米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回は先週に引き続き、今年、治療が大きく進歩しそうな疾患を紹介します。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
原発性硬化性胆管炎
【主なプレイヤー】
インターセプト、ギリアド
【疾患の概要】
原発性硬化性胆管炎(PSC)と原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、異なるものの関連性をもった稀な進行性の胆汁うっ滞性肝疾患だ。胆管の損傷が胆汁流出を妨げ、その結果、管損傷や肝不全を引き起こし、最終的には肝不全に至る。
【現在の治療とアンメットニーズ】
これらの疾患がとりわけ厄介なのは、大部分が無症候性である点だ。症状が明らかになった時点では、すでに疾患が進行していると考えられ、深刻な転帰を伴う恐れがある。
疾患の徴候をつかむための診断は、侵襲的検査(肝生検)を伴うため難しいとされている。肝移植で疾患を改善できる可能性もあるが、ウルソデオキシコール酸とオベチコール酸(インターセプトのOcaliva)の使用が認められているのはPBCのみだ。
ウルソデオキシコール酸はPSCを対象に臨床試験が行われたが、効果はないとみなされている。
【期待される治療の進歩】
最近、核内ホルモン受容体FXRアゴニストであるOcalivaなど、いくつかの有望な新しい治療がPSCに登場してきた。インターセプトは昨年、PSC患者に対する薬理学的介入で、初めて肯定的なデータを出した。
ギリアドはPSCを対象にFXRアゴニスト(GS-9674)を開発しており、臨床第2相(P2)試験の結果は2018年の中頃になると予想されている。Ocalivaと同じ作用機序を持つことから、ギリアドのFXRアゴニストもPSCに効果があるということを証明できるだろうと期待が高まっている。
実際Ocalivaは、今最も注目されている肝疾患の1つである非アルコール性脂肪性肝炎に対して、P2試験で肯定的な結果を示している。
こうした要素が組み合わされば、これらの薬は患者たちに希望を与えるだろう。人生を変えるような非外科的治療が、彼らの治療に革命をもたらし得るからだ。
嚢胞性線維症
【主なプレイヤー】
バーテック、ノバルティス、ロシュ
【疾患の概要】
嚢胞性線維症(CF)は、輸送および/または膜内外塩化物と重炭酸塩輸送隊をコードする嚢胞性線維症膜貫通調整因子(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)の遺伝子(CFTR)の突然変異から生じる常染色体劣性疾患だ。
疾患の特徴は、感染や気道の閉塞、肺炎、膵臓の機能不全による栄養分の吸収の減弱だ。慢性肺感染と急性肺増悪はCFで最も頻度が高く、症状も重篤で、死亡につながることもある。
【現在の治療とアンメットニーズ】
気道機能の改善は、CF患者の転帰を改善し、生存率を上げるために極めて重要だ、一般的には、吸入抗生物質と粘液溶解薬を使う。もう1つの治療目的は、膵機能不全のような大きな合併症と戦うことであり、これは膵酵素補充によって行われる。
疾患修飾薬(DMT、すなわちバーテックス・ファーマシューティカルズのKalydecoとOrkambi)の導入は、CF治療に革命をもたらした。特定の特異的なCFTR障害患者には、現在、疾患の根底にある原因に対処する治療オプションがある。
バーテックスの治療薬がCF患者の長期生存にどう影響を及ぼすのか、それを知るためのデータは限られているということには注意が必要だ。しかし、われわれのインタビューによれば、これらDMTが近いうちに大きく変わると専門家らが考えていることは明白だ。
【期待される治療の進歩】
バーテックスは2018年2月、KalydecoとOrkambiに続く第3のCF疾患修飾薬となるSymdeko(tezacaftor/ivacaftorの配合剤)の承認を米FDA(食品医薬品局)から取得した。
Symdekoが対象とする患者はOrkambiと重複する(すなわちCFTRの療法の遺伝子がF508欠損型の患者)が、同時にユニークな患者集団にも効果を示す(tezacaftor/ivacaftorに反応するCFTR変異が少なくとも1つあり、この合剤に反応する可能性がない第2の変異を持つ患者など)。
個々の臨床試験を比較すると、Symdekoの有効性はOrkambiよりもわずかに高そうだというくらいだが、臨床データからは、Symdekoは薬物相互作用も少なく、忍容性も改善していることが示唆されている。
さらに期待されるニュースは、バーテックスが次世代コレクターVX-659とtezacaftor、ivacaftorの3剤併用療法を評価するためのP3試験を開始したことだ。
P2試験のデータによれば、3剤併用療法では、一方の遺伝子はF508欠損、もう一方は機能低下変異(F508del/min)を持つ患者で、有意に肺機能を向上させた。F508del/min変異を有する患者はDMTで治療するのが難しいことはすでに証明されており、このデータは特に目を引く。
