米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは、先日、米国のトランプ大統領が発表した薬価引き下げ策。製薬業界は「新薬開発への投資を冷え込ませる」と反発しています。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
メディケアによる支払い 他国の価格を基準に
ドナルド・トランプ米大統領は2018年10月25日の記者会見で、新たな薬価引き下げ策を発表した。メディケアによる医薬品への支払いを見直すもので、政権は今後数年間で毎年数十億円規模の負担軽減を狙っている。
トランプ大統領の提案は、大統領が「世界的なたかり行為」と呼ぶ状況をターゲットにしている。具体的には、メディケアの「パートB」(医療機関で投与される医薬品が対象)で、特定の医薬品に対する支払いを他国の水準に基づいて行うというものだ。
パートBによる支払いは現在、米国市場の平均価格に付加料金を上乗せして設定されている。政権はこれを「国際薬価指数」(IPI)に基づいて行うことで、「他国のタダ乗り」を抑え込むとともに、薬価を引き下げることを目指している。
「ほかの国々は、何十年も米国の支払いシステムを不正に利用してきた。我が国の患者は、全く同じ薬を他国よりはるかに高い値段で買っている」とトランプ氏は述べている。
トランプ氏が提案したIPIモデルは、5年かけて段階的に導入される。米厚生省によると、これによって5年間で172億ドルを節約できる見通しで、自己負担分も34億ドル抑えられる可能性がある。製薬業界にとっては、この5年が提案を阻止するためのロビー活動を展開するチャンスとなる。
「新薬開発への投資を冷え込ませる」
トランプ大統領の発表は、経済状況が米国と似た国との比較をもとにパートBの27医薬品のコストを調査した厚生省の報告書のリリースと、時を同じくして行われた。報告書の結論は、メディケアは他国に比べて平均で2倍近いコストを支払っている、というものだ。
これら27の医薬品として挙がっているのは、「アバスチン」「ハーセプチン」「ルセンティス」「レミケード」「ソリリス」「ゾレア」などだ。
バイオテクノロジー企業で構成する団体バイオテクノロジー・イノベーション・オーガニゼーション(BIO)のトップ、ジェームス・グリーンウッド氏は声明で、他国の統制価格を適用することは「米国患者向けの新たな治療法・治療薬への投資をひどく冷え込ませるだろう」と述べている。
トランプ氏の提案が製薬企業やその研究開発活動に与える影響については、現時点ではまだ何とも言えない。トランプ氏は、薬価改革の断行を約束し、実行に移しているわけだが、市場の反応を見ているとメーカー側がパニックに陥っている様子はない。BIOは、メディケアの「近視眼的で有害な変化」(グリーンウッド氏)に対抗していくとしている。今後の展開に注目すべきだろう。
(原文公開日:2018年10月26日)
【AnswersNews編集長の目】大統領選の選挙期間中から薬価を批判し続けてきた米国のトランプ大統領。中間選挙(現地時間11月6日)直前のタイミングで、新たな薬価抑制策を発表しました。
トランプ氏は今年5月にも薬価引き下げに関する演説を行っており、この時は一部の薬剤をメディケアのパートBからパートDに移すことに言及したほか、医薬品のテレビコマーシャルで価格の表示を義務付けることが主な内容でした。
トランプ氏はこうした政策とは別に、たびたび個別の製薬企業を攻撃しています。今年7月には、一部医薬品を値上げした米ファイザーなどの製薬大手をツイッターで批判。これを受けたファイザーが値上げを先送りしたこともありました。
アナリストも指摘する通り、今回トランプ氏が表明した政策が製薬企業に与える影響については、現時点では何とも言えません。トランプ氏の存在は、引き続き製薬業界にとって不安要素となるでしょう。 |
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
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