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トランプ氏の薬価改革 米国はどの国を基準にメディケアからの支払い額を決めるのか|DRG海外レポート

更新日

米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは、米国のトランプ大統領が先月発表した薬価引き下げ策。他国の価格を基準にメディケアによる支払い額を決めるといいますが、一体、どこの価格を参照するのでしょうか。

 

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

 

国際薬価指標を基準に

メディケア・パートBにより支払いを国際薬価指標(IPI)に基づいて行うというトランプ大統領の提案により、米国で国際参照価格決定方式(IRP)が実効性を持つ可能性がある。世界の多くの国々が採用しているこのシステムは、薬価は基本的に他国の価格に(すなわち、どの国が「参照されているか」に)よって決まる、というものだ。

 

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トランプ大統領によるこの提案は、メディケア・パートBの一部として医師が投与する医薬品に適用される。メディケア・パートDがカバーする外来の医薬品は対象とならない。現在は、市場価格に付加料金を上乗せしてメディケアが支払い額を決めているが、トランプ氏の提案が実現すれば、参照する国の薬価算定方法も踏まえた価格設定になると思われる。製薬会社がどこまで価格を最大化できるか、そのカギは国によっても異なる。以下はブラジルの例だが、IRPによる価格設定ルールは複雑かつ多様だ。

 

ブラジルの例

【参照している国】10カ国(米国、カナダ、ポルトガル、スペイン、フランス、イタリア、ギリシャ、ニュージーランド、オーストラリア、薬の生産国)

【参照されている国】1カ国(コロンビア)

【ERPの役割】主たる基準

【活用のタイプ】正式

【処理段階】価格段階

【使用価格】最低価格

【基準】出荷額

 

薬剤の当初の表示価格は、イノベーションレベルと外部参照価格設定プロセスによって決まる。Câmara de Regulação do Mercado de Medicamentos(CMED:医薬品市場規制評議会)、エビデンスと経済分析で判断したイノベーションのレベルに基づき、薬剤を6つのカテゴリに分類する。製造元からの発売価格は、その薬剤の等級によって決まる。

 

既存の治療より有効性や安全性に優れた特許期間中の新薬(カテゴリ1)の発売価格は、その薬剤の参照国の最低価格を超えることはできない。

 

後発医薬品(カテゴリーVI)の発売価格は、各参照製品の価格の65%を超えることはできない。ANVISA(ブラジル国家衛生監督局)は、同等性立証のための参照製品を掲載したLista de Medicamentos de Referência(参照薬剤リスト)を発行する。

 

米国が参照するのは、独英加仏日?

米国がIPI方式を採用すれば、メディケア・パートBの治療薬の価格は、参照対象となる国をどこにするかに影響を受けることになる。上の例のように、ブラジルは10カ国を参照した上で、そのうちの最低価格を用いている。

 

これに対して日本が参照しているのは、フランス、ドイツ、英国、米国の4カ国で、それらの平均を参考にしている。どの国々を参照し、それを参考にどうやって自国の薬価を決めるのか。この2つの問に対する米国の対応次第で、製薬会社が最終的に受けるインパクトは大きく左右される。

 

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Decision Resources Groupでは、米国が参照する国は、ドイツ、英国、カナダ、フランス、そして日本になると予想している。いずれも先進国で、製薬企業にとっては収益性の高い市場だが、それぞれに課題もある。

 

各国の薬価制度の特徴

ドイツ
ドイツは欧州最大の市場で、発売初年は価格を自由に設定できることが製薬企業にとってメリットとなる。しかしその後、Institute for Quality and Efficiency in Healthcare(IQWiG:医療品質・効率性研究機構)とFederal Joint Committee(G-BA:連邦合同委員会)によって「追加的なベネフィットがない」と評価されれば、価格は大きく引き下げられる。こうした事態は頻繁に起こっており、ドイツ市場からの撤退を余儀なくされる医薬品もある。

 

