米ギリアド・サイエンシズの日本事業が第2幕を迎えます。これまでJTに委託していた抗HIV薬の製造販売を自社に切り替える方針で、肝炎以外に事業領域を拡大。パイプラインには関節リウマチ治療薬や抗がん剤も控えており、将来的な成長に向けて日本事業の基盤を強化します。
抗HIV薬 JTとの提携を解消
米ギリアド・サイエンシズが、グローバルで主力の抗HIV薬を日本でも自社販売すべく、製造販売を委託するJT(日本たばこ産業)と提携解消に向けた協議を始めました。
ギリアドがJTに日本での独占的開発・商業化権を与えている抗HIV薬は「ビリアード」「エムトリバ」「ツルバダ」(2003年)、「スタリビルド」(10年)、「ゲンボイヤ」「デシコビ」(11年)の6製品(カッコは契約を結んだ年)。国内での販売はJT子会社の鳥居薬品が行っており、2017年12月期の売上高は合わせて200億円規模に上ります。
ギリアドが15年間に及ぶJTとの提携解消に動くのは、大型化が期待される新規抗HIV薬「Biktarvy」の日本での申請が近付いているからです。8月27日のJTの発表によると、ギリアド側は同薬の日本での承認取得と販売を自社で行うとJTに通知するとともに、抗HIV薬6製品に関するライセンス契約の解消を提案したといいます。
Biktarvyは、インテグラーゼ阻害薬ビクテグラビルと、核酸系逆転写酵素阻害薬エムトリシタビン、同テノホビル アラフェナミドの配合剤。米国では今年2月、欧州では6月に承認されており、18年1~6月期は2億2000万ドルを売り上げました。従来薬より安全性が高いのが特徴で、ブロックバスターになるのは確実と言われています。日本でも近く申請を行うとみられ、来年には発売となる見通しです。
C型肝炎治療薬は売り上げ激減
ギリアドは12年に日本法人を設立。15年5月に「ソバルディ」、同年9月に「ハーボニー」とC型肝炎治療薬2製品を相次いで発売し、日本市場に参入しました。
両剤は高い治癒率を背景に爆発的にヒットし、ソバルディは15年に1118億円、ハーボニーは16年に2960億円を販売。予想を超えて販売額が極めて大きくなった医薬品の薬価を引き下げる「特例拡大再算定」導入のきっかけとなった薬剤で、日本の薬価制度に「イノベーションと医療保険財政の両立」という重い課題を突き付きつけました。
過去に例を見ないスピードで浸透したソバルディとハーボニーですが、有効性の高さゆえ瞬く間に需要は一巡。売り上げは16年1~3月をピークに早くも縮小に転じました。17年11月には、より幅広いウイルス型に対応でき、一部患者ではより短期間での治療を可能にする「マヴィレット」(アッヴィ)が発売。市場環境はまた一段と厳しさを増しました。
ギリアドは今年5月、難治性C型肝炎の治療薬(海外製品名・Epclusa)を申請しましたが、そこまで大きな市場性はありません。大型化が期待される非アルコール性脂肪肝炎(NASH)治療薬も、市場投入にはもう少し時間がかかります。
「免疫」「がん」にも拡大へ
ギリアドはHIVを手始めに、日本でも肝炎以外に事業領域を拡大させていく方針です。
同社の日本の開発パイプラインを見てみると、JAK阻害薬Filgotinibが関節リウマチや潰瘍性大腸炎、クローン病を対象に臨床第3相(P3)試験を実施中。グローバルでは、抗MMP9抗体Andecaliximabが胃がんの適応で開発後期段階に入っています。これら新薬の投入に備え、今、抗HIV薬を自社展開して足場をさらに固めておきたいとの考えがあったようです。
画期的なC型肝炎治療薬を引っさげ、鳴り物入りで日本市場に参入してから早5年。ギリアドの日本事業は、新たなフェーズに入ろうとしています。