全国各地で学級閉鎖を行う学校も出始めたインフルエンザ。今シーズンは、新薬「ゾフルーザ」の販売が本格化するほか、定番薬の「タミフル」には後発医薬品が登場し、治療薬の市場も変化しそうです。
大流行の昨シーズン 売り上げトップはイナビル
長く続いた記録的な猛暑が落ち着いてきたのも束の間、早くもインフルエンザシーズンの足音が聞こえてきました。9月に入り、東京や愛知、京都、福岡などで小中学校の学級閉鎖が相次いでいます。
インフルエンザの治療は抗ウイルス薬の投与が中心となります。主に使われるのは、
▽吸入薬「リレンザ」(グラクソ・スミスクライン、2000年発売)
▽経口薬「タミフル」(中外製薬、01年発売)
▽点滴薬「ラピアクタ」(塩野義製薬、10年発売)
▽吸入薬「イナビル」(第一三共、10年発売)
▽経口薬「ゾフルーザ」(塩野義製薬、18年発売)
の5種類。抗インフルエンザウイルス薬としてはこのほか、いずれも経口薬の「シンメトレル」(サンファーマ)と「アビガン」(富山化学工業)が承認されていますが、シンメトレルはA型にしか効果がなく、アビガンは新型・再興インフルエンザ向けのため販売はされていません。
1999年の統計開始以来最大の流行となった昨シーズンは、抗インフルエンザウイルス薬の販売も大きく伸びました。売上高が最も大きいのはイナビルで前年度から29.2%増加。タミフルが169億円(前年度比25.2%増)、ラピアクタが33億円(13.8%増)と続き、ゾフルーザは今年3月の発売から発売2週間で24億円を売り上げました。
ゾフルーザ シェア2番手に浮上の見通し
今年度は、各社とも昨シーズンほどの流行を見込んでいないこともあり、売り上げは昨年度から大きく減少する見通しです。イナビルは24.8%減の190億円を予想しており、タミフルは66.9%減の56億円、ラピアクタも66.7%減の11億円と落ち込みます。
そうした中、一気にシェア拡大を狙うのがゾフルーザです。シーズンを通して販売する初めての年度となる18年度は、前年度の5.4倍となる130億円を計画。金額ベースのシェアでイナビルに次ぐ2番手に浮上する見通しです。
ゾフルーザの最大の特徴は、1回の経口投与で治療が可能な点。同薬はCapエンドヌクレアーゼ阻害薬と呼ばれる新規作用機序を持ち、細胞内でウイルスが増殖するのに必要なRNA複製過程の最初の反応を阻害することでウイルスの増殖を抑えるとされています。一方、イナビルやタミフルなどのノイラミニダーゼ阻害薬は、細胞内で増殖したウイルスが細胞外に遊離するのを抑える薬剤で、増殖そのものを抑制する作用はありません。
治療上の位置付けは既存のノイラミニダーゼ阻害薬と大きくは変わらないものの、やはりゾフルーザの「経口で1回」というメッセージは強力。耐性化への懸念はありますが、利便性の高さを背景に急速に普及していくことになりそうです。流行状況もさることながら、各薬剤の減収予想にはゾフルーザの影響が強く反映されています。
今シーズン、もう1つ市場に影響を与えそうなのが、タミフルに後発品が登場したことです。今年2月、沢井製薬1社だけが後発品の承認を取得し、9月に発売されました。1治療あたりの薬価は、タミフルの2720円に対して後発品は1360円と半額。切り替えがどの程度進むのか、注目されます。
タミフル 10代への使用制限を解除
抗インフルエンザウイルス薬をめぐっては、今年8月、一斉に添付文書の改訂が行われました。
2007年以降原則中止されていたタミフルの10代への投与が再び認められたほか、すべての薬剤で異常行動に対する注意喚起の記載を統一。「重要な基本的注意」の記載が「抗インフルエンザウイルス薬の服用の有無または種類にかかわらず、インフルエンザ罹患時には異常行動を発現した例が報告されている」と改められ、「重大な副作用」の欄には因果関係は不明としつつ「異常行動」が追加されました。
新薬の登場や後発品の参入、さらにはタミフルの10代への投与解禁も含め、治療選択肢が広がる今シーズン。治療薬市場の様子も一変しそうです。