リウマチ・アレルギー対策委員会の報告書(2011年)によると、国内の喘息患者数は推定約800万人。喘息による死亡者数は減少傾向にありますが、厚労省の人口動態統計によると2017年には1794人が喘息で命を落としました。

 

喘息の治療は、気道の炎症を抑える吸入ステロイド(ICS)を中心に、気管支拡張薬である▽ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)▽長時間作用性β2刺激薬(LABA)▽長時間作用性抗コリン薬(LAMA)―などを症状に応じて組み合わせるのが基本です。

 

日本アレルギー学会のガイドラインでは、喘息の治療を4つのステップに分類。症状に合わせて治療を始め、コントロール良好な状態が維持できればステップダウン(薬を減らして治療を弱める)を、逆にコントロールできなければステップアップ(薬を増やして治療を強める)を検討することとされています。

 

喘息の治療の表。【ステップ1】<長期管理薬>基本治療:吸入ステロイド(低用量)/(使用できない場合)LTRA・テオフィリン徐放製剤、追加治療:LTRA以外の抗アレルギー薬、<発作治療>SABA。【ステップ2】<長期管理薬>基本治療:吸入ステロイド(低~中用量)/(使用できない場合、どれか一つ)LABA・LAMA・LTRA・テオフィリン徐放製剤、追加治療:LTRA以外の抗アレルギー薬、<発作治療>SABA。【ステップ3】<長期管理薬>基本治療:吸入ステロイド(中~高用量)といずれか一つまたは複数を併用、LABA・LAMA・LTRA・テオフィリン徐放製剤、追加治療:LTRA以外の抗アレルギー薬、<発作治療>SABA。【ステップ4】<長期管理薬>基本治療:吸入ステロイド(高用量)と複数を併用、LABA・LAMA・LTRA・テオフィリン徐放製剤・抗IgE抗体・抗IL-5抗体・抗IL-5Rα抗体・経口ステロイド・気管支熱形成術、追加治療:LTRA以外の抗アレルギー薬、<発作治療>SABA。

 

しかし、こうした薬剤を複数組み合わせて治療してもコントロールできない患者も一定数おり、「重症喘息」「難治性喘息」と呼ばれます。重症喘息は喘息全体の5~10%を占めるとされており、国内の重症喘息患者数は40~80万人に上るとみられています。

 

生物学的製剤 4剤が承認

近年、こうした重症喘息患者向けに、生物学的製剤が相次いで登場しています。

 

2009年には国内初の喘息向け抗体医薬としてノバルティスファーマが抗IgE抗体「ゾレア」(一般名・オマリズマブ)を発売。これに続いて、16年6月にグラクソ・スミスクラインが抗IL-5抗体「ヌーカラ」(メポリズマブ)を、18年4月にはアストラゼネカが抗IL-5受容体α抗体「ファセンラ」(ベンラリズマブ)を、それぞれ発売しました。

 

さらに19年3月には、アトピー性皮膚炎治療薬として販売されてきたサノフィの抗IL-4/13受容体抗体「デュピクセント」(デュピルマブ)も適応拡大の承認を取得。現在、国内では4つの生物学的製剤が重症喘息の治療に使えるようになっています。

 

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喘息は「アレルギー性」「好酸球性」「好中球性」といったいくつかのフェノタイプ(表現型)に分類されています。ゾレアはアレルギー性喘息の原因であるIgEに結合し、これを介したアレルギー反応を抑える薬剤。ヌーカラとファセンラは、気道炎症を引き起こす好酸球を減らすことで好酸球性喘息に効果を示します。デュピクセントは、IL-4やIL-13によるシグナル伝達を阻害することで炎症に関与する2型炎症反応を抑制する薬剤です。

 

中でも使用が広がっているのがファセンラです。同薬は好酸球表面のIL-5受容体αに結合し、IL-5の好酸球への結合を阻害することで好酸球の増殖を抑制。同時に、ADCC(抗体依存性細胞傷害)活性によって好酸球のアポトーシス(細胞死)を誘導します。こうした作用により好酸球をほぼ完全に除去するのが同薬の最大の特徴。同薬の主な臨床第3相(P3)試験の長期継続投与試験「BORA」では、患者の74%が投与2年目に喘息の増悪を起こさなかったといいます。

 

アストラゼネカによると、ファセンラは重症喘息向け生物学的製剤市場(生物学的製剤未治療患者+ほかの薬剤からの切り替え)でトップシェアを獲得。8週1回投与という利便性も手伝って、この領域をリードしています。

 

治療の啓発が課題に

重症喘息に対する生物学的製剤の選択肢は広がっていますが、普及のスピードは鈍いようです。

 

アストラゼネカによると、本来なら生物学的製剤の対象となる重症喘息患者のうち、実際に投与を受けているのは10%程度にとどまるといいます。同社が18年に発表した調査では、ガイドラインの定義で重症と判断される患者の89%が、自らの病状を「軽症」または「中等症」と回答。生物学的製剤についても71%が「知らない」と答えました。医師を対象とした調査でも、重症喘息患者に生物学的製剤を5例以上処方した経験のある医師は、専門医で54%、非専門医で9%にとどまりました。

 

喘息向けの生物学的製剤では、アストラゼネカがファセンラとは異なる作用機序を持つ抗TSLP抗体tezepelumabを開発中。ゾレアは今年3月に利便性の向上を狙って申請していたプレフィルドシリンジ製剤の承認を取得し、ヌーカラは小児適応の取得に向けた臨床試験を進めています。

 

喘息を対象に開発中の生物学的製剤の表。

 

ガイドラインで重症度が最も高いとされる「ステップ4」の治療を行っても、約4割の患者が過去1年以内に救急受診や入院を経験しているとの報告もあります。生物学的製剤による治療の充実が期待される中、患者と医療従事者の双方に対する啓発が課題となっています。

 

(前田雄樹)

 

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