神経難病の脊髄性筋萎縮症(SMA)で、画期的な新薬が相次いで開発されています。日本では昨年、バイオジェンのアンチセンス核酸医薬「スピンラザ」が承認。来年にはノバルティスの遺伝子治療薬が登場する見通しで、中外製薬はスプライシングを修飾する低分子薬の開発を進めています。
INDEX
SMN1遺伝子の変異が主な原因
脊髄性筋萎縮症(SMA)は、運動ニューロンの正常な機能を維持するのに必要なSMNタンパク質をつくるSMN1遺伝子(SMN=Survival of Motor Neuron=運動神経細胞生存)の変異によって引き起こされる常染色体劣性遺伝性の疾患です。SMA患者は、SMNタンパク質が十分産生することができないため、脊髄内の運動ニューロンに変性が生じ、筋肉が萎縮して筋肉量と筋力が低下します。
SMAは発症の時期によって5つの型に分類されています。最も患者数の多い1型(生後6カ月ごろまでに発症)では、呼吸や嚥下といった生命維持に必要な身体機能に支障をきたし、自力で座ることができません。1型SMAでは、呼吸補助なしに生後24カ月以上生存できる患者は全体の1.3%にとどまります。
SMAは日本で指定難病となっており、国内の罹患率は10万人あたり1~2人。1型は出生2万人に対して1人前後とされます。SMAで特定疾患医療受給者証を持っている人は、2016年時点で全国に855人います。
スピンラザに続く新薬は
これまで有効な治療法がほとんどなかったSMAですが、最近になって新薬が相次いで開発されています。
日本では昨年7月、バイオジェン・ジャパンの「スピンラザ」(一般名・ヌシネルセンナトリウム)が承認を取得。翌8月に販売を開始しました。米国では2016年12月、欧州では17年5月に承認されています。
世界初のSMA治療薬となった同薬は、日本では初のアンチセンス核酸医薬。SMN1の重複遺伝子であるSMN2のmRNA前駆体に結合し、スプライシング(DNAから転写された遺伝情報から不要な部分を除去する過程)を変えることで、通常なら不完全なSMNタンパク質しかつくれないSMN2遺伝子で正常なSMNタンパク質を産生します。
ノバルティス 遺伝子治療を申請へ
SMA治療薬としてスピンラザに続くのが、スイス・ノバルティスの「AVXS-101」です。同薬はアデノ随伴ウイルスを使って患者にSMN遺伝子を導入する遺伝子治療。日本では「先駆け審査指定制度」の対象に指定されるなど、日米欧で画期的新薬として迅速審査の対象となっています。
ノバルティスは今年5月、87億ドル(当時のレートで約9570億円)を投じて米AveXisを買収し、AVXS-101を獲得。欧米ではすでに申請を済ませており、日本でも年内に申請を完了させる予定。日米で19年上半期、欧州で19年半ばの承認を期待しています。
スピンラザは4カ月に1回(負荷投与終了後)の注射が必要なのに対し、AVXS-101は1回の注射で治療が完結します。海外の臨床試験では、同薬を投与した15例全例で生後20カ月までイベントフリーで生存しており、申請予定用量を投与した12例中10例が支えなしで10秒以上座ることができるようになるなど、高い有効性が示唆されています。
低分子でスプライシングを狙うロシュ
スイス・ロシュが開発(日本では中外製薬が開発)する「RG7916」(risdiplam)は、スピンラザと同じくSMN2遺伝子のスプライシングを修飾することで、機能性を持ったSMNタンパク質の産生を増加させる薬剤です。最大の特徴は、低分子化合物で経口投与が可能な点。現在、グローバルで臨床第2相(P2)試験を行っており、日本では2020年の申請を予定しています。
10月に発表されたP2試験の中間成績によると、患者14人のうち3人が支えなしで座位をとることができるようになるなど、結果は良好。19年はじめには、発症前のSMAを対象とした臨床試験もスタートします。
ノバルティスも、核酸に作用することでスプライシングを変える低分子化合物「LMI070」(branaplam)を開発中。欧州でP2試験を進めており、2022年以降の申請を目指しています。