急速に発展するがん免疫療法に、新たな薬剤が登場しました。二重特異性抗体でT細胞をがん細胞に誘導する治療で、今年11月にアステラス・アムジェン・バイオファーマがB細胞性急性リンパ性白血病治療薬「ビーリンサイト」を発売。中外製薬も臨床試験を進めています。
アムジェンの「BiTE抗体」白血病薬として発売
米アムジェンとアステラス製薬の合弁会社アステラス・アムジェン・バイオファーマは11月27日、再発・難治性のB細胞性急性リンパ性白血病治療薬「ビーリンサイト」(一般名・ブリナツモマブ)を発売しました。
同薬は、2014年に世界で初めて承認された二重特異性抗体によるがん免疫療法剤。「BiTE抗体」(二重特性T細胞誘導抗体)と呼ばれるアムジェンの技術プラットフォームから生まれたものです。がん抗原に特異的に結合する抗体と、T細胞に特異的に結合する抗体、それぞれの抗原結合部位を短いリンカーでつないだ一本鎖抗体の構造を持ちます。
ビーリンサイトは、B細胞上に特異的に発現するCD19とT細胞表面のCD3に結合。がん細胞にT細胞を誘導することで抗腫瘍効果を発揮します。
臨床第3相(P3)試験「TOWER」では、寛解持続期間を標準化学療法に比べて約3カ月延長(7.3カ月vs.4.6カ月)。国際医療福祉大三田病院悪性リンパ腫・血液腫瘍センターの小林幸夫・副センター長は「従来の標準療法を劇的に変えるものではない」としながらも、「寛解期間の3カ月の延長は、その後の造血幹細胞移植を考えると大きな差になる」と評価します。
グリピカン-3で固形がんを狙う中外
アムジェンのBiTE抗体は、がん抗原に結合する部位を変えることによって、さまざまながんに対応できる可能性があります。アステラス・アムジェンの三好出・研究開発本部長は「BiTE抗体はアムジェンにとって中心的なプラットフォームになっていく」と話しており、現在、血液がんを中心に複数のがん種で臨床試験が行われています。
がん細胞にT細胞を誘導する二重特異性抗体は、アムジェン以外でも開発が行われています。
中外製薬はT細胞リダイレクティング抗体(TRAB)として、腫瘍細胞のグリピカン-3(GPC3)とT細胞のCD3を標的とする二重特異性抗体「ERY974」を開発中。2016年8月から固形がんを対象に海外でP1試験を行っています。GPC3は肝細胞がんや胃がん、食道がんなどで多く発現。ERY974はこうしたがんに強力な抗腫瘍効果を発揮することが期待されています。
ロシュグループではこのほか、▽がん胎児性抗原(CEA)とCD3をターゲットとする「RG7802」(cibisatamab)▽B細胞上のCD20とCD3を標的とする「RG7828」(mosunetuzumab)――を開発しています。RG7802は固形がんを対象とするP1試験が行われており、単剤療法または免疫チェックポイント阻害薬「テセントリク」(アテゾリズマブ)との併用療法を検討。RG7828は米ジェネンテックが創製したもので、血液がんを対象にP1試験が行われています。
ビーリンサイト 費用は1サイクル750~800万円
腫瘍細胞にT細胞を誘導する治療法としては、二重特異性抗体を使ったもののほかに、CAR-T細胞(キメラ抗原受容体発現T細胞)療法があります。
CAR-T細胞療法は、患者から採取したT細胞に遺伝子操作を加え、がん抗原を特異的に認識するキメラ抗原受容体を発現させた上で、再び患者の体内に戻す治療法です。国内では18年4月、ノバルティスが「CTL019」(海外製品名・キムリア)を申請。セルジーンや第一三共、大塚製薬も開発を進めています。いずれもB細胞表面のCD19を標的としており、血液がんが対象です。
CAR-T細胞療法は高い有効性が期待される反面、米国ではキムリアに5400万円(単回投与)の価格がつくなど超高額です。一方、ビーリンサイトの薬価は1サイクルあたり750~800万円(最大9サイクルまで投与可能)。薬価算定時には有用性加算II(加算率10%)や小児加算(同5%)がついており、アステラス・アムジェンの山崎浩司・事業本部長は「適切な評価をしてもらったと考えている」。中央社会保険医療協議会の資料によると、ビーリンサイトはピーク時に23億円の売り上げを見込んでいます。
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