がん患者の遺伝情報に基づき最適な治療薬を選ぶ「がんゲノム医療」が、日本でも本格的な普及期を迎えつつあります。
昨年末、がん関連遺伝子変異を網羅的に調べる「がん遺伝子パネル検査」が相次いで承認され、今春にも保険適用される見通し。厚生労働省は4月以降、ゲノム医療の提供体制をさらに拡充させる方針で、製薬企業側でも遺伝子変異に着目した臓器横断的な抗がん剤の開発が進んでいます。
がん遺伝子パネル検査 今春にも保険適用
「がんゲノム医療」は、がんに関連する遺伝子変異を網羅的に調べ、その結果に基づいて患者一人ひとりに合った最適な治療を行うこと。「プレシジョン・メディスン(精密医療)」とも呼ばれ、より効果的・効率的ながん治療が可能になると期待されています。
昨年12月、このがんゲノム医療に必要不可欠な「がん遺伝子パネル検査」が日本で相次いで薬事承認を取得しました。▽シスメックスが国立がん研究センターと共同開発した「OncoGuide NCCオンコパネルシステム」▽中外製薬がロシュ・グループの米ファウンデーションメディシンから導入した「FoundationOne CDxがんゲノムプロファイル」――の2製品で、この春にも保険適用となる見通しです。
がん遺伝子パネル検査は、次世代シークエンサーを使って、患者の腫瘍組織からがん関連遺伝子の変異を一括して網羅的に調べる検査。OncoGuideは114、FoundationOneは324のがん関連遺伝子を1回の検査で調べることができます。FoundationOneはさらに、国内ですでに承認されている13の分子標的薬のコンパニオン診断薬としても使用可能です。
厚労省 検査体制をさらに拡充
がん遺伝子パネル検査は昨年春から先進医療として行われていますが、OncoGuideの場合、患者は46万4000円の費用を負担しなければなりません。保険適用されれば検査費用の患者負担は軽減される見通しで、ゲノム医療の本格的な普及に向けた大きな一歩となります。
がんゲノム医療をめぐっては、厚生労働省が医療提供体制の整備を進めています。昨年3月には「がんゲノム医療中核拠点病院」に11カ所、「がんゲノム医療連携病院」に100カ所を指定。同10月には連携病院に35カ所を追加し、現在、中核拠点病院には11カ所、連携病院には135カ所が指定されています。厚労省は来年度、新たに「がんゲノム医療拠点病院」を整備する方針で、来年度予算案に関連費用を計上。ゲノム医療の提供体制をさらに拡充させます。
実際の治療の流れは、まず連携病院が患者にがん遺伝子パネル検査の説明を行い、検体を採取して中核拠点病院に送付。中核拠点病院が検査を行い、専門家会議で治療方針を検討した上で、連携病院が結果を患者に説明し、実際の治療にあたります。
来年度に新設される拠点病院は、中核拠点病院とともにがん遺伝子パネル検査を担います。中核拠点病院が備える人材育成や研究開発などの機能は持たないものの、検査と治療方針の検討を自施設で完結できる体制が求められることになりそうです。
臓器横断の適応 キイトルーダが国内初承認
がんゲノム医療の普及に向けた環境整備が進む中、製薬企業側では、がん種別(臓器別)ではなく、複数のがん種に共通してみられるバイオマーカーに着目した臓器横断的な適応で抗がん剤を開発する動きが広がっています。
日本では昨年12月、MSDの免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」(一般名・ペムブロリズマブ)が、「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形がん」への適応拡大の承認を取得しました。臓器横断型の適応で承認された抗がん剤は国内初。コンパニオン診断薬は昨年12月から保険適用されています。
MSI-Highは、大腸がんや胃がん、膵臓がんといった消化器がんのほか、子宮内膜がんや卵巣がん、乳がん、前立腺がん、膀胱がん、甲状腺がんなどで報告。大腸がんの約6%、子宮内膜がんの約17%でMSI-High固形がんがみられたとの報告もあります。
エヌトレクチニブも今年半ばに承認へ
中外製薬も昨年12月、ROS1/TRK阻害薬エヌトレクチニブを、「NTRK融合遺伝子変異陽性の固形がん」の適応で申請。同薬は先駆け審査指定制度の対象に指定されており、今年半ばの承認が予想されます。
NTRK融合遺伝子変異は非常にまれではあるものの、乳がんや大腸がん、消化管間質腫瘍、肺がんなど幅広い固形がんや肉腫などで確認されているといいます。
海外では昨年11月、米FDA(食品医薬品局)が一足先に、NTRK融合遺伝子変異陽性固形がんを対象にTRK阻害薬「Vitrakvi」(larotrectinib)を承認。同薬を独バイエルと共同開発した米ロキソ・オンコロジーは1月7日、米イーライリリーに買収されることが発表されました。
がんゲノム医療は本格的な普及期を迎えますが、100を超える遺伝子を調べても、使用できる薬が見つかる患者は現状では1割程度にとどまります。厚労省は昨年6月、がんゲノム医療を通じて得られた遺伝子情報や臨床データを収集する「がんゲノム情報管理センター」を国立がん研究センターに設置。新薬開発にも活用する方針です。
製薬業界 企業研究 |
[PR]【がん・バイオのMR求人増加中】希望の求人お知らせサービス<MR BiZ>