米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回は、胃がん・食道がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の開発動向を取り上げます。この領域でも、免疫チェックポイント阻害薬は市場をリードしていくことになりそうです。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
世界で年間100万人以上が死亡
Decision Resources Groupの疫学調査によると、胃食道がん(胃がん、食道がん、食道胃接合部がん)は、すべてのがんの中で最も頻度の高いがんの1つで、世界で年間100万人を超える患者が死亡している。
臨床データを見てみると、進行胃食道がんは予後不良だ。今のところ、このがんに対する治療の中心はダブレット、あるいはトリプレットの化学療法レジメンで、このほかに2種類の非細胞毒性製剤が承認されている。
1つはHER2陽性がんの第一選択薬で、化学療法と併用するロシュ/ジェネンテック/中外製薬の抗HER2抗体「ハーセプチン」(一般名・トラスツズマブ)。もう1つは、フルオロピリミジンやプラチナ製剤を含む化学療法後に進行した患者に単剤またはパクリタキセルとの併用で投与するイーライリリーの血管新生阻害薬「サイラムザ」(ラムシルマブ)だ。
食道がんでは、非細胞毒性製剤は承認されていない。
免疫チェックポイント阻害薬 胃がん・食道がんでの開発状況は?
この領域ではこの10年、製薬企業の開発努力にも関わらず、多くの化合物が臨床第3相(P3)試験の壁に阻まれてきた。これまでP3試験に失敗した薬剤は、PARP阻害薬、HER2阻害薬、VEGF阻害薬、mTOR阻害薬、c-MET阻害薬、EGFR阻害薬、がん幹細胞阻害薬など多岐に渡る。
しかしここ数年、胃食道がんの開発パイプラインは大きく変化し、新たな治療法、特に免疫チェックポイント阻害薬については(開発の成功を)楽観視する向きもある。驚くことに、2014年10月以降、PD-1/PD-L1阻害薬を使った15本のP3試験が始まっており、開発の成功、そして胃食道がん治療の活性化が期待されている。
胃食道がんの適応で開発後期段階にある免疫チェックポイント阻害薬を見てみよう。
キイトルーダ(ペムブロリズマブ)
2017年5月、米FDA(食品医薬品局)は、米メルクの「キイトルーダ」(ペムブロリズマブ)について、2回以上の化学療法を受けたことのある再発・進行の胃がんまたは食道胃接合部腺がんを対象とする承認申請を受理した。同剤は優先審査の対象となっており、PDUFA(処方箋ユーザーフィー法)に基づく審査完了予定日は2017年9月22日だ。
申請の根拠となったP2試験「KEYNOTE-059」では、あるコホートで11.6%という奏効率を示した。食道がんを対象とした初期段階の臨床試験(KEYNOTE-028)でも有望であることが示されている。
キイトルーダは、胃がん・食道胃接合部がんを対象に、
▽治療歴のない転移性胃がん・食道胃接合部がん(KEYNOTE-062)
▽転移性胃がん・食道胃接合部がんの2次治療(KEYNOTE-061、KEYNOTE-063)
▽術後の胃がん・食道胃接合部がん(KEYNOTE-585)
など、さまざまなP3試験が進行している。
食道がんでも同様に、
▽転移性食道がんの1次治療(KEYNOTE-590)
▽転移性食道がんの2次治療(KEYNOTE-181)
など、複数のP3試験が行われている。
オプジーボ(ニボルマブ)とヤーボイ(イピリムマブ)
小野薬品工業は2016年12月、日本で「オプジーボ」(ニボルマブ)について、切除不能な進行・再発胃がんへの適応拡大を申請した。これは、アジアで行われたP3試験(ONO-4538-12)に基づいている。この試験は、2回以上の化学療法を受けた患者を対象に、オプジーボとプラセボを比較したもので、全生存期間(OS)で統計学的に有意なベネフィットが得られることを証明した(オプジーボ群5.32カ月 vs. プラセボ群4.14カ月、HR〈ハザード比〉:0.63)。
進行・転移性の胃食道がんでオプジーボと「ヤーボイ」(イピリムマブ)の併用療法またはオプジーボ単独療法を評価した「CheckMate-032」からもデータが得られている。奏効率はオプジーボ単独療法で12%、オプジーボとヤーボイの併用で24%だった。
胃がんを対象としたオプジーボ(ヤーボイとの併用)の開発では、
