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【ASCO2018】免疫チェックポイント阻害薬 併用療法を開発する難しさ|DRG海外レポート

更新日

米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは、免疫チェックポイント阻害剤の併用療法の開発。6月に開かれたASCO2018(米国臨床腫瘍学会)で発表された主な臨床試験結果をまとめてご紹介します。

 

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

 

開発競争は併用療法がメーンに

がん治療薬の開発競争のゴールが市場に到達することだとすると、免疫チェックポイント阻害薬の開発競争は短距離競走に変わりつつある。開発のスピードアップは製薬企業にとって頭痛の種となっている。

 

2014年にメルクのキイトルーダが悪性黒色腫で承認を取得して以降、PD-1阻害薬は多くのがん種に強力かつ持続的な奏効をもたらしてきた。PD-1阻害薬が顕著な効果を示しことで、臨床開発における有効性のハードル設定も高くなった。免疫チェックポイント阻害薬の開発は、有効性の飛躍的向上を目指した併用レジメンへと舵を切っている

 

併用という新たな時代の幕開け

2015年、ブリストル・マイヤーズスクイブと小野薬品工業が開発するPD-1阻害薬オプジーボとCTLA-4阻害薬ヤーボイの併用療法が悪性黒色腫の適応で承認を取得。これは、免疫チェックポイント阻害薬にとって、併用という新たな時代の幕開けとなった。

 

この併用療法の有効性は単剤療法を大きく上回ったが、一部の患者には効果を示さず、有害事象の発現率も高かった(グレード3・4の有害事象は59%、CheckMate-067試験)。免疫チェックポイント阻害薬を開発する製薬会社にとっては、まだ開発のチャンスが残されているということであり、実際、多くの企業が「どうすれば有効性を向上させることができるのか」「最適な組み合わせは何か」ということを考え続けている。

 

Immune Checkpoint Inhibiter Clinical Trial

(Decision Resources Group提供)

 

6月のASCO(米国臨床腫瘍学会)年次総会で発表された大量のデータは、併用療法に関する新たな視点だけでなく、併用療法の開発で各社がどんなポジションにいるのかということについて洞察を提供した。

 

エパカドスタット+キイトルーダの試験中止が警告すること

免疫チェックポイント阻害薬の併用療法の開発について語るなら、インサイトのIDO1阻害薬エパカドスタットとキイトルーダの併用療法を評価した臨床第3相(P3)試験ECHO-301/KEYNOTE-252の失敗に触れないわけにはいかない

 

悪性黒色腫を対象としたこの併用療法には当初、大きな期待がかけられていた。P1b/2試験で、全奏効率(ORR)が55%、PFSの中央値が22.8カ月と、オプジーボ+ヤーボイに匹敵するデータが出ていたからだ。

 

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ところがP3試験では、併用療法群とキイトルーダ単剤群で、PFS(無増悪生存期間)とOS(全生存期間)のカプランマイヤー曲線に違いはなかった(PFS中央値は4.7カ月 vs. 4.9カ月、ハザード比1.00、P=0.517)。PD-L1やBRAFの状態などによるサブグループ間の所見は一致しており、post hoc解析(IDO1mRNA発現や腫瘍変異負荷など)を行うと発表されたが、得られる知見はそれほどなさそうだ。

 

エパカドスタットの失敗が業界を動揺させたことに疑いの余地はない。異なる臨床試験を比較する際、患者が少数のP1/2試験のデータを用いる場合は特に慎重にならなければならないということを思い起こさせる一件となるだろう。とりわけ、ランダム化P2試験を行わずにP3試験に進むリスクを改めて認識する必要がある

 

新たな併用療法でBMSは再浮上するのか

今年2月、ブリストルは、ネクター・セラピューティクスとのグローバルな協力の下、NKTR-214とオプジーボの併用療法を開発すると発表し、業界に衝撃を与えた。現金10億ドルと株式投資8億5000万ドル、あわせて18億5000万ドルという大型提携だと伝えられている。

 

この提携は、オプジーボをライバルのキイトルーダから守ろうとするブリストルが危険な判断を下してしまった、というのが大方の見方かもしれない。だが、NKTR-214とオプジーボの組み合わせには科学的根拠がある。この併用療法は、抗腫瘍免疫反応を強化する免疫細胞の産生を刺激することでオプジーボの作用を補完し、PD-1阻害薬に対するノンレスポンダーをレスポンダーに転換する可能性が期待される。

 

ただ、P1/2相試験PIVOT-02のデータは、これに対する回答というよりは、むしろ疑問を呼び起こすこととなった。

 

今年3月に公表されたP1試験のORRデータは、患者数は少ないものの興味深いものだった。しかし、ASCOで発表された最新のデータでは、登録患者数は増えたがORRは低下した(悪性黒色腫は85%→50%、腎細胞がんは64%→46%)。とはいえ、発表されたデータからは、腫瘍応答については作用の浸透に時間を要する一方、PD-L1陽性/陰性のいずれの患者にもベネフィットがあることも示唆された。