英国
英国では、政府がQALY(質調整生存年)に基づく医療技術評価を行っており、これが患者アクセスの保障を介して価格低下の要因となっている。英国のコストパフォーマンスの許容範囲は、同じ薬が米国で売られた場合よりはるかに狭い。米国のInstitute for Clinical and Economic Review(臨床・経済的評価研究所)の利益目標がQALYあたり10~15万ドルなのに対し、英国ではQALYあたり最高2~3万ポンドとなっている。英国を参照すれば、米国の薬価は急落するだろう。

 

さらに、英国では多くのブランド薬が、正式な医療技術評価(HTA)を経て初めて払い戻される。つまり、英国のHTAが完了するまで、米国は参照対象に英国を含めるのを先送りする必要があるわけだ。

 

Yellow pills lie on american dollars banknote.

 

カナダ
同じようなことが、英国式HTAを採用しているカナダにも当てはまる。しかしカナダの場合、実際にはPMPRB(特許医薬価格監視機関)が調整している公開価格を参照できるだろう。HTAを待たずとも発売直後から参照可能で、カナダ式のHTAとは何ら関連しないと考えられる。

 

フランス
フランスについても、米国が個別の薬剤の価格を参照するには評価完了まで待つ必要がある。フランスの薬価は、その治療薬の重要性と追加的ベネフィットに応じて決まる。価格決定に有利に働くのは稀で、ここでも薬価は抑制される。

 

日本
日本には、販売期間が長いほど薬価が下がるという独自の価格設定ルールがある。米国が日本を参照する場合、その薬の販売期間が長いほど価格は実質的に低下することになる。

 

他国で値上げか、利益縮小を受け入れるか

トランプ大統領の提案には、まだ肉付けが足りない部分が多い。

 

現段階で考えられる最も現実的な対応は、新薬については現在の価格決定モデルを維持し、いずれ欧州とカナダでHTAが完了したあと、おそらく発売から1年がたったあたりで、IRPモデルに切り替えることだろう。そうしなければ、メディケア・パートBからの支払いは日本とドイツでの発売後まで延期しなければならず、その間、米国では保険償還されないということになってしまう。

 

IPIの導入は価格低下を招くだけに、業界にとっては最終的にネガティブな影響が出る。米国であげた利益で、利幅の薄いそれ以外の国々を補っているのが、今の製薬会社の状況だ。欧州とアジアで値上げするのか(これは非常に困難)、あるいは利益の縮小を甘んじて受け入れるのか、製薬企業は対応を迫られるだろう。

 

(原文公開日:2018年10月31日)

 

【AnswersNews編集長の目】

11月6日に行われた中間選挙直前というタイミングで、新たな薬価抑制策を発表した米国のトランプ大統領。メディケア・パートBがカバーする医薬品に対する支払いを「国際薬価指数」をもとに決めるというもので、Decision Resources Groupのアナリストは、米国はドイツ、英国、カナダ、フランス、日本の5カ国の価格を参照することになるのではないかと予想しています。

 

記事にもある通り、米国を除く主要な先進国ではHTA(医療技術評価)によって薬価を抑える仕組みがあり、トランプ氏の提案が実現すれば米国の薬価も下がることになるでしょう。製薬会社にとって米国は、先進国では唯一、高い成長を期待できる市場。日本の製薬大手も、国内での売り上げ減を米国を中心とする海外で補う構図が続いています。米国の価格低下は、製薬会社に戦略の転換を迫ることになるかもしれません。

 

一方、トランプ氏の求めに応じて薬価の引き上げを先送りしていた米ファイザーは、来年1月に同社が米国で販売する医薬品の1割にあたる41製品を5%値上げすると発表しました。同社のイアン・リードCEOは「価格は市場に合わせ、競争力を考慮して決定する」とコメント。薬価をめぐる綱引きは続きます。

 

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。

 

【記事に関する問い合わせ先】
ディシジョン・リソーシズ・グループ日本支店
斎藤(カスタマー・エクスペリエンス・マネージャー)
E-mail:ssaito@teamdrg.com
Tel:03-5401-2615(代表)

 

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