▽術後の胃がん・食道胃接合部がん(ONO-4538-38)
▽治療歴のない転移性胃がん・食道胃接合部がん(CheckMate-649、ONO-4538-37)
など、複数のP3試験が行われている。
食道がんでも、
▽術後の食道がん(CheckMate-577)
▽治療歴のない転移性食道がん(CheckMate-648)
▽転移性食道がんに対するセカンドライン以降の治療(ONO-4538-24)
などのP3試験が進行中だ。
バベンチオ(アベルマブ)
独メルクと米ファイザーの「バベンチオ」(アベルマブ)は、胃がんと食道胃接合部がんを対象に、ファーストラインの維持療法(JAVELIN Gastric 100)と、進行・転移性のサードライン(JAVELIN Gastric 300)の2本のP3試験で評価がなされている。
P1b試験「JAVELIN Solid Tumor」のデータによると、Bavencioによる維持療法の奏効率は9%で、2人が完全奏効。無増悪生存期間(PFS)の中央値は12週だった。一方、セカンドラインとして同剤を投与した患者では全奏効率が9.7%で、完全奏効は認められず、PFSの中央値は6週間だった。
5年以内に市場を支配
胃食道がんに対する抗PD-1抗体単独療法が、これまでの臨床試験で示したデータは有望で、オプジーボが日本で、キイトルーダは米国で、それぞれ承認申請に至った。さらに、オプジーボとヤーボイの併用療法はオプジーボ単独療法に比べて有効性が高いことが予備的なデータから示唆されており、治療歴のない転移性の患者でこれらの薬剤を投与できる可能性がある。
免疫チェックポイント阻害薬は、今後5年以内に胃食道がんの市場を支配する可能性がある。すべての食道がん・胃がん・食道胃接合部がんの患者に、化学療法にかわる治療選択肢を与えるだろう。免疫チェックポイント阻害薬は、細胞毒性製剤による化学療法レジメンが不応または不耐の患者にとって、忍容性の高い治療選択肢となる。
第2世代のHER阻害薬などが開発後期段階に
しかし、食道胃接合部がんの治療は免疫チェックポイント阻害薬だけでは不十分で、最適な治療を行うにはさまざまなクラスの薬剤が必要だ。幸い、免疫チェックポイント阻害薬のほかにも、血管新生阻害薬、第2世代のHER阻害薬、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害薬、治療ワクチン、新規細胞毒性製剤など、いくつかの薬剤が開発の後期段階に入っている。
また、初期段階の臨床試験では、CAR-T細胞療法、Claudin18.2阻害薬、OX40や4-1BBなどを標的とする新たな免疫チェックポイント阻害薬、キイトルーダとハーセプチンの併用療法、オプジーボとサイラムザの併用療法などの評価が行われている。
胃食道がんに対する広範かつ有望な開発パイプラインを踏まえると、治療は今後数年間で大きく改善される可能性が高い。しかし、多くの患者を満足させるためには、食道がんの療選択肢の拡大(開発後期段階にあるのはPD-1阻害薬だけ)、切除可能な症例に対するさらに有効な治療(特に日本)、最適な治療を受けるための患者の層別化などが必要であることに疑いの余地はない。
(原文公開日:2017年8月24日)
【AnswersNews編集長の目】胃がん・食道がんを対象とする免疫チェックポイント阻害薬の国内の開発状況を見てみると、胃がんではオプジーボが申請中、キイトルーダがP3、デュルバルマブとトレメリムマブ(アストラゼネカ)の併用療法がP2。食道がんでは、オプジーボとキイトルーダがP3試験を行っています。
オプジーボの胃がんへの適応拡大は、順調にいけば10月上旬ごろに承認される見通しです。キイトルーダは胃がんの適応で、世界に先駆けて日本で承認申請を行う画期的新薬を承認審査などで優遇する「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定されていますが、オプジーボに先を越されることになりそう。キイトルーダの先駆け指定が取り消される可能性も取り沙汰されており、そうした意味でも注目が集まります。 |
この記事は、Decision Resources Groupのレポート(2017: Gastroesophageal Cancer Disease Landscape and Forecast)をもとに同社アナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。レポートに関する問い合わせはこちら。