 

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今年のESMO(欧州臨床腫瘍学会)で、また新たなデータが発表されるとみられており、有効性データの成熟度に関心が集まることになる。悪性黒色腫を対象としたP3試験は、有効性の基準はPIVOT-02試験のORRで達成されたという前提で開始するとしており、この判断には賛否がある。エパカドスタットのECHO-301/KEYNOTE-252の教訓という観点からも議論の的になりそうで、あらゆる視線がこの試験に注がれることになる。

 

ASCO2018では、NKTR-214に加え、かなりの前治療歴のある患者を対象に、JTX-2011またはバルリルマブとオプジーボの併用療法を評価したP1/2試験のデータも発表された。対象患者は少数で追跡調査も必要だが、いずれの併用療法も期待の持てるデータだった。JTX-2011+オプジーボでは、PD-1阻害薬が奏効しなかった患者の一部(特にICOS発現レベルの高い患者)でも応答が認められ、バリルマブ+オプジーボでも免疫活性の低い腫瘍の一部が免疫活性の高い腫瘍に転換し、PD-L1の発現が上昇した。

 

免疫チェックポイント阻害薬+分子標的薬に関する主な発表

免疫チェックポイント阻害薬では、これら新規化合物との併用療法と並行して、すでに承認されている分子標的薬との併用療法の開発も進んでいる。開発する企業としては、併用によってベネフィットを上げていくのが狙いだ。その好例が腎細胞がんであり、現在、5種類の併用療法がスーテントを対照薬としたP3試験を行っている。

 

こうした併用療法は様々ながん種を対象にP1~P3まで数多く存在しており、その有効性と安全性のデータがASCO2018で発表された。主な発表を以下に列挙しておく。

 

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・転移性腎細胞がんを対象としたキイトルーダ+レンビマ[抄録番号4560]

進行腎細胞がんのファーストラインを対象に実施中のP3試験の前段となった、P1b/2試験結果のポスター発表(ORR、PFS中央値、安全性および忍容性)。

 

・未治療の転移性腎細胞がんを対象としたテセントリク+アバスチン[抄録番号4511]

進行中のP3試験で、患者報告アウトカムが大きく改善したことを示す口頭発表。

 

・転移性腎細胞がんに対するキイトルーダ+アバスチン[抄録番号4558]

進行性腎細胞がんのファーストラインを対象としたP1b/2試験の結果を示すポスター発表(OR、PFS中央値、安全性および忍容性など)。類似の作用機序の併用療法としては、テセントリク+アバスチンがP3試験段階にある。

 

・転移性腎細胞がんの術後療法としてのオプジーボ+アバスチンまたはヤーボイ[抄録番号4520]

P1試験試験の初期の結果を示すポスター発表。

 

・再発卵巣がんに対するキイトルーダ+ゼジュラ(ニラパリブ)[抄録番号106]

P1/2試験データの口頭発表(ORR、応答の持続性、安全性および忍容性など)。

 

・未治療のALK融合遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がんに対するテセントリク+アレセンサ[抄録番号9009]

P1b試験データの口頭発表(ORR、PFS中央値、応答の持続性、安全性および忍容性など)。

 

・前治療歴のある進行・転移性ALK陰性・野生型またはALK陽性の非小細胞肺がんに対するバベンチオ+ザーコリまたはロルラチニブ[抄録番号9008]

P1b試験データの口頭発表(ORR、安全性および忍容性など)。

 

(原文公開日:2018年6月12日)

 

【AnswersNews編集長の目】

前回に引き続き、6月に開かれたASCO年次総会から、免疫チェックポイント阻害薬に関するトピックをご紹介しました。

 

免疫チェックポイント阻害薬の開発競争は、併用療法が主戦場です。Decision Resources Groupの調査によると、各薬剤の臨床試験に占める併用療法の割合は、キイトルーダで66%、オプジーボで73%、イミフィンジで81%、テセントリクで71%、バベンチオで64%に上ります。

 

併用療法の開発をめぐっては、企業間の提携も活発です。メルクはアストラゼネカと組んでPARP阻害薬「リムパーザ」とキイトルーダの併用療法の開発を進めているほか、今年3月にはエーザイとの最大6100億円規模の提携も発表。抗がん剤「レンビマ」との併用療法の開発を行います。

 

オプジーボはヤーボイのほか、レンビマや第一三共の抗体薬物複合体DS-8201、協和発酵キリンのポテリジオなどとの併用療法を開発中。イミフィンジは、抗CTLA-4抗体トレメリムマブや分子標的薬イレッサ、リムパーザと自社品との併用療法の開発を進めます。

 

今後も、有望な併用相手をめぐる合従連衡の動きが活発化する可能性があります。

 

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。

 

【記事に関する問い合わせ先】
ディシジョン・リソーシズ・グループ(担当:斎藤)
E-mail:ssaito@teamdrg.com
Tell:03-5401-2615

 

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AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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