日本の医薬品市場は向こう5年、先進国で唯一のマイナス成長となるとの市場予測を、米調査会社IQVIA(旧クインタイルズIMS)がまとめました。世界3位の規模を誇る日本市場ですが、薬価制度の見直しを背景に、その存在感が揺らいでいます。
INDEX
成長率 年平均マイナス3%~0%
IQVIAが3月14日に発表した最新の医薬品市場予測「2018 and Beyond:Outlook and Turning Points」によると、日本市場の規模は2022年に850~890億ドルで、18~22年の5年間の年平均成長率はマイナス3%~0%。先進国では唯一、日本だけがマイナス成長になる可能性があるとの見通しが示されました。
発表された市場予測の中では、日本がマイナス成長となる理由までは書かれてはいませんが、薬価制度の見直しが大きく影響しているのは間違いないでしょう。IQVIAは毎年、同様の市場予測を発表していますが、昨年は日本市場の成長率をマイナス1%~2%と予測していました。薬価制度改革の内容が明らかになったことで、成長予測を下方修正したようです。
今年4月に行われる薬価制度改革では、新薬創出加算の対象が大幅に縮小され、長期収載品の薬価を後発医薬品並みの水準まで引き下げる仕組みが導入。適応拡大で売り上げが拡大した医薬品は、薬価改定のタイミングを待たずに引き下げられることになり、21年度には毎年改定も始まります。
医療費高騰への懸念 市場成長にブレーキ
「近年、医療費の高騰に対する懸念が注目されている。医薬品支出の変化の主な要因のうち、いくつかはそれを押し上げるのではなく、支出を減速させるように見える。成長が減速する原因は、予算に関する保険者の懸念や価値を判断するための新たな仕組みに直結し、支出成長の可能性を制限している」
IQVIAは市場予測レポートの中で、医療費高騰への懸念が市場成長にブレーキをかけると指摘。直接名指ししているわけではありませんが、日本はまさに、これがマイナス成長という形になって顕著に表れたと言えます。
世界3位はキープするが…
世界市場は2022年まで年平均3~6%成長し、22年には1兆4000億ドルを超える見通し。米国市場は4~7%増で22年には5850億~6150億ドルに達し、欧州主要5カ国も1~4%の成長が見込まれています。
日本は先進国で唯一マイナス成長となるものの、米国、中国に次ぐ世界3位の位置はキープする見通しです。ただ、米国を100として各国の市場規模を指数化してみると、12年に24だった日本市場は17年に18に低下。22年には13まで下がると予測されており、存在感の低下は避けられそうにありません。
日本とは対照的にプレゼンスを高めているのが中国です。22年までの年平均成長率は5~8%が予想され、市場規模は22年に1450億~1750億ドルに達します。米国市場を100とした場合の指数も、12年の24から22年には28に高まる見通しです。
新薬創出加算の見直しは、日本への開発投資の縮小を招くと懸念されています。
MSDのヤニー・ウェストハイゼン社長は3月13日の記者会見で「どの品目を日本で開発するかとう投資判断に影響を与える。将来的にドラッグ・ラグを引き起こすかもしれないと懸念している」と指摘。ファイザー日本法人の原田明久社長も「業界全体として日本のパイプラインを見直そうという空気はある」と話します。
薬価引き下げに偏った医療費抑制策が続けば、日本市場は世界から取り残されてしまうかもしれません。
ジレンマは強まるばかり
ただ、薬剤費の削減圧力は今後も強まることはあれ弱まることはなさそうです。
IQVIAは、今後5年で発売される新規有効成分(年間40~45成分)の20%を、細胞治療や遺伝子治療、再生医療が占めると予想。こうした次世代のバイオ医薬品は、患者1人当たりの費用が10万ドルかそれ以上に達するため、「製薬企業と保険者、双方の課題は、こうした新しい治療アクセスを最大限にする新しい支払いと償還のパラダイムを作り出すことだ」とIQVIAは指摘しています。
「国民皆保険の維持」と「イノベーションの推進」、その両立が重要ですが、今回の薬価制度改革は「あまりにバランスが悪い」(MSDの白沢博満副社長)というのが製薬業界の共通認識。ノバルティスのCAR-T細胞療法「キムリア」をはじめ、今後も高額な薬剤が続々と登場すると予想される中、ジレンマは強まるばかりです。