この3剤併用レジメンのP3試験に引き続き、バーテックスは後期試験で、米国CF患者の80%以上を占めると言われる、少なくとも1つのF508欠損変異を有する患者で追加のレジメンを採り入れる準備をしている。
要約すると、Symdekoの承認はCF治療の前進を告げる合図だ。バーテックスの3剤併用療法は、いずれ治療に革命をもたらし、CF患者にとって人生を変えるような薬へのアクセス拡大につながるだろう。
鎌状赤血球症・地中海貧血
【主なプレイヤー】
ブルーバード・バイオ
【疾患の概要】
鎌状赤血球症(SCD)と地中海貧血(BT)は、β‐グロビン遺伝子の血管のため、正常なヘモグロビンを形成することができない血液分野の希少疾患です。
β‐グロビン遺伝子の突然変異は、SCD患者でヘモグロビンSの形成を導き、結果として赤血球を歪め、血管閉塞を引き起こします。一方、β‐グロビンの血管は、BT患者のヘモグロビンレベルの減少をもたらし、それが慢性貧血につながる。
【現在の治療とアンメットニーズ】
造血幹細胞移植は治癒をもたらし得る治療法だ。
対症療法(予防的なペニシリン投与、鎮痛薬)や定期的な輸血、鉄キレート療法は、併存疾患を抑え、多くの患者の命を伸ばした。しかし、頻繁な通院が必要となるなど、この標準療法はコストも高く不便だ。このため、多くの患者は、有効で便利な治療選択肢を必要としている。
【期待される治療の進歩】
遺伝子治療のような治癒が期待できる治療選択肢が見えてきつつある。SCDとBTはいずれも劣勢単一遺伝子障害で、欠損遺伝子の正しいコピーを導入することにより有益な治療をもたらすことができる。
ブルーバード・バイオのLentiGlobinは、SCDとBTの両方のために開発されているヒトβA(T87Q)‐グロビン遺伝子機能を導入したレンチウイルスベクターを使った遺伝子治療だ。
LentiGlobinの投与は複雑だ。患者の骨髄からC34+造血幹細胞を採取し、LentiGlobinの形質導入、そして形質導入した細胞の生体外への拡大と、多くのプロセスを踏む必要がある。
患者はLentiGlobinが形質導入された細胞を骨髄に再移植する準備として、ブスルファンによる骨髄抑制療法を受けなければならない。形質導入された細胞は、十分なレベルまで拡大されると、患者の骨髄に中心カテーテル方で輸注される。その後は、ほとんどの場合、患者の骨髄で再生着する。
遺伝子治療 2つの魅力
LentiGlobinによる治療には、2つの魅力がある。
1つは、SCDまたはBT患者に直接的な治療効果をもたらす、機能的なヘモグロビンの産生だ。
もう1つは、抗鎌状細胞生成性の特性を与える成人β‐グロビンのアミノ酸87をスレオニンからグルタミン酸に変異させる点だ。これはSCD患者にとってカギとなる有益性をもたらす。
さらにLentiGlobinには、内因性および外因性ヘモグロビンを区別して分析する能力があるなど、臨床試験で非常に役に立つ特性を備えている。
LentiGlobinのような遺伝子治療は、患者のQOLにネガティブな影響を与え、医療費の上昇を招くが、一般だけの処置で患者に長期の治療効果を提供できる可能性がある。
LentiGlobinに関連した治療が深刻なリスクをもたらす可能性があるにもかかわらず(特にブスルファンによる前処置に関するリスク)、LentiGlobinによる治療はSCDとBTの患者に治癒の可能性とQOLの改善をもたらす(例えば、輸血の負担解消や入院の減少など)。これは、ブスルファンによる前処置によるリスクを上回ると思われる。
2018年に得られる予定の臨床データは、LentiGlobinのような遺伝子治療のリスクとベネフィットについて、有益な洞察を提供するだろう。しかしながら、臨床試験の中間データからは、SCDとBT患者に対してLentiGlobinが標準治療にまさる利益を提供する可能性が示唆されており、治癒を可能とする遺伝子療法の新たな時代の幕が上がろうとしている。
(原文掲載日:2018年3月1日)
【AnswersNews編集長の目】医学研究や科学技術の発展を背景に、増加を続ける難病や希少疾患に対する医薬品。米FDAのまとめによると、2017年に米国で承認されたオーファンドラッグは18剤で、同年に承認された新薬46剤の4割を占めました。
製薬企業側もこの分野への取り組みを強めています。研究や技術の進歩に加え、市場が細分化されており競合が少なく、開発助成を受けられたり、高い薬価が付きやすかったりといった点も製薬会社にとって魅力です。
少し古いデータになりますが、米国研究製薬工業協会(PhRMA)が2016年に発表したレポートによると、米国で開発中のオーファンドラッグは560種類にも上ります。最も多いのは希少がん(希少血液がんを含め233種類)で、次いで嚢胞性線維症や脊髄性筋萎縮症などの遺伝性疾患(148種類)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経性疾患(38種類)と続きました。
世の中には約3万種類の病気が存在すると言われていますが、そのうち治療手段があるのはほんの一握りに過ぎません。オーファンドラッグへの取り組みは、今後も加速していくでしょう。 |
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。